82話 資料庫の主
高くそびえる本の壁。
たくさんのその壁に圧倒されながらもあたしはわくわくする気持ちが抑えられなかった。なんて天国な世界。知識の宝庫のようなそこは城の資料庫だった。秘蔵書物や文書の類いは奥の魔法鍵のついた保管庫に納められているらしい。資料庫だというのに絵本のような物からそれこそA2サイズ、つまりA4コピー用紙四枚分のでかい辞書のような物まで
種類は様々あって、分野も魔術書から政治関連、医学書までいろんなジャンルの物が並んでいた。
「それにしても…残念すぎる」
何が残念かと言うと本の並びが全然整頓されていないのである。というか全く管理されている気配が無い。平気で棚の横に本が何列も縦積みされてるし、人も居ない…本自体には魔法が掛かっていてこの部屋から持ち出すとその場所が全てわかるらしいけど…
「…この世界には司書という仕事がないの?」
おかげで目当ての本を探す事なんて出来るわけも無く、端から順に見ていくなんて気の遠くなる作業はごめんだし…はぁ…と深いため息と共にその場に座り込んでしまう。
ところでどうしてこんな資料室に来る事になったかというと歴史授業の一事件後、命に別状は無かったらしいがおじいちゃん先生が帰ってくることは無く、あたしは自主学習を言い渡されてしまったのだった。そしてその課題で歴史と地理に関してのレポート提出となっていて…
「…レポート提出って…何なのさ」
そもそもレポートが提出出来る程の知識があったら習ってないっつぅの!!しかも自主学習させるならそれなりの資料用意して欲しいんですけど…何にも情報源がないまま自主学習ってどうしろってのよっ!!
さっきのおじいちゃん先生の話だけでレポートの作成なんて出来るわけがなく、仕方ないので従者君に参考資料が置いてそうな場所を聞いて連れてきて貰ったのがこの資料庫だった。
そして資料庫についてきてくれた従者さんが一緒に資料になりそうな本を探してくれてるのだけど…期待薄です。何万という資料や書籍が無作為に置かれたこの空間で見つかるわけない…。
あたしは座りこんだ横に置かれた分厚い本をペラペラと捲ってみるけど、難しい単語が並んでるそれを見て静かに閉じた。
「あ〜こういうの整理整頓したくなるなぁ」
あたしは座り込むと天井までの高さの本棚を見上げ呟いた。どうもA型日本人気質といいますか、資料関係や書籍は綺麗に並んでないと落ち着かない性格なんですよ。もちろん元の世界でも会社の机はとても綺麗でしたよ?顧客資料も一目でわかるようにちゃんと名前でファイリングしてましたしね。
だからこの状態が許されない。だってこれじゃ使いたい時に使いたい物が使えないじゃない!!
「…誰か司書として雇えばいいのに」
ちょっとずつでも片付ければ何とかなると思うんだよね…そうすればもっと仕事の役に立ちそうな物とか出てくるかもしれないのに…そんな事を考えていて全く資料探しをしてなかったあたしに一緒に来てくれた従者さんが弾んだ声をかけてくれた
「アサミズ様!!」
ふらつきながらこちらに向かってくる従者君の手には両手で抱えて顔が見えない程の本が積まれいて、あたしは純粋にびっくりした。
「と、とりあえず…これだけ見つけてみました。歴史の初心者本でしたよね?最初は挿絵の多い書籍の方がわかりやすいかと思いましたので、そんな感じです」
にっこりと笑いながらその従者君は座り込んだあたしの側に持ってきた本をどんと置くと、向かいにちょこんと座った。
「あ……ありがとう」
側に置かれた本を手に取ってみると、カラフルな色遣いの歴史書だったり文字の大きなどちらかというと元の世界で言う児童書のような物がたくさんあり、あとは百科辞典のような物もあった。あたしの要望にきちんと答えていて、なおかつそれを補填する資料まで付け加えてくるとは…
「凄いね…この本の山の中からこれを見つけるなんて…」
「あっ僕、本が大好きで、この資料室の主って言われてるぐらいなんです」
照れてる従者君はよく見るとまだまだ幼さの残る男の子で、16ぐらいに見える。うん、初々しさが眩しいわ。たまたま声をかけたのが君で良かった。心の底からそう思う。っていうか君が司書になれば一番いいじゃないの?
「ねぇ勉強好きなら、どうして従者してるの?」
「あの…将来的には文官の試験を受けたいんですけど…まだまだ勉強しなくちゃいけなくて、城にはたくさんの本があるので従者で雇ってもらって、侍従長様にお願いして、この資料庫への出入りを許してもらったんです」
おぉ…何と意外に苦労少年?
「君いくつ?」
「今年で16歳になります」
年齢ビンゴだし、勉強仲間みぃつけた。……かなり年下だけど…
「ねぇ、あたしと一緒に勉強する?」
「えぇ!?アッアサミズ様…そんな事をするわけには…」
動揺する彼の言い分は無視して問いかける。
「ところで君、名前は?」
勉強仲間がいると思うとそれだけで何だかやる気でるし、しかもこの資料庫の主なんて心強さハンパないじゃない!是非とも一緒に頑張りたい
「あの……レリアス・ヴィクランドと…申します」
「レリアスね」
覚えやすい名前なのも高得点だぞっ!レリアス君!
ふふ…もう逃がさないもんね…。
「レリアス、ついてきて」
あたしはそう言うと立ち上がってお尻の埃を払い出口に向かう。
「アサミズ様!この本はどうしたら!?」
あ…すっかり別の事に思考が奪われててこの資料庫に来た目的物を忘れるところでした。こほんとわざとらしい咳を一つ吐いて、レリアスが用意してくれた本を持つと結構重くてよろめいた。慌てて彼が支えてくれたので転けなかったけど…
「私が運びますからっ!!」
あたしが持った本を強引に奪い返してレリアスはちょっと涙目になってる。うん…何だか虐めたくなる子だわ。そんな彼が持つ本を奪い返そうとあたしは手を出す
「探して貰っただけで充分。自分で必要な物は自分で持つ」
「女性に…しかも仕えてる方にそんな事をさせる訳には参りません!!」
…うん目が更に潤んできてる。あんまり虐めると可哀想ですし、譲歩は大人がするもんです。というわけで
「ん〜〜じゃあ軽いのだけ貸して?」
と言ってレリアスの顔が見える程度の本だけ取る。だって前が見えないのは危険だしね。前が見えない状態は自分でも危いと思ったのか彼もそれには反論して来なかった。そうしてあたし達は資料庫を後にして部屋に戻る。
もちろん帰る途中、あたしの頭の中はどうやって彼を司書に据えるかをフル回転で考えていたのだった。