39話 記憶のカケラ
優しく頬を撫でる風に目を開けると大きな樹の前に立っていて、足下は少し泥濘み膝までの草が生い茂っている。それは見渡す限り続いて…さっきまで城の皇帝の部屋にいた筈のあたしは溜息をついた
…またわけのわからないまま変なとこにいるんですけど?
皇帝が黒の加護の説明を何か言ってた気がするけど…後半良く覚えてない。
「どこなんですかね〜ここは?」
何だろう?
こういう事も2度目となると意外と耐性がつくらしい。
皇帝が言ってた魔式が関係してるのかも知れないけど、確かめようにも本人居ないし…
ここの人に確かめようにも周りに人っ子一人居ないし…
あたしは目を閉じてもう一度溜息をつく。身体を反転させ背中を目の前の大樹に凭れかけさせ、皇帝が言っていた魔式を何となく口ずさむ
「魔式 α型発動『視覚領域 記憶解放』」
『…アサミズヒヨリ。黒と白の加護を纏いし者』
「はっはぃぃ?」
突然聞こえた声に、あたしは大樹から身を起こし辺りを確認するけれど、目視出来る範囲に人影は見当たらない。
すると背中の大樹から大きな魔力が近づき、あたしの身体をすり抜けた。すり抜けた大きな魔力は光り輝くと一度小さく集約され、再び大きくなった時にはあたしがよく知る形になっていた
「な、夏生?」
その姿はどうみてもあたしが愛していた『夏生』だった。
「どうして?だって、な…夏生はあたしが就職する前に…死んじゃったのに…」
だけどどう見てもそれは夏生の姿をしていて、あたしをまっすぐ見つめてくる。
あたしは自分の見ているものが信じられず、消えてしまうのが怖くて手も伸ばせない
『…アサミズヒヨリ?』
更に驚愕な事が起こった。
「な…夏生が喋ったっ!?」
『…これは喋らないの?』
「だ、だって…」
…だって犬だし。
夏だったから、夏生と名付けたあたしが一番最初に拾った犬。
その犬が喋ってる姿は18年一緒にいて、もちろん一度も見た事がなかった。
『これは夏生って言うんだ?君の中で一番心を許せるものの姿を形どったんだけど…』
えぇ…そりゃ夏生相手には色々人には言えないような事も言いましたよ?
言いましたけど…一番心を許せるものが犬って…どうなんでしょうね?
しかもすでに当犬は他界して、更にあたしは別世界に居るのに未だ現役で心を許せるトップってどう言う事なんでしょう…
『遠い目をしてるとこ悪いけど、君がここに居られる時間には制限があるから戻ってきて』
「制限?」
『そう、ここに居られるのは黒の紋章を持つ者、つまり君をここへ飛ばした皇帝の魔力が保つ間だけ、つまりそんなに長くないから簡潔にちゃちゃっとしてしまおうね』
…何だかノリが異様に軽く感じるのはあたしだけ?
しかも…見た目犬がそう言ってるのだから…どうなのよ?
とりあえずあたしは「はい…」と返事するしかなかった
『ではまずこの世界の仕組みから…君が居た世界をAとして今君が居る世界をBとする』
「ちょっと待ったぁ!!」
すんごいさり気なくあたしが居た世界とか言いましたけど…それってもちろん日本の事ですよね?
「あ…あの、貴方誰なんですか?」
確実に夏生ではないですよね?
『…そこから?』
若干嫌な顔しましたよね?犬の顔なんでわからないと思ったら大間違いですよ?
あたしと夏生の付合いですから嫌な顔ぐらいすぐわかります!
『僕は黒の支柱って呼ばれている。名前は夏生でいいよ』
黒の支柱…そういえばそんな事を遠くの方で皇帝が言ってましたね。
夏生でいいって…適当だな…おぃ。
『話を戻すよ。AとBの世界を君は別の異世界だと考えてるようだけど…実際はちょっと違う。君たちが地球と呼んでいるAの中にアナストリアも在るし、君が今居るBのアナストリアという中に地球も在る』
…いや、意味がよくわかんないんですけど?
しかも…犬が難しい言葉喋ってるから余計に意味わかんなくなる。
現実に私の世界にはガルフェルドなんて国は無かったし…無かったはず?
『並行世界って言えば納得する?Aは白の支柱が支えてる世界。Bは僕、黒の支柱が支えてる世界。Aは世界を白の加護で形成しているし、Bは黒の加護で形成している』
「ま…魔法なんて元の世界ではありませんでしたけど?」
『簡単に説明すると、君の世界は『縦×横×高さ』の3次元が基礎になってる。僕の世界は『物質×生命×力』が3源力が基礎になってるんだ』
「物質だって3次元の理に入ってますよ。何なんですかその基礎は…」
『だから…同じ物質でも、その3次元の法則にあてはめる事自体が白の加護なんだよ…』
……自分の考えの根底が覆されて、オーバーヒートです
はい、敢えてさっきはスルーしましたけど…
何かね、黒の他にも増えてるんですよ…自分のオプションが…
白の加護って…何?
今回はかなり説明モードです
後2回ぐらいはこんな感じっぽいです
ただヒヨリの謎は解けると思います