67話 火曜 魔術講義④
この世界の魔法の常識なんて知らなかったあたしにとってラッシュから教わる事は新鮮で楽しかった。魔法の発動の仕方もあたしの独学とは全然違う物でそれによってあたしがどれだけ元の世界の力、つまり白の加護という物を使用していたのかもよくわかった。
簡単にいうとあたしが魔法を使う場合は魔法自体を化学式に置き換えて使用していたのだけど、この世界の人は体内にある属性の力を感じてそれを体外に発する際に魔法式をゲートに見立て、それを通過させる事によってあらゆる魔法となるらしい
「身体の中に存在する火属性魔力をこれで感じて下さい」
そう言ってラッシュから渡されたのは一枚の魔法陣が描かれた紙で、どこかで見た事があると思ったら以前リュージュに貼られた魔力封じの魔法陣に似ていた
「これって魔封じの魔法陣?」
「いえ。陣は似ていますが別物です。先ほどのチェッカーである程度の結果が出れば必要ないと思ったんですが…あまりにも属性魔力が少ないので…もしかすると体内にある属性魔力を使いきれていないという可能性もゼロでは無いですから。…普通は小さな頃に子供に体内の属性魔力を自覚させる為に使う物なんですけどね。ちなみにこの魔法陣では火属性が感じる事が出来ます。では目を瞑り、体のどこでもいいので紙を貼って下さい」
あたしが目を瞑り額に紙を貼ると「なぜ額なんですか…」と横から呟きが聞こえたけど無視した。だって…札みたいな紙は元の世界では額に貼るものと決まってるのよ!!
何て考えてたら額のその紙がふっと消え、そして指先を掠る程度の暖かな感覚を感じ取れた。それと同時に体の中に感じる違和感に思わず声が出た
「ん?」
「ありましたかっ!?」
目を開けた途端にラッシュの必死な顔が飛び込んできた。期待をすごくされてる目ですけど…結果を言いにくいです。
「あの……指先がほんのちょっと暖かかったです…」
あたしはその言葉を聞いてがくっと床に膝をついたラッシュの背中に手を置くと、ポンポンと慰めた。まぁ…原因に慰められてもちっとも慰めにはならないと思いますけどね。何とか立ち直ったラッシュが最後の希望を持って火系の魔法を中心に魔法講座は行われたんだけど…初級魔法が辛うじて発動する事が出来、中級魔法では発動出来ない物がほとんどであり、上級魔法なんてとんでもないという仮発動の結果。散々な結果にどんどん顔色が悪くなっていくラッシュが死んじゃうんじゃないかって後半あたしはハラハラしっぱなしだった
「…本当に陛下は貴方を一ヵ月後の試験に合格させるつもりなんでしょうか…」
ラッシュが目を手で覆いながら呟いた言葉はあたしに向けられたものでは無さそうだったので返事はしなかった。ショックの為か終了予定の時間よりだいぶ前に「とりあえず今日はここまでで…」と言って部屋にかけてあった全ての魔法を解除すると、ラッシュはフラフラと帰っていった。そんな彼にあたしは出て行った扉に向けて出来の悪い生徒でごめんなさいと手を合わせて謝る。
さっきまでは『普通な自分』の余りの嬉しさに何も考えず喜んじゃったけど、冷静な自分がよくよく考えると「そんなわけないだろ」って事がテリサン村の事以外にもいっぱいあるのよね…。さっき体内魔力を調べた時に感じた違和感もその一つで、そんなの無視しちゃえばいいんだけどさ…どうも自分の性格上、物事ははっきり白黒つけないと気がすまないっていうか、立証あっての喜びだと思うのよね…さっきの体内魔法を調べる魔法陣が各属性分あれば簡単なんだけど…
あたしは部屋の中に向き直ると、先ほどラッシュが解除したシールドの魔法陣が今後の授業でも使うからと残されている事を確認して、その側まで近寄った。
…どうかあたしの考えが間違ってますように!
一つの空論があたしの中に存在している。それは今までの喜びが全部吹っ飛んでしまうもので…というか、よりどん底に落としそうな空論なので出来れば思い違いであって欲しいけど…あたしのこういう空論は昔からよく当たってしまう。
それの実証にはラッシュが残した魔法陣を使うのが一番手っ取り早い。
あたしは魔法陣の横に膝を立てて屈むと魔法陣に触れた。すると魔法陣が茶色の光を放ち、ラッシュより遥かに強固なシールドが部屋に展開される
「………やっぱりぃぃぃぃ」
純度が大事なんですよと言ったラッシュの言葉が頭に繰り返される。魔法式を展開してみるともちろんこれは地属性のシールド魔法。
「…つまりあたしの純度はラッシュより高いって事だよねぇ」
立証するにはあと2つ実験しなくちゃならないわけで…あたしは部屋のシールドが完璧に形成されてるのを確認してから「初級魔法は属性関係なく魔力の使い方は同じです」というラッシュの言葉に従って「はじめてのまほうのつかいかた」の水の初級魔法を習った発動の仕方で行ってみる
「我が力よ、水の流れとなって姿を現せ」
体の前に広げた手から言葉と同時に立ち上る水はまるで逆さの滝のように天井に向かう。すぐに手を握り魔法を解除したけれど、その結果、滝のような水は部屋に張られたシールドによって跳ね返り全てあたしの頭上に降り注ぐ。少し考えれば解りそうな物なのに…自分のお間抜けさには呆れを通り越して心配です。
「きゃぁぁ!!」
びしょ濡れとかのレベルじゃ無いです…ほんとに一瞬息が出来なかったし、シールド張らなかったらあたし水圧で死んでた気がする。何も水気が無い部屋で溺れ死ぬとか水による圧死とか可笑しすぎる変死体にならなくてよかった。何て安心してるのは逃避であって、もちろんそんな水が足元ちゃぷちゃぷ程度で終わるわけなく、余裕で床から2Mぐらいの高さになりました。天井が高かった事が救いですけど…今のあたしは浮かんだソファにしがみついてる状態で、いわゆる漂流者です。打開策を考えてもシールドを解くと、この水が一気に城内に流れ込んで5階から水が襲うなんて状況になりかねないし、白の加護を使って水を変換させようにもこれだけの水を大気に変換させたら水素と酸素が爆発的に増加してしまうので…それはそれで危険…氷なんかにすると水に浸かった状況のあたし自身がやばい。なにより溺れそうな状況に陥ってパニックなんで落ち着いて化学とか考えられません。火属性の魔法で蒸発させようにも…指先ポッです。
…この水どうすればいいんでしょう?
あたしは部屋の中をぐるぐる漂流しながら「誰か助けて~」なんて心で叫ぶしかなかった。
はい…おバカ日和再び光臨です
物語の紹介文を変えました。