49話 小春日和
すっかり本気寝をしてしまった…気付いたら窓からの光がすっかり夕暮れ色になっていてびびった。横を見るとまだミレーヌは夢の中らしく、すやすや寝息を立てている。
「ん〜!よく寝た!!」
そう言いながら身体を起こして伸ばすと、こちらをじっと見つめる聖獣と目があった…
「あ……」
[お目覚めですか?主」
「…はい」
よく考えたらあたしら爆寝したからいいけれど…この聖獣ずっとこの体勢で支えてくれてたんだよね。
「ご、ごめんね。身体痛くない?」
[?]
「いや…あたしが寝てる間、ずっとこの姿勢だったんでしょう?」
[あぁ…別に大丈夫ですよ?主が私の身体で安心出来るのは嬉しい事です]
…何ていい子なんだ。こっちを見つめる聖獣に向かってあたしは手招きをして呼び寄せる。最初はきょとんとした顔の聖獣だったけど、意味がわかったのか頭をあたしの側まで持って来た。…さすが頭だけでもデカイ。
[…主?]
あたしはその頭にぎゅっと抱きつくと頭頂部を力一杯撫でた。
「…ありがとね」
[主…]
大きな尻尾がふわふわと揺れて心地のいい風が部屋に舞う。
「もうちょっとだけ頑張ってくれる?もうすぐ夕食の時間だし、ミレーヌも起きると思うから」
[はい]
その間はあたしもまだこの感触を楽しませて貰おうと、もう一度元の場所に横になる。
[あの…主、名前をそろそろ…]
あぁ…また忘れてた。っていうか忘れてたかったというか…名付けセンス0のあたしにとって名付け程悩まされる事は無く…キラキラと希望に満ちた視線からすっとそらした視線は宙をさまよう。
「名前ねぇ…」
頭の中に浮かんでくる動物の名前と言えば『ゴン』や『太郎』、『次郎』、『セバスチャン』、『ゴロー』…いかんせん紅い狼には似合わない。そんな悩めるあたしの頭にふっと言葉のフレーズが浮かぶ。
『小春日和』
たまたま浮かんだその言葉だったけど、何だか暖かい寝床は『穏やかで暖かい天候のこと』という意味がぴったりな気がするし、それに今はちょうど11月。あたしの聖獣だし…全てがぴったりあてはまる気がした
「コハルにしよっか…」
あたしはぼそっと呟いた後に聖獣に視線を戻す…そして固まった。
え〜…っと、あたし何をとち狂ったんだろうね?この紅い狼のどの辺が『コハル』なの?『切り裂きジャック』の方が似合いそうな風体に何故『コハル』?これはあたしのオバカっぷりが如実に現れすぎてて痛い、痛すぎる。
「あの…ちょっと…やめ」
[コハル……嬉しいです。主]
やっと貰えた名前に感無量なのかニパッと開けた口に食されそうで怖いし、尻尾が尋常じゃなく揺れてるのを見てしまうと……今更、見た目エグイから訂正なんて出来ない。
[コハル…コハル…]
そう何度も言葉を繰り返す紅い狼は…見た目はまぁ置いといて、行動は可愛い。
「気に入って貰えて……よかった」
まぁ…見た目もずっと一緒にいれば慣れるでしょ。小ちゃいバージョンのコハルは充分『コハル』で通用するし…喜んでるし…ま、いっか。
[主…名前を呼んで頂けますか?]
「…ん?あぁ…コハル」
[……ありがとうございます。主]
コハルの尻尾風圧が強かったのか横で寝ていたミレーヌがむくっと起きた。
「おはよう、ミレーヌ」
「…んぅ、ヒヨ…おはよう?今何時ぃ?」
「もうちょっとしたら給仕の時間」
「あぁ…そっか、獣ちゃんのお腹が気持ち良くて寝ちゃったんだ…」
意外と寝起きのいいミレーヌは「おはよっ獣ちゃん!」とあたしを乗り越えてコハルに挨拶をしている。獣ちゃん…そう言えば…ミレーヌの名付けセンスはいかほどの物なんだろう?コハルへの若干の抵抗が残るあたしとしては最後にちょっとだけ足掻いてみたい…
「ねぇ…ミレーヌ。ミレーヌだったらこの獣になんて名前付ける?」
「…?あたしが付けるとしたら?」
ミレーヌはコハルの顔に抱きつきながら、う〜んと唸っている。やっぱり…12歳には名付けは早過ぎましたか…
「そうだなぁ…見た目カッコいいし、ヴァルフレームとか…ネヴィルグレス…ヴィヴィアレムとかでもいいかも…」
……カッコいいじゃん。しかも紅い狼にすっごく合ってるし…っていうか何気にミレーヌ名付けセンス神レベルじゃないですか。
えぇ…お姉さんは自分の名付けレベルの不甲斐なさに…かなり凹みました。
一応じとっとコハルに視線を向けてみる。
「…コハル」
[はい主]
「え〜この子『コハル』って言うの?」
てっきり似合わないと言う言葉が続くのかと思ったのに…
「いいなぁ…言葉が…ヒヨと同じ香りがする」
ミレーヌは自分で言った名前候補などすっかり忘れて「コハル、いい名前ね!羨ましいぞぉ!」とコハルの頭を撫でている。撫でられたコハルも嬉しそうに尻尾を振っている。そんな二人を見てしまうと…名前の変更など言い出せるわけもなく…。
小春日和はコハルとヒヨリになり、紅い狼は正式に、聖獣『コハル』となりました
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何気なく初めてしまった小説に、こんなにたくさんの方が読者となって下さって私はとても幸せ者だと思います
読んで下さった方一人一人に、心より感謝申し上げます。
これからもどうぞよろしくお願いします。