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帝国の地術士  作者: 玉梓
序章
8/36

少年編 8

※作中イラストがあります。

誇れるほどではありませんので苦手な方は右上『挿絵OFF』設定を推奨

次回からエピローグと次章導入になりますので、事実上少年編ラストです

 魔法の消えた大陸に残る超常なる力。


 鉱石に宿る精霊と意思を交わし、意のままに操る者。


 彼らが纏うは輝く意思持つ鉱物。


 自在に形を変え、意思を以って自らの主を護り、同時に超人的な力をも主に齎す。


 その輝く鎧を纏う大地の使者を『輝士』という。

 

 後方にいた二人の弓兵の首を鞭の一振りで刎ね飛ばしたセルビアの頭上を影が覆った。一瞬遅れて金属が弾かれる音が二つ。

「見ぃつけたぁ」

 彼女を覆った影は青銅の円盤。飛来する凶器より主を護るべくその腕を伸ばしたのだ。

 ぞくりと背筋が凍るような笑顔を浮かべ、彼女は木の枝を見上げた。その笑み見てしまった二人の不幸な男達は体が凍りつくような恐怖に息を止めてしまうほどであった。残された彼らの僅かな幸運は、その人生の残り時間がたった僅かでしかなかったことだろう。

 円盤が薄く何層にも分かれ、それは高速で回転すると共に一本の木をその陰に隠す狙撃手共々ズタズタに寸断した。森の道に悲鳴と共に血と肉の雨が降り注ぐ。

「さぁ、出なさい。いい?一つ前の関所まで戻って保護してもらうのよ」

 馬車の扉を開けて、セルビアは少年達を引き出す。

「貴方は!」

「私は輝士だけど騎士ではない。いいこと。ここで見たことは忘れなさい!」

 有無を言わさぬ迫力でもってセルビアは二人を突き放した。口にこそしないが従わなければ殺すとまで言わんばかりであり、その恐怖に抗えるほど少年達は強くなかった。

「さて。洗い浚い話してもらいましょうか」

 二人の背中が馬車から離れるのを確認して彼女は改めて己の敵へと向き直る。

 青銅の幕が左右に開かれ、血の舞台の主を包む。頭からつま先までを優しく包み込んだ青はその形を鎧へと変えた。


 その姿を一言で言うなら一枝の薔薇の花のよう。


 両の具足は細く。

 胴から肩、腕に掛けては生茂る葉に包まれたようであり、全身を覆う茨は右腕の刺突剣へ。

 そして左手には大輪の薔薇の盾。

挿絵(By みてみん)

「観覧者がおりませんから、ここからは大人の時間でしてよ?」


「マリオン!? 何してるんだ!」

 マイスは隣を走っていたはずの幼馴染がその足を止めた事に驚いていた。

彼はどちらかといえば言われた事を忠実に、しかし絶対に守るような人物で途中で疑問を持ったり反対するような男ではないのだ。

「マイス、やっぱりあの人を置いてはいけない!」

「俺達に何が出来るっていうんだ! あの人は俺達が幾ら束になっても勝てやしないだろう!?」

 たぶん、夢にまで見た存在が目の前にいた。

 それが彼をあの場所へ連れ戻そうとしているのだろうマイスは確信していたが、自分達の力が輝士の指先一つに敵わない事など彼は熟知しているだろう。

 危険な場所へなど絶対に行けないというマイスに、マリオンはだからどうしたと頑固としてうけつけようとしなかった。

 そこへ。空気を震わせて何かが爆ぜる音が轟く。聞いた事も無い爆音にマリオンはついに制止を振り切って駆け出した。

「必ず戻る!」

 ――皆を護って。

 懐かしい太陽と草の香りの中で聞いた声が、脳裏をよぎる。

「ああ! もう! 何かあったらガラテア姉さんになんて言ったらいいんだ!」

 歯軋りするマイスだが、覚悟を決めて駆け出そうとした時、ガサリと草陰が動く。混乱する彼は、それへの反応があまりに遅かった。

 

「随分と危ない物をお持ちだこと……それの出所も聞いておきましょうか?」

 頭一つ高い男の首を掴んで片腕で掴み上げるセルビアの纏う青銅が、爆音で砕けた。

 硝煙を上げる短銃をセルビアの肩に当て、男は血塗れの顔を歪ませていた。

 一介の兵士が、輝士に勝てる可能性は万に一つ。

 最弱の青銅ですら武器としては鉄をも切り裂き、防具としては並の腕力では傷一つつかない。

 おまけに死角の攻撃は『輝石の意思』で守られ、更には輝士の身体能力を大幅に上げてしまうのだ。

 逃げる事も出来ずに絶望し、生き残る為の努力はいかに自分を殺さない事で利益が出るかを並べ立てる口が必要になる。

 そうでなければ、玉砕覚悟で立ち向かうしかない。

 彼のように。


「輝士様!」

 逃がした筈の少年の声が背後から聞こえる。それよりも、遥か前方に見える小さな騎兵が彼女の意識を一瞬奪った。

「はあ……ついてないわ」

 その一瞬でずしり、と腕の中の男の体が重みを増す。脱力した腕から銃が落ち、男が自ら命を断った事を悟ったセルビアは溜息をつかずにいられなかった。

 大きな一呼吸で気持ちを切り替えると、青銅の鎧は再び馬車の外装へと戻った。

 人の振るう剣くらいであれば容易に阻む鎧だが、それ以上の破壊力を持つ鈍器や武器には青銅では耐えられない。肩当てを砕いた銃弾は鎖骨を掠めて皮膚の下に半ば埋もれてしまい、右腕の稼動に支障を感じる。

「輝士様! 怪我を!?」

 濃紺のドレスが紫に変わるのを見て、金髪の少年は純粋に心配しているようだ。こういう従者がいるのも悪くないな、と短銃を拾い上げる彼女は内心久方ぶりの純粋な笑みを浮かべていた。

「なに。輝士も人間さね。そんな事よりホラ。あれが正真正銘このダイスの騎士さ」

 拾いあげた銃の先を持って銃床で近付く騎兵を指す。その銃床は次の瞬間嬉々とした顔でその先に視線を向けている少年の首筋へ。

「我々はダイス領オールズ子爵家の騎士だ。これは何事か」

 意識を失ったマリオンを足元に、セルビアは胸元の淡く光る青銅の薔薇を掲げる。

「輝士セルビア・ヴァン・ゼノスコートよ。負傷の為任務の引継ぎを希望する」

人外の主役。花形。『輝士』やっと出せました……。

ここだけは絵付でやりたかった!

花形ですから!花型だけに(ぉぃ

ドレスの色間違えましたorz


お読み頂きありがとうございます。

青年編はまだ書き溜めが3割ほど。

ご意見ご感想頂けると励みます……。


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