#5 Octopus extermination:2/タコ退治:2
マルコシアス。伝承では確かソロモン72柱の悪魔の一柱とされている魔神で、グリフォンの翼と蛇の尾を持った黒い狼の姿をしているという話だったか。と映像を見たクロは漠然と考える。少し間をおいて、レヴァが質問した。
「新種の魔物ってだけなら、普通の調査班やこの近くで暇してる魔術師でも集めて部隊編成するので十分だと思うんだけど、なんで私たちにこの作戦の依頼を?」
ナーファもそれに続いて、
「自分で言うのもなんですけど、なんでこんな動かすのも面倒な部隊にわざわざ依頼するんです?」
確かにそうだ。ディーオスは特殊すぎて基本的に他の部隊が行うような作戦は行わせてもらえない。魔物の調査もその「他の部隊が行うような作戦」の一つにカテゴリされるのだが、他に何か理由があるのかもしれない。
「そ~れは~、で~すね~」
回答はアグリルの口からではなく、コールのそれから出た。
「この~、魔物は~、少々~、特殊な~んで~すよ~」
「特殊…ということは?」
テイラーが聞き返す。
「この個体は、何故か人を殺さないんです。というより、「殺す気が無い」と言わんばかりにヘスティアの隔壁だけを破壊して消えるんです。それに、奇妙な情報もありまして」
「コイツか」
クロが近くにあったレポートの一つを取ってひらひらと振り、書いてあった内容を要約する。
「映像のそいつが消えたと思ったら、そこから近い位置に一瞬だけ男が見えていなくなった、という目撃情報があるって事だろ」
「その通りです。それと、破壊されたヘスティアの隔壁は全て、一撃で全五層のうちの三層目まで壊されています。推測ですが、我々としては恐らく第六類レベルの能力を持っている、と考えています。」
アクディアでは、魔物は0~7の八段階で表す1が最低、7が最高で、0は未知数、調査不能と認定された魔物が分類される。そこから考えるに、マルコシアスの第六類はかなりの大物、という事になる。
クロはレポートを近くに置き、面白いゲームを見つけた子供のように立ち上がった。
「要するにそいつを倒せばディーオスの株も上がって、おまけに魔物の研究にも役立つってことだな。」
レヴァが驚いた様子で「クロがやる気になってる…?」と呟いているが、そんな事は聞こえていない。
「そうと決まったらさっそく作戦を…」
「そ~のま~えに!」
と、テイラーが立ち上がろうとしたところでコールが制止した。例の如く、アグリルが話を引き継ぐ。
「皆さんにはこなして欲しい任務がいくつかあります。」
そこで四人はほぼ同時に首をかしげ、レヴァが
「私たちってそのマルコシス…マルコシシャ…マリュキョ…」
「マルコシアスな」
「そう!そのマルコシアスの調査のために派遣されたんだよね?」
「ですです」
ナーファも頷く。アグリルはその問いに対して少々申し訳なさそうな顔をしながら、
「実はまだこちらも調査対象の個体を捕捉できていないんですよね。概要を早めに説明したかったので来て頂いたのですけど、我々が情報を集める間、皆さんには南方の魔術師の方と討伐任務に出て頂きたいのです。」
そうか、それじゃあ頑張ろう、と士気を高めるディーオスメンバー。しかし一人だけ、その中の入れない男がいた。
クロはアグリルの話を聞きながら、ただ考えていた。いきなりやる気を出した後のお預け宣言のせいかもしれない。レヴァに振り回されたせいかもしれない。それともただ自分の体調が悪いだけかもしれない。いずれにせよ、
「…帰りてぇ…」
天井を仰いで、小さくそう呟いた。