28話 速便は速かった
なんとか魔法の渦に筒が飲み込まれるの阻止するべく差し出した手は見事に宙を舞った、あたしはそのままミレーヌを振り返りにっこり微笑む。
もちろんその笑顔とはミスマッチの、どでかい怒りマークが額には浮かんでいる
「あれ…ひよ」
「みれぇぇぬぅぅぅぅぅ」
笑顔とは真逆の地を這うような声を出した
「え?…あれ?もしかして…不味かった?」
ミレーヌは剣呑な空気を読んで椅子から立ち上がり、笑って誤摩化しながら扉へとちょっとずつ下がっていく
「えへ…えへへっ」
「もしかしてじゃなぁぁぁぁいっ!!!!」
…逃がすかっ!!!
「しゃぁーーーっ!!!いつも人の話はちゃんと聞けと言っているでしょうがっ!!」
「きゃーん!!!」
…12歳の少女にマジ切れするのもどうかと思うが、あれによって自分の生活の危機を迎える事になると思えば、やはりここは怒ってしかるべきところだと判断する
フルフル震える子猫のようなミレーヌ。
「だって…だって…!!」
「だってじゃないっ!!玄関の事と言い、学習能力が低過ぎるっ!!」
そう、こういうミレーヌのところに多大な迷惑を被ったのは一度や二度では無い。例えば旅人の青年と笑いながら話しただけで『恋なのね!』と言って無理矢理デート紛いの物をさせられたり…
最終的にその青年はミレーヌに一目惚れしていた事が判明したが、彼はミレーヌにこっぴどく振られ、それどころか「ひよは遊びだったのね」などと言う彼にとっては意味不明な濡れ衣を着させられ、傷心のまま、また旅立っていった。
…つまりミレーヌの頭の中は常に乙女モードの花満開なのである。しかも他人限定で…
「言う事があるでしょうが!!!」
「ご、ご、ごめんなさぁーーーーい」
まぁ…頭の中が満開なだけで本人に悪意がないからいつもこれで許していたのだけれど…今回はいかんせんまずい。
…伝達鳥が着いてからの手紙までのスパンが短過ぎる事を考えると、あちらさん返信の手紙が着いてからすぐに行動を起こしかねない…しかも速便だし。
あたしどれだけ迎えを要望してんのさ…
あぁ…早1ヶ月って、まだ1ヶ月の間違いでしょうが!!
あたし色々片付ける事があるってあの時ちゃんと言ったよね?
もう少ししたらメルフォスさんが帰ってきて、そこから引っ越しするらしいから、それまで待ってて貰えるようにもう一度間違えましたぁって手紙を送り直そう。
「そうだっ!!そうしようっ!!よし、ミレーヌもう一度速便よろし…」
ピンポーン!
…元の世界から聞き慣れたあたしの作品『ドアベル1号』が作業場に鳴り響く
「…………」
ピンポーン!ピンポーン!!
「………」
ピンポン!ピンポン!ピンポン!!
連続押し…まさかね…そんなまさかね…
「ひ、ひよ…お客さん?」
「しぃー!!!」
話しかけるミレーヌの口を思わず手で塞ぐ。
いやいや、一緒に『閉店』の看板出したじゃん…ライザ母さんだったらドアベルなんてならさずに入ってくるしさ…村人さん達もあたし達が受験勉強してるって知ってるから訪ねてなんて来ないしさ…後考えられる人なんて…ふふ…
あたしの勘違いで…このまま居留守で帰ってくれると非常に助かります
ドンドンドン!!
はい…玄関叩きだしたよ。
「あさみず!!居ないのか!?」
……はぃ?
「…出かけてるのか?……だがあの手紙は確かにこの座標から送られてきたしな」
すみません。独り言が丸聞こえなんですけど…しかもこの声…心当たりがありすぎるんですけど…。しかも独り言はミレーヌにも聞こえたのか、あたしが塞いだ手の下で青くなって、必死に玄関を指差している
……ですよねぇ。きっとあたしの想像通りだよねぇ。
一先ず裏口から逃げる!それしかない!!
…て、あたしのお馬鹿!
お風呂の増築で裏口潰しちゃってるじゃん!
「…何だ?この玄関開くぞ…」
「しまっ!!」
しまった…今朝ミレーヌが玄関たたき壊したの、鍵直してなかった…
「失礼する…あさみず!!居たのか!!………何をやっている」
「………」
口を塞がれた美少女を連れて端っこに逃げるあたしは、絵づら的にどう見ても立てこもり犯でしかなく、駆け込んだ貴方はまさしく王子様。もちろん助けられる姫はミレーヌで犯人あたし…
……み、ミレーヌ連れて行ってくれないかな?
とりあえずミレーヌを前へさしだしてみる。
「……ひ、姫を帰します」
「ひっひよ!?」
ごめん。これで速便の件ちゃらにするから大人しく連れて行って貰って下さい
「あさみず…何を言っている」
「ですよねぇ~」
えぇ…わかってますよ。
わかってるんですけどね
その前にあたしはとぉぉっても聞きたい
…皇帝…何であなたがここにいるんですか?
…何だか脳内のあらすじがどんどん膨れていって、えらく長い話になりそうな気がするのは…どうしたものでしょうか。