44話 駆け引きに爆弾は重要です
さて…今とても困った状況にいます。期待を込めた目で見つめてくる皇帝の視線に焼き殺されそうです。その場しのぎの言葉って駄目ですね…「こうしましょう」の『こ』の字も思い浮かびません…
「あぁのぉ…」
どうする?どうやってこの難局を乗り越える?
…とにかく接点はひたすら少なく、それでもこの黒の加護者ぞっこんラブを納得させる方法は…
「あっ!」
そうだっ!あれにしようっ!!
ただ下手に話すと全く受け入れて貰えない危険性があるし…あたしは思いついた事をどうやって皇帝に伝えるか言葉をゆっくり選ぶ
「あの…皇帝」
「何だ?私に何をして欲しい?」
どうやって相手を納得させるかはここからすでに戦いは始まってる。
頑張れあたしの営業魂っ!!
「出会いが出会いだったので、今のままでは…いくら皇帝が側にいてもあたしが信頼出来るようになるとは思えないんです」
「……それで?」
「私の故郷には毎月手紙を書く事を条件に学校へ行く事を支援して頂くというシステムがあるんです。だからそれにちなんで私毎月皇帝にお手紙書きますので、ひっそりこっそり陰から支援して頂くというのはいかがなものかと…これならば私も故郷であった事なので受け入れやすいですし…貴方の事もわかるのではないでしょうか?」
…えぇ、これはもちろんあの有名な童話ですよ。勝手にシステム化したのはご愛嬌です。これならば皇帝との接点は最低限、支援というのもこちらに不足がなければ受け取らなくて済む話
「…陰から?」
「はいっ!陰からでお願いします!皇帝が表立って身内でもない一個人に肩入れするのはやはり色んな方面から見てもどうかと思いますので…」
沈黙の時間…皇帝は顎に手をあてて何かを考えてる。あたしは心の中で両手を組んで祈りを捧げた…無宗教だけど、この世界に神様がいるのならあたしの願いを聞き入れて!!
「そのシステムは…アサミズに会うことは出来ないのか?」
「え?……あの…その…」
一切会えないとか返事したら、全部却下されそうだし…ここは秘儀『営業駆け引き』
「一切会えないわけでは無いです。ただ本来支援されてる人は支援者の顔は知らないシステムですから、他の人にばれてはいけないシステムなので、会う機会があっても見知らぬ人のように接すると思います」
「見知らぬ人…」
あぁ…やばい…皇帝の気持ちが否定に向ってるのが手に取るようにわかる。
「で、でも!あたしと皇帝は見知らぬ人じゃないですし、秘密裏に会うのなんかどうでしょう!ほらっ!紋章使いと加護者の二人だけの秘密とかいいじゃないですかっ!」
「紋章使いと加護者の秘密…」
よかった…かなり肯定に気持ちが戻ってきたぞ…最後のもう一押し!
だけどその前に確認しなくちゃいけない事がある
「ところで全然別の話なんですけど、魔術学校って入学資格っどんな感じなんですか」
「魔術学校のか?…確か貴族は魔力を持つものであれば簡単な実技テストだけで優先的に入学出来る。そして枠は少ないが平民からも筆記試験と実技で入学することが出来る筈だ」
「年齢制限は?」
「特には設けていない。魔力は血の系統によるものが多いからな、必然的に貴族に集中している。故に平民で魔力の才能を持つもの自体が希少だ。貴族は10歳前後で入学するのが普通だが、平民枠は子供から大人まで幅広い」
よしよし。あたしの期待通り。
夏生から年齢制限が無いって聞いて、それなら実力社会なんじゃないのか?ってちょっと思ったのよね…
「平民が試験を受ける時って後見っているんですか?」
「いや、さっきも言ったとおり平民の中で魔力を持ってる事が稀だからな、平民クラスは実力世界だ」
「平民クラス?」
「あぁ。貴族と平民では魔術学院の中でもクラスが分かれる」
なるほど…なるほど。
「あのぉ~もしメルフォスさんの後見で入学するとなると、貴族扱いなんですかね?」
「もちろんだ。メルフォスはグライバール侯爵家の者だからな」
…おぉ!ある程度予想はしてたけどメルフォスさんはやっぱり貴族様だったんだ。しかも確か侯爵って上位の家柄じゃなかったっけ?という事はミレーヌとは貴族クラスか…う~ん。これはメルフォスさんの後見人程度でも注目される事になっちゃいそうだ。ミレーヌと別れるのは寂しいけど仕方ない
え?何でかって?そりゃもちろん
「あたしメルフォスさんの後見もお断りして、平民で一般受験しますから」
ま、その為に試験勉強して来たんだし…ミレーヌの試験勉強は全く無意味だったけど…
「メルフォスさんが貴族だって事を知らなかったので身元引受人をお願いしましたけど、皇帝の後見もお断りした以上、彼の後見も受けないっていう方が平等ですよね」
「ちょっ、ちょっと待て!アサミズ!!」
「あたし頑張りますから、これであたしの話受け入れて貰えますよね?」
とにかくあたしは平穏な日々を過ごしたい。それはテリサン村でも魔術学院でも一緒。
で…最後に爆弾を投下します
「受け入れてもらえないと、あたし学校には行かないで修行の旅に出ますから。お手紙どころか居場所さえご連絡出来ないかもしれません」
「っ!?」
にっこり笑って皇帝を見ると、彼の背後に白旗が見えました。
とりあえず一勝。『脱・黒の加護者ぞっこんラブ』も三歩ぐらい進んだ気がします




