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至上最強迷子  作者: 月下部 桜馬
2章 魔術学院入試編
55/85

55話 …チキンハートですから

 何でここにいるのか何てどうでも良かった…。


 ただそこにいてくれるだけで…良かった

 

 リュージュの姿を見たら目に涙が浮かんで、込み上げてくる嗚咽をひたすら我慢した。黒の守護者って事でがんじがらめってる頼っちゃいけない人なんだけど、今はあたしの力を知っててすぐ側にいてくれる存在が凄く有り難く嬉しかった


 「…ぅっ…く」


 立ち止まったまま下を向いて涙を我慢してるあたしをリュージュが何も言わずそっと胸に引き寄せてくれる。その途端、涙の決壊が壊れて溢れてきた。泣き声はいつか叫び声のようになってあたしはリュージュの背中にしがみついた。

 そんなあたしにリュージュは「間に合わなくてすまないかった」と謝りながら背中をずっとさすっていてくれた。


 ずっとそのまま泣き続け涙が収まってしゃっくりに変わる頃、どれぐらい泣いたのか…泣きついたリュージュの服の濡れ具合からもかなり泣いた事がわかる。


 思いっきり泣くというのはカタルシス効果だっけ?頭がちょっとぼーっとするけど…でもすっきりした。

 ただ落ち着いてくるとリュージュの背中をがっちり掴んでるあたしがどうみても抱きついてる現状に顔が蒼くなる


 「ご…ごめん。リュージュありがとう」


 あたしから抱きついてる状況に…とりあえず目が見れない。感謝の言葉と一緒に背中に回していた手をリュージュの胸に押しあてそっと距離を取ろうとしたが、今度はあたしの背中に手を回していたリュージュが離してくれなかった。


 

 ……どうすれば?

 ちょっとドキドキしてしまう自分が嫌だ。

 いや…抱きついてたのはあたしなんですけどね…。現金な物でさっきまでどん底で落ち込んでたくせに……切り替わりの早さに自分でも呆れる。


 「…何があったか話せるか?」

 

 そんなあたしの混乱を知ってか知らずかリュージュが頭上からいい声で話しかけてくるし、このままで話せと……いや、普通ならドキドキのトキメキモードなんでしょうけど、この人黒の守護者だし…ね。ドキドキしてるあたしのチキンハートを弄ばないで欲しいっていうか…


 「話すので……離してもらっていいですか?」

 「……大丈夫なのか?」

 「はい。…ちょっと動揺してただけですから」


 ようやく緩んだリュージュの腕から秒単位の素早さで飛び出ると、リュージュの顔の片眉が上がるのが見えた。はい…言いたい事はわかります。胸をお借りしといてその態度は無いと仰りたいんですよね?とても感謝してるんです!でもね…でも私…チキンハートなんです。引きつったあたしの笑みを見てリュージュは言葉を紡ごうと開けた口を一度閉じ、ふぅっと溜息を吐いた後、明らかにわかるように別の言葉をあたしに問いかけた。


 「で、何があった?」

 「あ…の、初めて魔獣を…」


 続きを口にするのはやっぱり抵抗があって、あたしは大きく息を吸った


 「殺し…ました」

 「襲われたのかっ!?」


 リュージュの想像より大きな反応に思わず身体がびくつく。そしてリュージュが慌てた様にあたしの身体をべたべたと触って来た……心配してるんだろうと我慢したけど…

 

 …とりあえず手刀をリュージュの頭に落とした


 「…ぐ…ぅっ」

 「……触りすぎ、セクハラです」


 …放置してたらどこまで触ってるんでしょうね…まったく。


 「……怪我は……無いんだな?」

 「あったらもっと悶えてると思います。あたし痛いの我慢出来ない子なんで」

 「そうか…なら良かった。でもなぜ魔獣に襲われるような事になったんだ?」

 「正確には襲われたわけじゃなく、巣穴を突いたのはあたしです。魔魂が必要だったんで、近くにあるって聞いて取りにいったんです」


 襲われたのなら殺した罪悪感は少なかったのかもしれない…仕掛けたのもこっちなら最後に殺したのもこっちなのでより罪の意識が増長されてる。


 「魔魂?なぜそんな物を?」

 「入学試験に必要だったんで…」

 「それなら問題と一緒に送られたはずだが………あの紅い魔獣は何だ?」


 いつの間にか少し離れた場所で大人しく座って待っていたコハルにようやくリュージュは気付いたらしく…


 「あ、紹介します。…コハルおいで」


 あたしが呼ぶと反応したコハルは尻尾を振ってこちらに歩いてくる。ちなみにサイズは冷蔵庫サイズなのでトコトコというよりのそのそという歩み音のが近い。コハルはあたしの側まで来ると、先程までと同じようにお座りの形をとる

