77話 乙女心
なるべく目立たないようにコハルの背中に埋もれながらも周りを確認すると、先ほどまで見なかった色とりどりの光が横切っていく。光の玉が走る後をネオンのような光が追尾し、それはCGのようなのに現実で体験してる自分がなんだか変な感じがする。あたしは起き上がらないように注意しながらコハルの頭へ近づいていき、ひそひそ声で話しかけた
「ねぇコハル。この周りのキラキラしたのって…」
[精霊や妖精たちです。今はやはり火属性の者が多いようですが…ちらほらと他属性も見られますね…]
そうじゃないかなぁとは思ってたけど、どう見ても光の玉にしか見えないそれらが精霊や妖精と言われてちょっとがっかり。だってここまでファンタジー世界なら精霊達も想像通り小人に羽が生えたモノを期待してしまってもしょうがないでしょ…
「…何か…もっと可愛いものだと思ってた…」
[…主がどういったものを想像したのかはわかりませんが、これらはまだ幼体ですので成体の姿とは異なりますよ]
「そうなの?」
[はい。我らでいう魔魂の姿ですので…ただ、成体に見つかると更に厄介ですから、この辺で空間を出ます。主、魔力の波に沈みますので私にしっかりと掴まっていて下さい]
コハルはそう言うと頭から魔力の波に飛び込んだ。ってあたしまだ返事してないし!なんて思いながらも、きちんとコハルの毛を掴んで目を閉じ、思わず息を止めてしまう。呼吸音が聞こえなくなった事を不思議に思ったのかコハルがこっちに頭を向けてくる
[主、息は止めなくても大丈夫ですよ?]
目を閉じて大きく頬を膨らませた状態のあたしはコハルに苦笑された、だって…いくら魔力の波って言われても…どうみても見た目は水ですし。
[主、これが火の力です。見てみませんか?]
いや、そんなうっとりした声で話しかけられても目を閉じてるから見えないし…、でも魔力を直に見る事なんてそうそうないよね…。…凄く興味あるし、コハルもああ言ってるんだし…水の中でも目を開けるのは平気なんだから大丈夫よね。あたしは覚悟を決めるとそっと薄目を開けてみる。
水のように見えたはずの世界は一転して燃える炎の世界になっていた。
普通なら燃え盛る火に気が動転しそうだけど、囲まれているのに不思議と熱どころか恐怖すらも感じない。そこから感じとる事が出来るのは何者も寄せ付けない気高い強さ。触れようと手を伸ばすと、その手に戯れるように纏わり、そして離れていく。
「…綺麗」
息を止めていた事など忘れて思わず呟いてしまう。
[主の体内にも同じ純度の高い魔力が流れているのを感じ取っているのでしょうね。火が主を受け入れている]
「あたしの…体の…中に?でも…火属性の魔力って…今少ないんじゃなかったっけ…」
[量の問題ではありません。たとえ少量でもその純度はすべての源であるこの場所の純度に匹敵するものですから。ではそろそろ抜けます」
コハルが大きく体を旋回させると中心に魔力の渦が発生した。そしてそこへ旋回でバランスを崩したあたしだけを放りこんだ。
「こっコハル!?」
[すみません主。今私が一緒に行くと精霊王に主の場所を知られてしまいます。少しの間離れますが、すぐに戻りますので]
「そんなのっ!!」
コハルの言葉を一方的に聞いてとうてい受け入れられないのに、転移魔法の時と同じ魔力の渦に沈み込むのを止められない。
「コハルっ!!」
[主、今日はぐっすりお休みください]
その言葉とともに視界が強烈な光に遮られる。思わずつぶってしまった瞳を開けるとそこは見慣れた城の自分の部屋だったのだが、現れた場所から見た部屋は鳥瞰図であり、どうみても自分は落下していた。
「こっ!こっ!コハルぅぅぅぅぅ!!!」
なんて場所に出すのよぉぉぉ!!!と心の中で叫びながら、疲れた頭では咄嗟に魔法も出てこずあたしはこれから起こるであろう衝撃に身構えた。
「水よ。我が力を使って優しく受け止めよ」
声が聞こえたのと同時にあたしの体は水の玉に包まれ、落下が止まる
「…アサミズ、いい加減驚かせるのは止めてもらえないか?」
「ぷはぁっ…りゅ、リュージュ」
水の玉から出るとそこには呆れた顔したリュージュが立っていた。ここってあたしの部屋だよね?…どうしてこの人がいるのかしら。疑問が顔に出ていたのかリュージュはふぅっとため息を吐く
「夕食を一緒にと誘いに来たんだ」
「あ…そう」
結局最後に水浸しになってしまった…。あたし自分が浸かった宙に浮かぶ水の玉が薄く茶色に染まるのを見て、自分がどれほど汚れていたのかを思い出す。そりゃ一日泥触ってたんだから当然なんですけど、茶色の水に浸かるこの状況はあんまりだ…と嘆く自分にまだまだ乙女な部分が残っていたのかと驚いてたりもするのだった
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