⑥七夕
七夕の日、明日歩はまだ学校へ行けない和馬を誘いに家に行きました。
呼び鈴を鳴らしても、なかなか出て来てはくれない和馬を、お父さんから借りた携帯電話をかけて呼び出します。
思った通りです。
和馬はしばらくしてから、はいと言って電話に出てくれました。
明日歩は、玄関のドアを叩きながら、家の前に居ることを伝えたのです。
すると、鍵が開く音がして、和馬が顔を覗かせます。
「一緒に、花火をしよう」
そう言って明日歩が、和馬の手を引っ張りました。
花火をするには、まだまだ早い時間です。
どうして明日歩がこんな時間に居るのか、不思議な和馬はきょとんとしたままです。
でも、その理由はすぐに分かりました。
時々咳き込む明日歩を見て、和馬は心配顔で見ます。
「オレ、風邪ひいちゃって、もう三日も学校へ行ってないんだ」
そう言われてみれば、さっき引っ張られた手が熱かった気がします。
「遊んでいて、大丈夫なの?」
和馬が、かすれた声で訊きました。
「ダメかも。オレ、超具合悪い」
それを聞かされた和馬は、固まってしまいました。
エヘヘヘと笑った明日歩が、和馬の手を取って走り始めたのは、その時でした。
明日歩は足が速い子。
ついて行くのがやっとの和馬でしたが、いつの間にか楽しくなって笑みがこぼれます。
「はい、終点」
公園に着くと、明日歩はそう言って和馬の手を放しました。
「あのさ、オレ、ずっと、かず君に謝りたかったんだ」
何の話でしょう。
和馬が、目を見開きます。
「もっと強く、康太を注意すれば良かった。先生に本当のこと、まだ言えてないんだ。本当に本当にごめんね」
熱が上がって来てしまったらしく、赤い顔をしてとても息が苦しそうに言う明日歩を見て、和馬は胸が熱くなりました。
「いいよ」
そう言って、和馬は満面の笑みを作ります。
「あのさ、誘っておいて悪いけど、オレ、また熱が出て来ちゃったみたい。帰ってもいいかな」
「うん、いいよ。そうした方がいいよ」
小さな声でしたが、はっきりと言った和馬が、また笑顔を見せます。
「お詫びのしるしに、これ、あげる」
和馬は首を傾げました。
お祭りとかでよく売っている、七色に光る笛です。
「吹いてごらんよ。変なおじさんが来るから」
ますます分からなくなった和馬は、きょとんとしたまま明日歩を見つめます。
「今日だけ、父ちゃん貸してあげる。ちょっと変わっているけど、結構面白いから。あと、本人にはオレが正体ばらしたこと、内緒な。案外こういうのに、こだわる人だから」
なかなか笛を吹こうとしない和馬に代わり、明日歩が力いっぱい笛を吹きました。
何かの合図なのでしょうか。
明日歩がニッと笑って、笛を和馬に戻しました。
そして、手を振って帰って行って行きます。