 

 「コハル?」


 名前を聞いて引きつった顔のリュージュを見て『ですよね〜』と同調するのはコハルを傷つけそうなので心の中だけにしておく。


 「はい。試験の魔魂から生まれたあたしの聖獣らしいです」


 あたしがそう言いながらコハルの頭を撫でると、コハルもあたしを心配してくれていたので嬉しそうに頭をあたしの身体にすりつけてくる。


 「…確か試験書類の配布は昨日だったはずだが…」

 「ええ。昨日届きました」

 「……一日で生まれたのか?」

 「正確には3時間半です」


 愕然とするリュージュにやっぱり自分は規格外なんだなぁと改めて思いながらも、コハルは可愛いので全く後悔はしてない。

 ショックから立ち直ったリュージュが納得したように頷く


 「…それで魔魂が必要だったのか」

 「そうなんです」

 「だが、この辺に火山や火系の地帯は無かったはずだが…」

 「え?送られる魔魂の属性って決まってるの?」


 それは初耳。ランダムで色んな魔魂が送られてるのかと思った…


 「火系の魔魂が一番入手がしやすいからな。一番最初に学院の生徒が手にする魔魂は全て火系と決まっている。ただ他の属性の人間には火系魔魂は孵す事が出来ないから入学時点で各魔魂に交換される。火系魔魂に各属性の魔力を注ぐという事も資料としての価値があるからな…レポートとして提出させそれを資料として使っているようだ」


 なるほどね…つまり一挙両得ってやつですか…


 「…でもそれって…火属性の生徒の方が先に魔力を注入出来て得って事になるんじゃ」

 「火系魔魂は他の属性の魔魂より孵化が遅いんだ……遅いはずなんだ……」


 出たよ。あたしのハイスペック……ちょっと落ち込んでるリュージュは見なかった事にしよう


 「まぁ…アサミズが特別なのは…わかっているからな…」

 「すみません……ってちょっと待って…」


 じゃあ…あたしが取って来た雷属性の魔魂って……無意味。


 「アサミズっ!?」


 ショックで倒れそうになった。


 「じゃあ…何の為にあたしはあの雷獣を殺しちゃったの…」

 「ら、雷獣と戦ったのか!?」


 また涙が出そうになるのを必死に我慢しながら、事の経緯をリュージュに話して聞かせた。話終わるとリュージュがあたしの頭を手で軽く撫でながら「頑張ったな」と言ってくれた


 「ただ…厳密に言うとそれは殺したわけじゃない」

 「…え?」


 …殺したわけじゃない?


 「コハル…だったか?聖獣によってとどめをさされた魔獣は魔力となって分散するだけだ…また時間が立てば、魔魂の形となるだろう」

 「人にとどめをさされた場合が魔獣にとっての死であって、魔獣からは魔力を宿した部位が手に入る」

 

 つまり…コハルが助けてくれたって事?


 「…コハル?」

 [主はあの積乱雲を消し去る力をお持ちですのに、それをしないという事は穏便に事を済ませたいという事だと解釈しましたので…ただあの魔獣はやっかいだったので炎で焼きましたが…]


 うん。そんな力が自分にある事なんて知らなかったし方法も全然わからないけどね…コハルはあたし以上にあたしの事わかってるんだってびっくりした。それにあたしの聖獣はあたしの意識下にある『殺したくない』って考えをきちんと汲み取ってくれてる。


 ぎゅうとコハルの首に抱きつくとコハルが顔を一舐めしてくれた


 [その事で悩んでらしたんですね。気付かなくて申し訳ありませんでした]

 「ううん。ありがとう」


 ん?何だか視線を感じたので見上げるとリュージュがこちらを見て固まっていた。


 「リュージュ?」

 「…コハルは…人語を操れるのか?」



 ……使えないハイスペックは、こんなところで大絶賛活躍中らしいです。

少し長めです。


前半が暗く執筆が思う様に進まなかったのですが、後半は元のノリに戻って気付いたらいつもの倍ほどの長さになってました…(苦笑)

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