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至上最強迷子  作者: 月下部 桜馬
2章 魔術学院入試編
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61話 アサミズヒヨリ改造計画

 

 生まれてこの方、清清しい朝をこんなに恐ろしく感じた事は無い。初日の言語授業で完璧に腱鞘炎になった手はズキズキするし、頭の中は昨日覚えた事が耳からどんどん流出していくのを防ぐのが精一杯。こんな状況でどうやって新たな知識を詰め込めというのか…そんな事を簡易ベッドの上でボーっと考えてる間に時は無常に過ぎていき、バリケードな家具の向こう側の扉がノックされ、扉が開かれると同時に声が聞こえてくる


 「アサミズ様、お早うございます」


 返事も聞かずに部屋に入ってこられたおば様…ナサエラさんは侍女長らしく、城に滞在している間、作法の事など何もわからないあたしの面倒を見てくれるらしい。バリケードの入り口からちらっと顔を覗かせこちらを確認してくる


 「ラッシュ様がすでにいらっしゃってますが?」

 「…?ラッシュ様って誰です?」

 「本日の魔術講義の先生でいらっしゃいます」


 あたし…今起きたばっかりなんですけど。習慣になっている7時起床。つまり


 「…まだ朝の7時ですよね?」

 「はい。初めてお目にかかるのでご一緒に朝食を、といらして下さったようです」


 いりません!そんな気遣いいりませんっ!何が悲しくて今日一日ずっと顔を合わせる人間とさらに長い時間を過ごしたいと願う人間がいるんですか。プライベートと仕事をきちんとわけましょうよ!!!と叫びたくても、こちらは教えを請う身。うぅ…最弱な立場です


 「わかりました。すぐ用意します」

 「入浴をお手伝いいたしましょうか?」

 「いえっ!いいです!」

 

 来てすぐに入浴をお手伝い頂くという羞恥プレイは経験しましたので、あれからお手伝いはご遠慮頂きたいと心の底から願う次第です。この世界のお貴族様は日常的にあれってほんとに凄いと思う…。まぁ…リュージュとかエリルさんみたいな見た目が『美』な人なら大丈夫なんでしょうけど…けっ!


 …うん。昨日の疲れが残ってて自分でもやさぐれてると思う。

 それに何より小心者なんで人を待たせてるのにゆっくり入浴とかありえないし…


 あたしは壁にかけてあった服を取ると着替えた。もちろん白シャツに黒のハーフズボンというこの世界ではどこの坊ちゃん?みたいな格好だけど、動くのに楽だし…それでなくても苦行な一日をずっとスカートやワンピースとか有り得ないし…ナサエラさんが手にしてるドレスなんて問題外です。


 「ナサエラさん」

 「はい?」


 …そんな期待を込めた目で見ても駄目です。


 「…それはちょっと」

 「………」


 ナサエラさんが哀愁を漂わせドレスをクローゼットにしまう後姿に、若干胸を痛めるがここで妥協してしまうと後が怖い。何故ならクローゼットの横にある鏡台には昨日まで無かった見た事の無い箱が一杯積んである。ドレスを着て鏡台へ直行し色々弄ばれる自分を想像してしまって、ぶるっと身体が震えた

 部屋替えを泣き落としで却下したのももちろんナサエラさん


 「…恐るべし、ナサエラ」


 誰かからの極秘使命を受け『アサミズヒヨリ改造計画』とやらを実行中の彼女は油断ならない。彼女に届かないような小声で呟きながらあたしはだいぶ伸びて来た髪をいつものようにシニョンに結った…腱鞘炎のせいで乱れた感じになったのは愛嬌というか…やつれです…多分。ちなみに色はリュージュからピアスを返してもらったので目の黒色が目立たない様に深い青にして、ふわふわモードから直毛スタイルに戻した。魔術関連の授業が始まるまでに瞳の色をどうにかしなくてはと思っていたのに、昨日は疲れ果てて不覚にも寝てしまった…


 「どうしようかな…」


 あたしは片耳のピアスを外すとそれに組み込まれた魔法式を頭の中に展開した。これにどうにかして目の色を変える方法を組み込めたらいちいちコンタクトとか考えなくて済むんだけど…髪みたいに単純にメラニン色素を弄ればいいってもんじゃないんだよねぇ…下手したら紫外線の抵抗なくしちゃうし…虹彩部分と網膜色素上皮のメラニン色素をどうにかしないと…メラニン色素がある場所は把握してるのだから…黒褐色の真性メラニン部分を同じ構成の別の色に転化すればいいのよね?


 「怖いけど…試してみるしかないよね…」


 あたしはピアスに新たに眼球部分だけの固定魔法式を追加する。それには真性メラニンと呼ばれる光を吸収して黒くなる色素部分を、光を吸収して赤く変化するようにし、左のピアスには左目部分だけを指定した。


 「…よし、つけてみる」


 そういうとあたしはピアスを耳に戻した。そして目に走る魔力を感じ、違和感が無くなった状態で鏡台とは別のバリケード内の鏡を見てみた


 「うわ……ウサギみたい…」


 その瞳は瞳孔までも赤くなり、この世界にいる火属性の瞳と違和感が無い様に見えた。


 「やるじゃん…あたし」


 黒目と赤目のコントラストは不気味でしかなかったけど、取りあえず黒目と赤目交互に手で隠して色々な物を見てみるが、いきなり真っ赤な世界だったらどうしようとびびったのも何のその、視力も色判別にも支障はないらしい。あたしはもう片方のピアスにも同じ魔法式を追加すると、ついでに髪の色も黒に戻して、その足で今度は窓に向かい外の景色を見てみた。


 「うん…とくに今までと変わらない」


 光を見て眩しさを過敏に感じる事もなければ、視界はクリアな状態。


 「アサミズ様?突然どうなされたのですか?」


 ナサエラさんにとってはあたしが突然窓にへばりついてる状況が不可解なのか、ちょっと不安げな声を背後からかけられた。声のした方向へ振り向いてナサエラさんの驚愕の顔が飛び込んでくる…しまった…


 「…あ、アサミズ様ぁっ!!め、目を怪我されたのですか!?」


 慌てふためいて駆け寄ってくるナサエラさんに、あたしは手と首を思いっきり横に振った

 

 「お、落ち着いて!あたしの目はこの色が元々の色なの、今日から魔術訓練だから変に幻術魔法とか自分にかけとくのよくないと思って…」

 「…え?」


 あたしの目の前で止まったナサエラさんの手は一体何しようとしてたんでしょうか?眼球抉られそうな形をしてるんですけど…怪我を調べるにしてもそれはちょっと危険だと思います…とりあえずこっちもかなりびびった。


 「まぁ…火属性の方でしたの?」


 手を元の位置に戻しながらナサエラさんがあたしに話しかけてきた。火属性にしたのはコハルが火属性なのでその方が都合がいいと思ったからなんだけど…


 「う、うん。ごめんね。驚かせちゃって」

 「いえ…でもほんとにびっくりしましたわ。瞳に幻術なんてかけれるんですのね…」

 「あたしの祖国で流行ってたの」


 瞳の色は嘘ですが、カラコンが流行ってたのは嘘じゃないんで…ナサエラさんごめん。


 こうして黒髪に赤目の女が誕生し、どこのアニメキャラ?にナサエラさんの思惑とは違った『アサミズヒヨリ改造計画』は完了した。

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