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⑩勇気

 和馬は、翌日から元気よく登校してきました。

 明日歩は、和馬より一日遅れの登校開始です。

 クラスは相変わらずバカなことを言っている昌幸の周りに人が集まり、秀雄が変な顔をして、笑わせています。

 克己はサッカー選手の話で盛り上がり、教室に入って来た和馬に、おはようと最初に声をかけてきたのは、康太でした。

 気まずそうな顔をする康太に、和馬は満面の笑みを向けました。

 本当のことは、秘密のままです。

 「牛乳は、自分の分だけ飲みなさい」

 朝、出かける時にお母さんに言われた和馬は、ラジャと、敬礼してから登校してきました。

 神崎先生も長かった髪を切って、前より張り切っているように見えます。

 話すのはまだ苦手な和馬ですが、一言、二言、会話をするようになり、みんなが喜んで話し掛けます。

 給食の時間です。

 康太が牛乳を一口飲んで、和馬にピースサインです。

 和馬が学校に来れなくなってしまった間、康太の居場所はなくなってしまっていました。

 誰かが特別、何かを言ったわけでも、されたわけでもありません。それでもみんなの視線が刺さる感じがして、仕方がなかったのです。辛くて悲しくて苦しくて、こんな思いは嫌だと思いました。

 そんな時です。

 明日歩が言ったのです。

 「オレ、かず君に会って、謝って来る」

 「どうして明日歩が謝んだよ」

 「だって、オレも共犯者だから」

 目を大きくする康太に、明日歩は謝りました。

 理由なんて分かりません。

 「オレ、もっとちゃんと、康太を止めれば良かったって思ってさ」

 そう言って、満面の笑顔です。

 「ああ言えて良かった。すっきりした」

 明日歩は、そう言いながら克己たちの話に加わって行きます。

 ちっぽけな勇気だけど、康太も振り絞ってみようと思ったのです。

 放課後、自分で神崎先生に謝りに行った康太を、神崎先生は目を真っ赤にして、抱きしめました。

 神崎先生は、康太が自分の口から話してくれるのを、ずっと待っていてくれたそうです。


 そしてもう一つ、勇気を振り絞らなければならない時です。


 もの凄い顔をした康太を見て、和馬が笑います。

 「かずくん、あのさ、あのね……、ごめんなさい」

 やっと言えました。

 「いいよ」

 にっと笑って言う和馬を見て、康太は嬉しくなって、もう一口牛乳を飲んで、また変顔です。

 

 嫌なことがあったら、あの魔法の言葉を唱えればいい。

 ”カランコエクエフンワカフンワリプーワプワ”

 



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