少年編 9
長さが微妙なので纏めました。
――遥か昔
――『白銀の時代』などではない遥か遥かなる昔の話だ
――三女神は大地を創り、世界樹ユグドラシルをそれを見守るよう天空の庭園に植えたもうた
――世界樹はマナを生み、精霊を育む
――そして精霊は他の命との架け橋となって、世界樹の望む調和の世界を築くにいたった
――それから長い長い時が流れた
――しかし今より遥か昔だ
――ある聖霊と一つの生命との間に子供が産まれた
――何もおかしいことではない
――長い時を一緒に過ごして会話と情を交わせば誰にでも起こりうる事だ
――問題はその命があまりに強大な力を秘めていたことだ
――同時にあまりにも聡明であった
――強大な力と長命を持っていたが為に
――その力を放棄せんが為に
――彼は短命で、かつ一芸にのみ秀でた種と交わり、その力を分け与えた
――動物だ
――最初に狼が鼻を
――次に鴉が知恵を
――次いで虎が力を
――兎が耳を
――狐が魔力を
――龍が目を
――最後に牛が徳を与えられ
――その身に獣の力を持つ『獣人』は誕生した
――彼は力を失い、寿命を縮め、その身を海へと投じた
――自らが産まれた罪に彼の涙は石となり
――彼を覆いつくした後も石は少しずつ成長し
――やがて大陸の南の沖には彼の涙によって生まれた島が現れた
――かくして生まれたその島は精霊の力色濃く
――自然の生命力溢れる深緑と獣人の聖地となった
「それがシュバルツラントに伝わる獣人創造の伝承さ」
四方の壁が石肌が剥き出しのそう広くない部屋で、マイスは一人の青年と向かい合っていた。
カーロンと名乗った男はマイスの一回りほど年上だろうか。体格的にはマイスより一回り小さいが、全体的にがっしりとしていて逞しい印象を受ける。
彼の部屋に招かれ、聞かされた話はマイスにとって初めての昔話だったが、彼にはそれを受け入れるだけの余裕は無かった。
見知らぬ場所で目覚め、幼馴染は行方知れず。そして彼は初めて、自分の育った場所を知らない事を知ったのだった。
地図を前に何処へ行けばわからない彼を、カーロンは自室へ誘った。そして語ったのは先の伝承だった。
「それが僕に何の関係がある?」
「色というものは時代の象徴とも言われていてね?特に支配者たる皇族は髪と瞳が同一で産まれるのだよ。そして貴族の髪にも同じ様に現れ始めてね。例えば今の皇族は美しい金髪金眼ゆえ『黄金の時代』と言われている」
金色と聞いて、彼の中に幼馴染の姿が浮かぶ。だが彼が支配者?あまりの不釣合いに想像が出来ずに眉をひそめる。
「……統一帝アデスは獣人族の一人を娶った。始祖より魔力を受け継ぐ金狐族の娘だ。以来皇族をはじめ貴族には金の髪を持つ者が生まれるようになる」
だが、と一度言葉を切ると
「統一帝以前は『白銀の時代』と呼ばれて、その通り皇族に現れる髪と瞳の色は初代皇帝ガルクバストと同じく『銀』なのだよ」
静かに、彼は少年の目を見つめた。些細な動揺も見逃すまいと。
「マイス。君は何者だ」
誰何ではない。疑問でもない。だがまるで嵐の前のように、部屋の空気が重く、息苦しいものに変わる。
「その髪と、瞳。紛れも無く『白銀の時代』の皇族のみが持つものだ」
知らない。そう言おうとして、喉から漏れたのは呻きだった。せめてもの、首を振る。
「聞いたところ君の幼馴染は紛れも無くこの『黄金の時代』の皇族だ。彼は何者だ」
知らない。僕達は村で一緒に住み、一緒に育った。それだけだ。言えずに、激しく首を振る彼の中で何かが爆ぜる。
「……獣人の血を引く人間が罪と情と共に流す涙は『精霊石』となる。その始祖と同じく」
必死に首を振る彼の涙が宙を舞い、キラキラと光を弾いて
「今の君と同じく、だ。それこそが、輝士の条件なのだよ。そして」
チャリ…小さな音を立てて、結晶となった彼の涙は床で跳ねた。
――精霊との情を交わした者の末裔
――罪の涙が石に変わる者
――その涙は、精霊の心の欠片
――取入れたるは、精霊の心を手に入れること
――即ち。輝石を操る力を得る
「それに気付いた人間がいる」
男は欲深い。
例えば金。
例えば力。
例えば権力。
そして溺れるに時間はかからない。
そうなれば、いくらでも御せる
溺れて、見境無しに女達に子供を産ませるだろう。
女は逆の意味で御しやすい。
体は小さく。
力は弱く。
心は弱い。
人の尊厳を踏み躙り虐待し壊し。
永遠の絶望に涙し続けながら、自分と同じ運命を辿る子供を産む。
――『晶女』
彼女達はそう呼ばれて狩られ奴隷のように使い捨てられる。
男であれば知らされる事無く都合の良い道具として使われる。
「マイス。改めて聞こう」
――父親は何をしていた?
――母親は君を産んだ後何処へ行った?
――君は聞いたことが無いか?
――『親の居ない子供が多い村』を。
――父親の居ない『子供を連れて帰ってきた母子』を。
――大戦以前の貴族以上しかもたない銀髪が異様に多い村を。
「嘘だ……嘘だ!」
「君より三年早く村を出たあの銀髪の晶女……芯のある強い娘のようだが、それだけに人並みの幸せは適わん。
……もはや子など産めぬ体だろうよ」
「嘘だああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
序章 終
少年編……というか章で分けるには中途半端だと最近知りました。
どうしたものか…。




