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#3 A certain day of summer:2 / ある夏の日:2

「…何だろうな」

 レヴァとともに定時探索を続けるクロは、何やら異様な気配を感じていた。

「何が?」

「何がって訳じゃないんだけどな…何かなんだよ」

 曖昧な答えにレヴァが怪訝な顔をこちらに向ける。無理も無いな、とクロが心の中で小さく溜め息をつく。クロ自身、この異様な気配がどこから来るのか、何が原因かも把握できていない。そもそも、自分たちの周囲には魔物確認されない。だからこそこの悪寒が確信か思い過ごしかも判別できない。

「まぁ、あんまり考えすぎてると大事な時に身体が動かないよ。アメでも食べて落ち着こうよ」

 そう言ってイチゴ味の飴玉を口の中に放り込む同僚を見て、別の意味での不安感が増してきた。

「…さすが自称17歳の小学生…緊張感が全く無ぇ……」

「小学生じゃない!私はちゃんと訓練課程も終わったし、年齢認証だってしてるよ!」

 頬を膨らませてクロの顔を見るレヴァ。クロの173cmの身長に対し、レヴァは140cm程しかない。

この身長や子供っぽい言動をクロは毎日のようにいじり続けている。歯をむき出しにしながら腹に突撃してくるレヴァの頭を片手で抑えながら、クロは右手に装着した、どちらかというと鉄製のグローブに近い形状のガントレットを握りしめた。

(とにかく、何かあったらすぐ動けるようにしなきゃな)

 

 そう考えた時だった。

 上空の方向から僅かな音が聞こえた。鳥が羽を動かしているような音だが、そんな音は普通の生物が生息していない居住不可地域では聞こえない。クロの中で、悪寒と羽の音という、二つの情報が合致した。

「上だ!!」

 クロが叫ぶと、レヴァが素早く反応して後ろに跳ぶ。その着地とほぼ同時に、上空から複数の針が突き刺さった。針の周りの粘液は、周囲の地面をドロドロに溶かしていく。

「アレ喰らったら洒落になんねえな…」

 上空からの襲撃者の正体は、二人ともすぐに予測はついた。コウモリのような翼にサソリの毒針が付いた尾。そしてライオンの体と人面を持つ魔物―マンティコアだ。

 クロは耳のインカムを起動させて、オペレーターと連絡を取る。

「一匹見つけた!種類はマンティコア。針が少し強いから、無駄に怪我人が出る前にここで叩いちまった方がいいと思うんだけど。」

オペレーターは呆れた声で、

『止めても戦うじゃないですか』とつぶやく。

それを同意と受け取ったクロは、レヴァと共にマンティコアを見据え、それぞれの得物を構える。

 MOD。彼らの武具には、魔力の操作能力が退化した現代人の為の魔力誘導端末が接続されている。これらの武具や装飾品を携行することで現代魔術師は術式を発動することができる。

「レヴァ、俺が後ろに回って崩す!お前は正面からブチ抜け!」

「分かった!」

 器用に羽を動かし地面ギリギリの所をなぞるように突進してくるマンティコアの腹の下を、クロはスライディングでくぐり抜ける。

属性は炎・(ウナ・ジャマス・)大剣練成(エスパーダ・グランデ)!」

 後ろを取ったクロはすぐさま炎の大剣を創り上げ、二本の後ろ足を切り裂く。

「グゴオオオォォォォォ!」

 雄叫びを上げながら崩れ落ちる獅子に向かって、レヴァが箒を構て地面を蹴る。獅子は尾を最大限伸ばし、毒針を敵に向かって発射する。その動きを読んでいた少女は、すぐさま術式を発動する。

妖精三柱(トレス・アダス)

 その呼びかけに呼応して、出現した魔方陣から小さな妖精が三匹、颯爽と登場する。さらにレヴァは命令を続ける。

防御(ディフェンサ)

 声を受けた妖精たちは、規則正しい三角形を作り、防御用の結界を構築した。透明なガラスのような壁に衝突した針は、簡単に弾かれる。

 彼女の使用する術式は召喚魔術と呼ばれるもので、魔力を使用して生み出した生命体を使役して戦うスタイルを取る。この結界もその応用で、召喚した僕に間接的に魔術を発動させ、発動時間の高速化と術者の負担の軽減を実現している。しかし、彼女の『応用』はこれだけではない。

隊列変更(カンビオ・デ・ランク)

 妖精は指示を受け、お互いの位置を調整し、結界を広げながら前へ飛ぶ。レヴァは箒を構え、自分の体を包み込むほどの大きさになった結界へ突っ込んでいく。そのまま、彼女はコンボの最終技の名を唱える。

光の槍・突(ランサラズ・ラッシュ)!」

 箒の柄を結界に触れさせ、術式によってガラスのような境界面を歪ませる。それは、一本の槍の先端のような形状になり、そのままレヴァはマンティコアへ突撃していった。

「グギュゴォォォォォッォ!」

「はぁぁぁぁアアアッ!」

 マンティコアの爪がレヴァを捉える前に、槍は魔物の急所を貫き、確実に捉える。

「ウグッ…ガカッ…」

 生気を失ってゆく獣は、黒い霧になって消えていった。二人は周囲に他の魔物が潜んでいないことを確認してから、クロがオペレーターへ無線を繋げる。

「とりあえず倒した。他にはいなさそうだから、これより帰還しますっと。」

『第五種の魔物を二人で…いつも凄いですね』

「まあ、そういうのを上層部(うえ)は俺たちDIOS(ディーオス)に求めているらしいからな。」

 そこで、マイクを落としたような雑音が聞こえ、次に聞こえてきたのは何故か男の声だった。

『よーく分かってんじゃねえか。さすがは俺の部下だな』

「なっ…その声は、隊長!?なんで通信棟にいるんですか!?今日は非番じ」

『そんな事よりお前たちに業務連絡だ。早く帰って寝たいから端的に説明するぞ。明日からお前たち定時探索はやんなくていいから』

「はい?それはつまり…」

『あれだ。新しい任務ってところだ。今回は四人総動員だからな。帰ってきたらブリーフィングやるぞー。じゃあな』

 無線はそれで終わった。クロは話の内容が分からず首をかしげているレヴァの方を向いて、

「新しい任務だとよ。今回はメンバー総出でやるらしい。」

 と、ため息をつきながら伝えた。それだけでは要領を得なかったのか、レヴァがクロに問いかける。

「誰が言ってたの?」

「うちの隊長さんだ。通信棟でアマギのマイクをかっぱらって話しかけてきた。」

「それはアマギさん災難だったね…」

 アマギ、というのはいつもクロと通信をしているオペレーターの女性の名らしい。

「まあ、とにかくこれで俺達は久しぶりに特殊部隊らしい任務に出れる訳だ。内容がどうであれ、頑張ろうぜ。」

 少年の言葉に、少女は満面の笑みを浮かべて頷いた。

「うん!」

 二人は、歩き出す。

 ある夏の日。

 この日が、彼らの運命の物語の『二度目の』始まりだった。

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