20話 『美形男が口にする言葉10選』は望郷の念を呼ぶ
今の感想は…針のムシロです。
2時間この状態とかありえません。
一挙一動を監視されてるというか…
ちょっと手を上げただけで誰かが話しかけてきます
しかも
「どうかされましたか?」
「何かご不興でも?」
いや…別にただ伸びただけで…
「「申し訳ありません」」
「………」
目の前で頭を下げる使者の方々。
…あたしは魔王か何かですか?
皇帝は人に呼ばれて「ちょっと待ってて」と言い残し部屋を出て行き、それからずっとこんな感じ。
…非常に居た堪れません。
これでも涙が出るくらい説明したんですよ
あたしはあくまで平民だと…力説に力説を重ねた結果。
…なぜか魔王と化していました。
力説が仇となってさっき以上に萎縮されたらしい。
仲良くしようにも今日初めて会った人、しかも異世界の他国人なんていくら営業人間といえど越えるにはハードルが高すぎて…しかもとどめにあの皇帝の一言ですから
それならば邪魔にならないように黙って隅の方に座っておこうと思って移動したら、ずっとこっちの様子を伺われて、しかもあたしが喋らなければ…みんな喋んないし…重い!重すぎます!!!
とにかく何とかこの空気を打開しようと側に居た人に話しかけてみる
「後…どのくらいで発たれるんですか?」
「申し訳ありません!!!ゲートの使用許可が下りるまで待機状態でして…」
…全力で謝られました。
「………」
「………」
ガース国の人と見詰め合う事5分。
逸らされる事の無い相手の視線はだんだん潤み始めてる
…いや、泣きたいのこっちだし。
もう無理だと思って立ち上がったら、同時に扉が開いてそこに皇帝が立っていた
「あさみず、待たせたね」
「皇帝!!」
うん、今腕を広げてくれたら気持ちよく飛び込む。
実際は皇帝は腕を広げなかったので側に駆け寄るだけだったけど…
駆け寄るあたしを見て皇帝が破顔した。
その笑顔…毒だけど背筋にぞぞぞって何かが走ったけど、今は素直に嬉しい!
だからあたしも笑顔を返す
「使者殿、ゲートの準備が出来たのでご案内しよう」
良かった!!皆さん!!
苦行の時間は終わりを迎えました!!!
と振り向いたあたしが見たものはガース国の使者達が驚愕で固まってる姿だった
「…おや?」
そんなガース国の人にあたしの注意が向いている隙に、また皇帝の手が腰にあてられる
「うわっ!!!」
…しまった油断した。
「さ、あさみず。こちらだ」
この部屋に来た時と同様にさりげなくエスコートの形をとられてしまったあたしは、今更逃げるわけにもいかず素直に従った
…気にしない。気にしない
あたしは子供。子供なのっ!!
これはお兄ちゃんに手を取られてるのと一緒なのよ!
………
…………何て思えるかぁ!!!!
何このさりげなさっ!!
歌舞伎町のホストでもこんなにスマートに女性を扱えないんじゃない?
…行った事ないから比べようはないけど、この女性!って感じの扱いがムズムズする
「…皇帝。あのこんな風で無くてもきちんとついていきますから…」
「女性をエスコートするのは男性の義務だ」
…出たぁ!
美形男が口にする言葉10選に選ばれそうな台詞!!!
しかも皇帝、恐ろしい事にこの台詞が似合いすぎてる。
ムリムリムリムリ!!!
あたしのキャパをとっくに越えてます
普段のあたしならこんな台詞聞こうものなら、その台詞を吐いた相手とはとりあえず5Mほど距離をとるか、見下した笑いを送ってやるのに…
この城に来てからの自分は明らかにいつもの自分じゃない…
冷静?それって何?な状況なんて今まで陥った事無かったけど、こう立て続けにキャパが決壊されると元の自分に戻れる自信ありません。
…とにかく一刻も早く村という名の避難所に戻って自分を取り戻さなければ。
城に来る時は精神を完全武装して望まないと勝てない事がわかっただけでもよし!
何に対しての完全武装?と聞かれても困ります
だって全て未知との遭遇状態ですから。
これが世に言うカルチャーショックってやつですかね?
この世界に来て3年。
初めて異世界に来た事に押しつぶされそうです。
極度のホームシック。
今、凄く元の世界に帰りたいです。