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至上最強迷子  作者: 月下部 桜馬
2章 魔術学院入試編
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62話 エネルギーは満タンで

 

 魔術講義のお兄さんは一言でいうと優しい兄風の人だった。片目を覆う前髪は長いが全体的には茶色の短髪、見えている瞳も茶色の瞳。顔立ちはいい方なのに…周りが美形すぎるのも可哀想だなぁ…と本人には有り難くもない憐れみを送ってしまう。あたしが部屋に入るとすぐに気付いて、立ち上がり入口まで迎えに来てエスコートの形を取ってくれるけど…これって日本人にはもの凄く恥ずかしいです…はい。


 「お初にお目にかかりますラッシュ・ティディアーノと申します。医療部で副長をしております」


 あたしを椅子まで導いてくれた後、その前で軽く会釈をしながらラッシュと名乗った彼は顔を上げるとにっこりと微笑んでいる


 「あの…安佐水 日和です」

 「…アサミズヒヨリ様、では、よろしくお願いしますね」

 「あの…アサミズで結構ですので!」


 そう言うとそれに対してもにっこり笑って「わかりました」と了承してくれる。そして彼も元の席に座るとタイミングを見計らった様にそれと同時に部屋の扉が開き、従者さんがワゴンに食事を乗せて入ってきた。


 「アサミズ様、今朝は早くから押し掛けてしまってすみませんでした」

 「え!?」


 並べられる食事に夢中で相手を見ていなかったあたしは突然の相手からの謝罪にびっくりしてしまった。…だってさ、受験勉強中って楽しみ御飯ぐらいだったから、つい同席者がどうでも良くなったなんて…言えません。


 「いえ…こちらこそ、お心遣いありがとうございます」 

 「?」


 今度はラッシュさんが疑問符を頭に浮かべ、不思議そうに頭を傾けてらっしゃるんですけど…え?初顔合わせだから気を配ってくれたんじゃないの?あたしナサエラさんに確かそう聞きましたけど?

 お互いがお互いに疑問符を頭に浮かべた状態で戸惑っていると、その間に食事が並べ終わったらしく「失礼しました」の従者さんの声でとりあえず食べましょうかの流れになった。あたしの「頂きます」に興味津々そうなラッシュさんを視界の端に納めつつも説明よりもまずエネルギー補給なので左手に焼きたてパンをがっつり掴んで、右手はフォークでよくわからない肉料理にブッさしましたよ!


 …うん、ラッシュさんドン引きですね。でもいいんです!今は女気より食い気ですから、食べなきゃ持たない受験戦争っ!!


 がつがつ目の前の食事を平らげていくあたしに、最初はドン引きだったラッシュさんの視線が途中からキラキラ光るようになったのは気のせいですかね?


 「…目の前で食事が綺麗になくなっていくのはこんなに気持ちのいい事なんですね」


 うっ!…なんか変なボタンを押してしまった…。

 そこからはラッシュさん本人は食べる事など忘れてテーブルの上で手を組んで顎を乗せ、うっとりこっちを見てます。とても食べにくいですけど……いや、食べますけどね?

 大半の食事があたしの胃袋に綺麗に納められ、目の前に食後の飲み物が並んだ辺りでようやくラッシュさんが話しかけてきた


 「ところで…お心遣いってどういうことでしょう?」

 「お心遣い?……あぁ!」


 はい…一瞬忘れてました。どうもあたしは満腹まで食べると頭の回転速度が極端に落ちるみたいです。八分目にする予定だったのに、ラッシュさんが食べないもんだからついつい全部食べちゃいましたよ…。


 「この朝食、初顔合わせで気を遣うだろうからって事じゃなかったんですか?」

 「………」


 違うのかよっ!!

 ならあたしのゆったりまったりな朝の時間返せっ!!返してくれっ!!


 「いや…それも理由の一つだったんですが…」


 絶対嘘だね。片方だけの目が泳ぎまくってますよ?旦那。

 あたしの胡散臭げな視線に気付いたのかラッシュさんはコホンっと一つ咳を吐くと、あたしに視線を合わせてきた


 「ちょっと気になった事がありまして、授業の前にお伺いしようと思ったんです」

 「…気になった事?」


 …何だか嫌な予感がするんだけど、気のせいであって欲しい


 「はい。城の魔障壁のゲート…私も拝見させて頂いたんですけど…」

 「ぶはっ!」


 …瞬間的に目の前の大人な男があのファンシーなゲートを潜る姿を想像してしまって吹いた。……はい、すみません真面目な話なんですね。びっくりした視線で殺されかけた。怖いよ…この人実は怖い人だよっ!!


 「………まぁいいです。それにしてもあれほど綻びの無い完璧な魔法式を扱える人に今更なぜ各属性魔法の講座が必要なんでしょうか?しかも陛下から指示された内容が初級魔法からの指導で…理解し難い状況なのですが、説明して貰えますか?」

 

 …あ。ヤバい…冷や汗タラタラです。さっきの食事全部リバースしそうです。っていうかリュージュちゃんとフォローしとけよぉっ!!!!


 「え〜っとですね…あの…ですね…」


 …この人に黒の加護の事とか言っていいものなの?そしたら目を赤くしたの意味なくね?…まぁ…それはいいとして…どうしよう?…どうしたらいい?

 テンパってほんとに気持ちが悪くなりそうになりかけた時、予想外の所から救いの手が入った。


 「アサミズは異国からの留学生だ。出身国は転移魔法とシールド魔法に特化した国だったのでな…我が城の魔障壁もあんな風に細工が出来たのであろう」

 「リュ…陛下!!」


 危ない…名前で呼ぶとこだった…。


 「これは陛下……お早うございます」


 そう言うと目の前のラッシュさんはすぐに立ち上がって、椅子の横に跪き頭を下げた。その姿を見てあたしも慌てて椅子から立ち上がろうとしたのに、リュージュに手で止められた。で、何故かあたしの顔を見て愕然とするリュージュに首を傾げると、リュージュが口をパクパクとさせながら自分の目を指差している


 「あ…」


 そう言えば…リュージュに瞳の事なんて相談してなかったね?あたしはにこっと笑みを浮かべるとL字型にした指先をくるっと回転させてみせ「ちぇ〜んじ」と口パクで伝える

 リュージュは安心したように俯きながら大きく息を吐き、大きく息を吸い込んで正面に顔を戻した時には皇帝の顔に戻っていた。

 ちなみにラッシュさんは俯いているのでこのやり取りは見えていない。


 「アサミズと朝食を取りにきたのだが…もう済んだようだな」

 「申し訳ありません。…アサミズ様とは初顔合わせでしたので、授業前に少しでも意思疎通を測ろうと思いまして…」


 いやいや…それがっつり表向きだけだったじゃん。呆れて物が言えないあたしにリュージュが人差し指を口にあてる。はいはい…これ以上つっこまれない為にもここは黙っとけって事ですね…


 「そうか…アサミズは私の大事な客だ。くれぐれも頼むぞ」

 「はっ!心を込めて指導させて頂きます」


 …心なんて込めなくていいです。普通に教えて貰えればいいんで…そんなに張り切られるとこっちが困る。


 「ラッシュ顔を上げよ。…朝食には乗り損ねたようだから、私は朝食を後で食べるので授業開始まで茶には付合ってくれるな?アサミズ」


 …朝食朝食って…根に持ってんの?

 ほら…ラッシュさんの顔がちょっと蒼くなってるし…


 そうしてご機嫌なリュージュと蒼い顔したラッシュ、そして気まずいあたしとの短い朝のお茶が始まったのだった。

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