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至上最強迷子  作者: 月下部 桜馬
2章 魔術学院入試編
47/85

47話 こんなん出ましたけど…

 揺れ動く物体を手で触れるわけにもいかず…とりあえず手近にあった願書が送られてきた箱を逆さにして被せてみた。…別に臭い物には蓋をしろではないけれど、一旦視界からアウトさせて落ち着きたい。


 「さて…どうしよう」


 カタカタなる目の前の箱はちょっとでも振動を与えると割れ始めそうな気配で…っていうかむしろそれを望んでそうな感じがする。


 「割って!割って!」…みたいな?


 …このまま試験に持っていくか?とも考えたけど、そんな事をすれば折角手に入れた平凡な日々が粉々に砕け散りそうだし…まぁそれよりもこれを帝都まで割らずに持って運ぶ自信も無い。


 「…お願いします。出来る限り小さいモノが産まれてくれますように」


 『パンパン』と特に神様に祈るわけでもないのに柏手を打ってしまうのは…やはり日本人の性っぽいななどと考えつつ、運ぶにしてもデカイ生物を運ぶのは色んな意味で困るからとか、大型が生まれる可能性とかいらないんでとか、生まれてしまうのは止めようがなさげですから出来る限りコンパクトに生まれて頂けたら、何て自分勝手な事はしっかりお願いする。…でも出来ればもう少し生まれるのを待って頂けたら尚嬉しいです。


 しかし…八方塞がりとは強制的に解決される物で…



 ドガァァァァァン!!!!



 吹き飛ぶ玄関扉、それは机に見事にヒットしてくれた。待ってましたとばかりに弾け飛ぶ空箱、そこから赤く煌めく煙のような霧が舞い広がり、その向こうに憤怒の形相なミレーヌが立っている姿はまるで美しい地獄の絵図で…美人がキレると怖さ倍増だってこの時まで知らなかった。


 「あれ…」


 何気にあたし色んな意味でピンチかも知れない。


 「ひぃぃぃよぉぉぉぉりぃぃぃぃぃ」


 ミレーヌはドスン…ドスン…と聞こえて来そうなぐらいにゆっくりと歩み、地を這う声を出しながらあたしを睨みつけてくる。


 「どぉいぅこぉとぉかぁせぇつぅめぇしぃてぇくぅれぇなぁいぃぃぃ?」 

 「ひぃぃ」


 スピードが上がり駆け寄って来たミレーヌにあたしは思わず防御の姿勢をとってしまう…つまりあれです。片足上げて猿のように手をコの字にするあれです。



 でも何時までたっても想像した衝撃はやってこなくて…ちらっと薄目を開けてミレーヌに視線をやると、そこには今までの憤怒が嘘のように消え去ったミレーヌがハラハラと涙を流して立っていた。


 「み、ミレーヌ?」

 「っひっく……ひっく…どう…して?どうして…ヒヨリと一緒に…受験出来ないの」


 もちろんこの瞬間に、大人の自分が罪悪感にメッタ打ちにされましたよ?でも同時にきゅ〜んとなったのも事実です。あぁ…どうしてくれようこの義妹可愛過ぎる…


 …自分でいっぱいいっぱいで義妹の事を蔑ろにしてごめんよ。メルフォスさんとは帝国でライザ母さんとは戻って来てからいっぱい話し合いましたよ。ちゃんと君の事も含めてね。


 「あのね、ミレーヌ…」


 それからあたしはメルフォスさんとライザ母さんと相談した事をミレーヌに伝えた。

 テリサン村には子供がいない。子供を持つ者はどうしても帝都よりの街に引っ越し、いつのまにかこの村は大人だけの村となった。そんな中で育ったミレーヌには友達がいなかった。3年前にあたしが来て一番喜んだのはミレーヌ。友達が出来たとはしゃいでたのを覚えてる。


 …だけどあたしは中身は大人。どうやっても12歳にはなれないのだ。だからミレーヌには同じ年頃の友達を作るべきだと思った。一緒に平民クラスに入るのは簡単だけど…平民クラスは年齢制限のない無法地帯。それでは今までの村の扱いと同じになってしまう可能性が高かった。それに比べて貴族クラスは10歳から12歳の子供の集団。ミレーヌにとって初めての社会生活をおくるのにベストな環境だと思った。同世代の子達とこ社会生活から学ぶ事は意外と多いし、将来の糧になる。侯爵の血筋なら敬遠される事はあっても…ミレーヌの実力だったら直接いじめられる事も無いはず。


