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#9 The crash in a shadow/影の中の激突

「ここなら多分見つからないと思います。」

 少女を抱え、マルク達がやって来たのは、時計屋の地下にある作業場だった。

「何があった。息切らして帰ってきて、しかもお土産付きだ」

 電球を付け替えながら、カルロが少女を見た。明かりが付くと、少女の服に着いた血がよく見えてしまう。既に少女の腹部には包帯が巻かれ、応急処置は終わっている。

「病院に連れて行ってやりたいが、この状況じゃ無理そうだな。何より、クロが来るまでで待たなきゃいけねえ」

 緊張の糸が切れたのか、リックが大きく息を吐いた。

「それにしても、クロさん大丈夫かねえ…?」

 妙にジジ臭い口調なのは、リックの義兄弟の一人であるキースだ。

「しかしあの人なら大丈夫だと思うね。クロさんは相当強かったね」

 語尾に「ね」を入れたがるのもリックの義兄弟であるマーク。彼らも今日一日、クロたちに同行していた。

(特に言及はされてなかったね)

(そうだねえ…)

 誰にも聞こえない声で、モブキャラ認定されかけている二人はしみじみと呟いた。


 ******


咎人に矢をフレイチャ・ボラー

「クソッ!!」

 その頃クロは、謎の魔術師との戦闘を続けていた。先程よりも操ってくる矢の本数が数倍に増えている。数十本の矢を避け、切り落として応戦するが、

(このままじゃジリ貧だな…手加減して倒せる相手じゃねえって事か)

 実際、クロは本気の50%程度しか出していない。しかし、相手も同様に手加減していた。

 50%の時点では、互角。

 勝つには、出力を上げるしかない。

解除リベレシオン

 クロは数歩後ろに跳んで、距離を取ってから、短剣を炎に戻した。

「7割を出してやるよ。とっとと終わらせる」

「奇遇だね。私も同じことを考えていたのだよ」

 魔術師はMODを構え直し、

炎剣練成クリエシオン・スパーダ

咎人に矢をフレイチャ・ボラー

 それが合図となった。今までとは比べ物にならない数の矢が一気に出現し、クロはその矢を炎の剣で切り落とす。

(これで決める!)

 クロのガントレット、正確にはクロのガントレットの先に出現した魔法陣が、矢に引火した火を吸収していく。

「…焔のトルメンタ・

 すべての炎を吸収しきった後で、炎が、風と共に吹き出した。

フェーゴ!!」

 巨大な炎が、渦巻く風に乗って一直線に矢の魔術師に襲い掛かる。

原文オリジナルスペルか…確かに、天才と言われるだけはあるようだ」

 数百本の矢が波のようにになって炎の波と激突する。その衝撃に、路地のゴミ箱や張り紙が熱気とともに吹き飛ばされていく。

「うおらああぁぁぁぁぁぁあああ!」

 炎の勢いが増し、矢に競り勝った。炎が魔術師の体を包み込む。クロが勝利を確信したその時、


「…しかし残念だ。」


 クロがその背後に気配を感じた時にはもう、彼の体には数本の矢が刺さっていた。痛みにのけぞった瞬間に背中に蹴りを入れられ、路地の壁まで吹き飛ばされた。

「君はまだ青すぎる。…とは言っても、こちらもそれなりの傷は負った。」

 見ると、男は体の半分ほどに決して軽くない火傷を負っていた。壁に寄り掛かるクロを見下すような形になりながら、男は帽子の位置を直して続ける。

「この状態で君を殺すのは簡単だが、無力化が出来た今はその理由が無い。」

 マルク達を守る為に立ち上がろうとしたクロを見ながら、それに、と男は付け加えた。

「君のお友達が標的を何処に匿ったのかも今すぐには分からない」

「…調べようと思えば分かるって事かよ」

 荒く呼吸をしながらクロが質問するが、男の顔からは答えは窺えそうにない。

「どうだろうね。しかし、今日はお互い災難な日だったと思う事にしよう」

「…お前の名前は?」

「エドウィン・マクリット」

 名前を教えてくれたことに内心驚いたが、拭えない不信感に目を細めた。

「次に仕事で会えば、容赦はしないぞ、アライスト・クロウィリー。せいぜい、君の若さを経験で少しでも磨いてくるといい」

 エドウィン・マクリットと名乗った男もかなりダメージを負っているのか、ふらふらとした足取りで、しかし強い存在感を出しながら、闇へと溶けていった。


 ******


「…なんで、俺の名前知ってんだよ…」

 クロもナーファには全く及ばないが、多少の医療魔術の心得はある。矢を引き抜いてガントレットを傷口に当て、回復を始めた。それと同時に、ポケットから携帯を取り出して連絡先を選択する。カーソルを合わせたのは、幼馴染の少女の名前だった。

(こういうのは情けないから嫌なんだけどなあ…)

『はいはーい。どうかした?クロ』

「いや…ちょっと頼みごとがあってな…はは…ッ痛!」

 口調こそいつもの彼だが、満身創痍の状態での弱々しい声と痛みは、どうしても隠せなかった。クロがしまったと思った時には、まくしたてるレヴァの声が耳に響いた。

『クロ!どうしたの!?怪我してるの?今どこにいるの!?』

「そう大声出すなよ…俺なら大丈夫だ。それより、ナーファ先輩と隊長は今居るか?」

『二人とも部屋だと思う』

「そうか。そしたら、今から地図を送るからその中の時計屋に行ってくれ。隊長たちも一緒にな」

『何があったの?』

 冷静に質問するレヴァに、クロは少し黙って、それから口を開いた

「魔術師と闘った」

『は?』

「路地裏で何故か魔術師に襲われている一般人を見つけてな、そいつは今、俺のダチが時計屋で匿っている。そいつも結構怪我を負っていたからな。治療して詳しい事情を聞いてやってくんねえかな?俺も後から行く」

『クロ、今動けないぐらいボロボロでしょ』

「ッ…」

 言葉に詰まった。こういう時だけレヴァは無駄に鋭い。弁明する暇も無く、

『今すぐ行くから。その人も、クロもみんな助ける』

 そう言って、レヴァに一方的に通話を切られてしまった。クロは路地裏で一人、

「…情けねえなあ」


「…負けちまったよ。俺はまた…」


 そう呟きながら、俯いた。気付けば、空は滴を落とし始めていた。


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