63話 オタクに世界は関係ない
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蒼い顔のラッシュさんと違う意味で蒼くなったあたしの気まずい状態で始まった魔術講義。だってもぅさっきまでのリュージュのお茶会が…びっくりで…内容は思い出したくもないんで…簡単に要約すると…
『うちのアサミズは出来る子だから、落ちたらお前の教え方だからな』
なんて宣言をしてくれちゃって…でもね、リュージュ。それはあたしに対しても
『落ちたらラッシュがどうなるかわかってんだろうな?死ぬ気でやれよ』
とも解釈できるわけで…。お互いよくわからない崖っぷちに立たされた状態でどうやって和やかに授業を始められるんでしょうね~
リュージュが出て行った途端にお互いテーブルに突っ伏したのは言うまでもなく、リュージュが部屋を出て行ったのだって扉の外に待機していた宰相の我慢が限界を越えただけで、無理やり拉致られなかったら授業が始まるまでどころか昼ごろまであたし達は解放して貰えそうになかった。
原因が居なくなった事によってちょっとだけ気分を浮上出来て、お茶を口にしようとすればすでに冷え切っているのがわかり飲もうか悩んでいると、向かいのラッシュさんもカップを手にして一緒の行動を取っていた。ちょっとやつれた感じでカップを回す姿に自分を重ねてしまい
「「あ…」」
そんな状況にお互い視線を合わせると、どちらからとも無く吹き出した。ひとしきり笑うとどちらからとも無く言葉がでる
「お茶淹れなおしましょうか」
「そうですね」
すでに授業開始の時間になっていて侍女さんや侍従さんが部屋には近寄らない事はわかっていたので、お茶を入れるために席を立つ。同じタイミングで二人とも立ち上がろうとしたのを、あたしの方がポットが近かったので「あたしやりますから」と言って止めた
お茶が湯気を立ててカップに注がれる。立ち上る香りに心を休めるが、勉強をするタイミングではコーヒーが欲しいなぁと思ってしまうのは元の世界の名残。内勤作業の時はいっつも傍らにコーヒーだったし…コーヒージャンキーだったから…あたし。
「アサミズ様?」
「うわっちゃ!!」
そんなことを考えてるとぼぉっとしてしまっていたのか、声をかけられたのにびっくりしてしまい、持っていたポットを落としそうになる。慌てて手に力を込めると昨日の腱鞘炎がズキンと痛み、ポットを手から落としてしまう。
ガシャンと大きな音を立てて落としたポットは割れ、中から溢れた薄く茶色の液体は綺麗な刺繍の施されたワゴンのクロスに見る見る広がり染めてしまった。
呆然となったあたしにすぐ横からラッシュが話しかけてくる
「火傷されませんでしたか?」
「あ…はい、それは大丈夫です。でもどうしよう…」
魔法を使えばすぐに直せそうな気がするが、ラッシュが居てはそれも出来ない。
「あたし…ちょっと謝ってきます」
悪いことをしてしまった時にはすぐに謝罪!そうすれば相手の怒りも多少なり収まるし…でもこんな高そうな物を弁償とか…うぅ、手元にお金、いくら残ってたっけ?
あたしがとぼとぼと部屋の外に向おうとするのをラッシュが二の腕部分を掴んで引き止めてきた
「アサミズ様。大丈夫ですよ」
そういうとラッシュは手を砕けたポットに向ける。そして何か口で詠唱するとポットが元の形に戻った。
「おぉ!」
「私は地属性ですので、物の修理は得意なんです」
パチパチと拍手喝采を送るあたしにラッシュはそう言うと、あたしの頭をポンポンと軽く叩いた。そしてそのまま今度は汚れたクロスに手をかざして、同じように詠唱する。するとクロスに染みたお茶がどんどん蒸発していく。
「お?」
今ラッシュさん地の属性って言ってたよね?目の前で使われているのはどうみても火の属性の魔法で…あれ?属性魔法以外を使用するには魔法陣が必要なんじゃなかったっけ?受験勉強の最中に何かの本で読んだ気がするんだけど…
クロスが元の白さを取り戻すとラッシュさんがこちらに向いた。混乱したあたしの様子から「あぁ…」と何かを察したのか隠れた前髪を手で掻きあげた。
「あれ…オッドアイ…」
オッドアイ…遺伝子疾患の一種で虹彩異常を指す言葉、元の世界ならそうなんだろうけど…この世界では瞳の色は属性を指すものだから…前髪で隠れていた瞳はあたしの今の色と同じ、赤く染まっている。茶色と赤い瞳。
「オッドアイ?それはアサミズ様の国の言葉ですか?ご覧の通り私は二つの属性を身に宿しています。周りがうるさいので普段は便利な地属性という事にしてるんです。まぁこの力のお陰であなたの指導者という立場を得ることが出来ました」
「…それっていい事なんですか?」
あたしの指導者なんて子守、もしくは良くて家庭教師だろうに医療部の副長なんて立場の人がそれを買ってでるなんて…何か裏があるようにしか思えない。さっきもあたしの事何か疑ってたし…あたしの怪しい者を見る目を見てラッシュさんが苦笑する
「先程は失礼な事を言ってすみませんでした。ですが本当に純粋にあのゲートを作った方にお会いしたかったんです。あの魔法式は本当に素晴らしかった。余分な物が一切何も無く、式の配置・組み方全てが美しかった…」
そう言ってうっとりと宙を見つめるラッシュさんの視線を辿って宙を見てみても、もちろんそこには何も無い。え~っと…ラッシュさんは魔法陣オタクか何かですか?
「はは…」
「ですのであのような美しい魔法陣を組まれる方が初心者だなんて信じられなかったんです」
心底申し訳なさそうな顔を向けられ、あたしは「気にしてません」と首と手を横に振った。うん…色んな意味で魔術講座にぴったりな人な事も充分わかりました
「あのような魔法陣を他にも築いて頂けるなら…しかもそれを一番先に拝見出来るなんて…心を込めて指導させて頂きますよ」
うん…おかしな人だ。まだうっとりとした顔つきのラッシュさんはさっきリュージュに対して言っていたのと同じ言葉をあたしに向って言ったが、微妙にその言葉に艶がついてるのは…気付かなかった事にしよう。
すみませんまだ授業までたどり着きません…(汗)