 「親から離れて生活が始まるのは皆一緒。頑張ってみる気ない?」


 貴族クラスに私がいるとミレーヌはあたしから離れない…それでは意味が無いのだ。厳しい事かもしれないけど…きっとミレーヌの心の強さがあれば先に楽しみが待ってるはず。…もし無理なら平民クラスに転入させてしまえばいいとか簡単にメルフォスさんが言ってたのもあって、あたし達はこの選択をしたのだと…


 「…だけどね、ミレーヌの気持ちが一番大事だから。今からでも充分に間に合うよ?どうする?あたしと一緒に平民クラス受ける?」

 「…ううん。あたし…頑張ってみる。貴族のお嬢様になんか負けない…それにヒヨリに会いたい時にはいつでも会えるんでしょう?」

 「そりゃ同じ学院だもん!大丈夫でしょ?」

 「ヒヨリっ!!義姉さんっ!!大好きっ!!」


 ミレーヌがあたしに飛びついてくるのをしっかりと受け止める。メルフォスさんとライザ母さん、そしてあたしの気持ちをしっかりと受け止めてくれた彼女は素直で強いと思う


 「お互い頑張ろう。で、嫌な事があったら今までみたいに愚痴を言い合おうね」

 「うんっ!!」


 キラキラ輝くミレーヌの笑顔を見てあたしも釣られて笑顔になったけど、次の瞬間にピシッと固まった。


 [主あるじ…話は終わりましたか?]


 ミレーヌの背後にふよふよと浮かぶ冷蔵庫サイズの濃いぃ紅色の犬?っていうより狼?……しかもどう見ても両目の他に額にも目がありますよね?背中にでっかい翼まで生えてますけど…



 「……あ、聖獣」



 すっかり忘れてましたけど、そういえば…卵どうなった?って目の前にこれが生まれてるって事は…


 […我は魔魂より生まれし、主に使えし者。主、私に名を授けて下さい]

 

 …やっぱり。ミレーヌが「何?」と振り向こうとするけど…とりあえず胸に抑え込む。だってこれを見たらさすがに普通に卒倒するでしょ。あたしだって食われるんじゃないかって内心ビビりまくってるし…


 「あのさ…名前の前に…もう少し、サイズ小ちゃくならない?」

 […これでも充分小さいです…主が私が生まれる時に願った事で身体を変化させる力が備わりました。この50倍ぐらいがわたしの魔力でいうと標準サイズです]

 「ごっ……」


 取りあえず絶句。

 50倍って…村壊滅するし…聖獣っていうよりモンスターでしょ…それ…


 [主…ヒドい…]

 「あ?」

 

 どでかい尻尾が後脚の間に収納されるのを見て、犬属性だと確信する。というか何であたしが頭で考えた事に反応するの?


 [主の心の声……外に漏れてます]


 おっと動揺で、自分が喋ってる事にも気付かなかったよ…


 […この姿ではご満足頂けない様なので]


 聖獣はそう言うと、自分の身体を回転させた。翼からでる風力で部屋の物がひっちゃかめっちゃかになったけど…まぁ…いい。そして現れたのは人の頭ぐらいのサイズで同じ姿をしていたが、耳と尻尾と目(額以外)がやたらとでかくなっていて、その耳にはたくさんの耳飾りがついていた…


 「…これまた…デコラティブね…」

 [魔力を散らさなくてはならなかったので…でもコレが限界です…これ以上は魔力を圧縮する事が出来ません。この姿もずっと維持するのは正直ツライです]


 …正直可愛い。紅い身体はビロードみたいに見えるし…触り心地良さそうだ。これならミレーヌも大丈夫だと思って暴れまくっていたミレーヌを解放する。


 「ぷはっ!!もぅ!!死ぬかと思ったっ!!」


 そして振り返って固まる事5秒…


 「何コレ!!可愛いっ!!!!」

 [なっ…ちょっ…と、主!!!]


 ん〜美少女と愛玩犬が戯れる図…素晴らしい、目の保養だ。これだけで聖獣グッジョブと思ってしまうあたしはやっぱり現金なやつらしい…

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