7話 拝啓、皇帝陛下様
はりきって転送してきたはいいが…そこで気付いた自分の愚かさ。
「何であたし家で謝罪の手紙を書いてこなかったのよ…」
昼間の寝室に人が居ない事なんてわかりきっていたし、むしろそれを望んでいたんだから直接謝罪出来るわけがないじゃないっ!!
あぁ…あたしの馬鹿…。
「でも…凹んでばかりはいられないし」
とにかく謝罪文を残すためにあたしは筆記具らしきものを探してみるけど…見れば見るほど部屋の豪華さが眩しいっていうか…
天蓋つきのベッドって何さ?
これってお姫様の特権じゃないの?
男でもアリなのか?
それにしても無駄にデカイベッドだな…
などの下らない疑問で時間を使ってしまう。
しかも探し物は見つからない。まぁ…偉い人が寝室に筆記具置く必要性もないか…。作業とかは専用の部屋があるだろうし…その時あたしの視線は部屋の出入り口であろう扉に釘付けになった。
「…隣の部屋にあるかな?」
…あ~更に罪を積み重ねそうな気がするけど、ここまで来て何もせずに帰るとかありえないしさ。扉に耳を付けて隣の部屋の様子を伺うも、人の気配はなさそうだし…
……よしっ女は度胸!やってみよう!!
***
う~扉に手をかけるだけで、心臓がバクバク言ってるんですけど。結構スパイ映画とかスリルのある映画が好きだったからよくこういうシチュエーション見てドキドキしてたけど、こんな冷や汗ダラダラな事、出来れば実地経験したくなかったというのが本音。
ガチャ…って扉の開く音でっかくない??
何で人ってこっそりする時首を竦めちゃうんだろうね?
あぁ…さっきから下らない思考ばっかり巡ってる。これはかなりテンぱってるな…。
隣の部屋に人が居てたら即アウトだけど、一応小さく声も掛けてみる
『お邪魔しま~す』
とにかく扉を開けた瞬間に、自分でも驚く凄いスピードで左右上下人の確認をする。寝室で確認した通り、隣の部屋にも人の気配は無かった。
凄い!この緊張感…初めて取引先に行った経験なんてこれに比べたら全然余裕だわ…
安堵感に支配されながら部屋を確認すると、寝室の豪華さとは打って変わって豪華絢爛っていうよりは家具の輝きから高級品に違いなさそうだけど、シンプルな感じだった。机と応接セット?とでっかい本棚には分厚い本がたくさん並んでた。
えぇ…もちろん貴族文字でしょうから…背表紙すら読めませんけどね。
「そんなお家探検してる場合じゃなくて…何か書くもの、書くものっと」
机にはさすがにあるだろうと思って一番に探してみる。机の上に羽ペンと墨壷を見つけた時には、何故か手をぎゅっと握って「ゲットぉ!」と小さく叫ぶのを止められなかった
「え~書くものは見つかったけど…、紙が無い」
机の上にはたくさんの書類らしき紙はあったが、読めないけどさすがにこれに書くのはまずい事ぐらいはあたしにもわかる。こういう時に確実にいらない紙をゲットする為にはあそこが一番。
あたしは徐に机の下に潜ると目当ての物を見つけた
「ゴミはさすがにいらないよね…って空っぽだし!!!!」
ゴミ箱を逆さにしてむなしい行為をしてみる。
うぅ…さすが城。ゴミを放置なんて事しないのか…
さてどうしよう…もう転送してきて結構時間経ってるし…そろそろ障壁に穴開けたの見つかりそうな気がする。
…こんな事なら見つけやすくなんてするんじゃなかった。
「…ん?」
たまたま見た書類の山に挟まった物に、何か見覚えが見える。山を崩さないようにゆっくりとそれを引き抜くと
「……これ」
自分の手配書だった。
「…こ、これなら必要ないよね?」
あたしはすぐに机の羽ペンを掴むと墨をたっぷりつけた。紙にペンを置いた途端に墨が黒く滲む。何度使ってもこの羽ペンというのは慣れないし、ボールペンが恋しいなぁ…と思う。今度自分で作ってみよう!と頭の作成リストに記載する事を忘れない。
え~っとそれでは、文面は…と
『はいけい こうていへいかさま
わたしはせんじつ、しんしつにとつぜんあらわれたものです。
あのときはほんとうにすみませんでした
ずっとはんせいしてます。
ですからおねがいですので、てはいしょをとりさげてください
よろしくおねがいします
安佐水 日和』
名前だけ日本語の漢字で書いたのは、前に来た時にあの人にあたしの名刺を渡したからで、この文字はこの世界であたししか書けないし、立派なあたしの証明になるでしょう!
…まぁ、その他はお子ちゃま文字しかかけないんで、片言文章しかかけないけどさ…
とにかくこれで任務完了!
このまま机の上に置いといたら見てくれるでしょう。さて、せっかく遠い所まで来たのだから城下町見物でもして帰るかな。
肩凝るし、面倒だし障壁を通らずに城下町に行く方法無いかなぁ?
ミレーヌに都会のおみやげもいいかもしれない。
手紙を書き終えた事であたしは完全に油断していた。
バァーンッ!!!
あたしが来た寝室とは違うもう一つの扉が吹き飛ばされる勢いで開かれる。
何故手紙を書き上げたら障壁も関係無くさっさとこの場を後にしなかったのか、これほど自分自身の怠惰を後悔したことはない。
「あさみずひよりっ!!!」
飛び込んできたのは3年前と同じ麗しい姿の美形男、多分皇帝陛下に違いなかった