34話 絶対絶命、これって走馬灯?
異変を感じ取ったのはまず身体だった。突然全身がぞわっと総毛立つ様な感覚、その正体を確認しようとした途端に突風に襲われる。
「なっ…!」
「ごめんね、アサミズちゃん」
突如空中に現れたのはさっきの緑の髪の男、確か名前はフロなんたら…だった。
彼はジョゼの横に降り立ち、彼を冷たい視線で一瞥すると、こっちに視線をやりながら、口で何かを詠唱し始めた。
一度、ニタリと笑みを浮かべ、あたしへ向かって手を掲げてくる。
…やばいっ!!攻撃される
あたしは咄嗟にとれる防御魔法なんてたかが知れていて、その瞬間に出たのは先日ミレーヌが暴走した時に発動させた空気を固定する魔法だった。
炎があたしを包む様にして襲ってくる。だが固定された空気は遮断の役割を果たしてくれたらしく多少の暑さは感じるものの炎が直接襲ってくる事は無かった
炎の壁からちらちらと見えるフロなんとかは腕を組みながら左手を口元に持っていった状態で親指の爪を噛んでいる。顔は笑みを浮かべて人を試すような感じ。
…いい人撤回。あいつ…気持ち悪い。
しばらくその状態で耐えると、炎の攻撃が止まった
フロなんとかは同じ状態で笑ってる。
「へぇ〜やっぱり君…本物のアサミズヒヨリだったんだ」
「チ・ガ・イ・マ・ス」
こんな気持ち悪いやつに本名名乗るほど頭悪くない。
ただ相手も簡単に騙されるような奴じゃないのは確かで、それを聞いて笑みを深くした
それにしても…
「…あんた…やっぱこいつらの仲間だったのね」
「…僕がこいつらと?」
そう言うとフロなんとかはジョゼが手で庇っている場所を蹴りつけた。「ぐぅっ!」といううめき声をあげてジョゼが吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられる。
「な…なにするのっ!!」
「どうして怒るのさ?君を襲ったやつらだよ?」
「…………」
フロなんとかは『人』を攻撃するのに何の躊躇も無い。それどころか笑みを浮かべてその行為を楽しんでる。
…快楽殺人者。
浮かんだ考えに…尋常じゃない汗が身体から吹き出してるのがわかる。
さっきの炎の攻撃はかなりの炎の量だったのに、フロなんとかは平然と繰り出していた。つまり彼はかなり魔力を持った上級の魔法使いだと言う事がわかる。
…こんなやつにあたしのにわか魔法が通じると思えないんだけど。
考えろ…あたし。
どうすればこの状況を打開出来る?
視線を倒れている悪者二人に向ける
悪者助けるっていうのもなぁ…でも助けないと他の子の行方わかんないし。
…でも悪者って、目の前で笑ってるやつのがよっぽどやばいじゃん。あいつに比べたらキッシュもジョゼもおこちゃまな悪さだわよ…
とにかく何か思いつくまで時間を稼ぐしかない。
「…ど、どうしてこの場所がわかったの?」
「ふふ…ヒミツさ」
あの時確かに彼は人混みをそのまま進んであたしから離れていった。変な追跡魔法をかけられた感覚も無かったし、かなり移動したこの場所を特定するなんて、広範囲の捜索魔法みたいなものを使ったとしか考えられないけど…でもその中でもあたし達だけを特定出来る程の魔法なんて…
相手の力が測れないってこんなに恐怖なんだ…
「あの手配書の絵って白黒なのがネックだよね〜。はっきり特徴がわからないじゃん」
「……何の話よ」
突然話題を変えられて思わず聞き返してしまった。
「『アサミズヒヨリ』を皇帝があんなにやっきになって捜すからさ…てっきりそうだと思ったのに」
確かに筆のような物で書かれたあたしの似顔絵は白黒だった。あたしは自分の髪が黒髪だからそれに対して違和感を持ってなかったけど、この世界の人なら黒髪に違和感を感じるんだし、白黒の絵からあたしの髪の色を別に連想してもおかしくはない
しかも今のあたしは茶髪だし…
「『黒の加護』っていうぐらいだから髪が黒いのかと思ったけど、君、薄い茶色の髪してるしさ〜」
『黒の加護』
…また出てきた。
どうやらこの世界であたしが過ごすには切っても切り離せないワードらしいけど…全然わかんないし。
「…そんな加護知らないし」
「そうだよねぇ。君が『黒の加護』を受けた者なのか…わからないよねぇ。瞳を見たいけど…その色眼鏡が邪魔しちゃってくれてるし」
さんきゅ〜サングラス!!!心底あたしは自分の発明に感謝した。
「…殺しちゃえば確認できるかなぁ?」
「こ…殺す!?」
フロなんとかはまだ笑っていたけど、さっきと違い目は剣呑な光りを宿してる。
あたしに近づくフロなんとかの足音が響き渡る。
え〜っと…黒の加護って殺しちゃっていいんですか?
つまりこの世界にいるとあたし命狙われちゃうって事ですか?
…あたし絶対絶命な気がするんですけど。
笑いながらフロなんとかがあたしに向かって手を掲げる。
「さっきみたいに試すんじゃなくて、一瞬で殺してあげるから」
そういうとフロなんとかの周りに風が巻き起こる。どうみてもさっきの炎より強力そうなそれは彼の属性が風な事を物語っていて…
…こんな時って逆に冷静になるのかもね。
渦巻いた風が切り裂く刃となってあたしに降りかかる
やけにゆっくりとその現象を見たあたしが考えたのは
もしやこれって走馬灯?やばいじゃん…あたし死ぬの?
って事だった。