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至上最強迷子  作者: 月下部 桜馬
1章 始動編
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2話 トリップは刺激的!?

 

 

 手配書に心当たりがあるかと聞かれれば…無いと言いたいけどありますと答えるしかなく、でも私にとって出来れば抹消したい過去なんです。


 手配書を見ながらあたしの記憶は嫌でも無理にこの世界に飛ばされた日に遡る。



 「刺激のある生活してみたいよ?」



 通勤途中で一緒になった同僚にそんな事を軽く言ったかもしれない…でも、断じてあたしは異世界トリップなどを望んでいたわけではなく…ってトリップした先でも刺激的な生活どころか全然モブ的な日常生活ってどういう事!?まぁ…その件は置いといて…

 


 でもトリップした場所が場所なだけに、初っ端は実は刺激的な事があったんだけど。

 いや…でもマジであんな刺激望んでませんでしたからっっ!!



 そう、あれは3年と少し前の話。



 それは極々、普通の日だった。

 しいて言えば、通勤ラッシュの電車で入口付近を取れてラッキー!ぐらいな日だった


 MPプレーヤーで好きなアーティストの曲を聴きながら、いつもと同じ時間に地下鉄に乗って、会社の最寄の駅で降りたら改札で同じ営業部の同僚、箱崎はこざき 那智なちと一緒になって、戯言をほざく彼女と会社に向かった。


 「日和はほんっとに現実主義者だよね?」

 「…そうかな?」

 「性格だって男かって言うぐらい淡白だし…容姿は可愛いお子ちゃまなのに中身それってどうなのよ!」


 二十歳過ぎた女に可愛いお子ちゃまは決して褒め言葉ではない…


 「まぁ…ね」


 確かに男兄弟に囲まれて生活してきたんで自分の性格が男寄りなのは自覚してる。学生時代も女子のノリにはついていけなかったし、友達も男の方が気兼ねなく付き合えたからそっちのが多かった気がする。

 お子ちゃま容姿なのは、身長が低くて出るとこが出てないからだろうけど、これで髪でも短けりゃどっからみても中坊だろうと自分でも思う。凹凸の無いあたしの唯一の女子らしさが腰まである直毛黒髪で、家族から絶対に切るなと断言されている。容姿全ては社会人になっても全く変化無かった。


 「日和って刺激ある生活とか求めないわけ?」


 何事にもストレートな物言いをする彼女は大学時代からの付き合いで珍しく女子の中で気があった貴重な存在だった。


 「失礼な、あたしだって刺激ある生活してみたいよ」

 「え~日和に刺激的な生活なんて似合わないっ!ビバ日常!」

 「………どっちやねん」


 なんて軽く突っ込みを入れながら、社員証をゲートに翳したときにそれは起こった。


 「っ!?」


 急に光で視界が遮られて目を瞑った。暫くして目をゆっくり開けたら、暗い世界で今ゲートにかざしていた社員証を右手に、思い切りビジネスバッグとスーツという違和感で天蓋付きのベッドの隅に正座してた。



 「んぅ…あぁんっ!」

 「……はぃ?」



 ベッド脇にある仄かな灯りで慣れてきた視界の先に広がってたのは美景…もとい美形の男女が全裸で絡み合ってる姿で…


 いや…いくら見た目お子ちゃまでも大人ですからわかりますよ?

 目の前の人達が×××《ピー》の最中だって事ぐらい…


 とにかく何で私がベッドに居るのか訳がわからないけど、この人達の邪魔にならないようにここから去らないといけない事はわかる。こんな場に遭遇されて相手が気不味くない訳がないし、こっちだってどう対応していいかわからない…

 

 

 …ここはこっそりベッドを降り…る事は出来ないらしい



 「…貴様は誰だ?」



 そこには裸で絡み合ってた筈の美形男が映画でしか見たこと無いような物をあたしに突きつけていた。それは包丁なんて可愛いものじゃなくて、刀…でもない西洋剣のような感じの物だった。



 「え~っと…」



 …これって本物?なんて悠長に構えている自分もいれば、この危機を乗り越えるための言葉を捜す自分もいたり、あたしはどうしていいかわからないという状況を初めて味わっていた。


 これが、所謂パニック状態ってやつ!?とテンションが上がる自分がいるのも訳がわからない



 「もう一度聞く、貴様は誰だ?」



 あ~美形女子が引きまくってるよ…。ま…そりゃ引きますよね。

 とにかくこの剣を下げてもらうのが先決で…


 「あ、怪しい者じゃないです。安佐水あさみず 日和ひよりと言います」

 「…アサミ…ズ、ヒ…ヨリ?それは名か?」

 「あ…はぃ。あのこれ…」


 しまったぁ~~~!いつもの営業の癖で名刺とか差し出しちゃってるし!!

 こんな怪しい人に身分明かしてどうすんのさっ!!しかも名刺取り出そうとしたら剣が動いたしぃ~


 「…何だこれは?」

 「名刺です」

 「…メイシ?何だこの文字は?」

 「…私の身分証明みたいな物です。文字は日本語なんで…」


 確かに西洋風な方々に日本語の名刺が通じるわけもなく、っていうか相手裸で名刺交換ってありなんですか?交換してないけど…


 「陛下っ!!早くその者を殺して下さいませっ!!そのような怪しい容姿の者!陛下を狙う刺客に決まっておりますっ!!!」

 「…はぃぃぃ?」


 陛下を狙う刺客?………つまり暗殺者って事?あたしが!?

 陛下って…この人そんなに偉い人なの!?って、何であたしこんなとこにいるの!?

 しかも殺すって何?これって銃刀法違反でしょ!?


 「ち…ちがっ!!」

 「余の寝所に許可無く立ち入っただけで極刑に値する」


 どんどん迫ってくる剣先にあたしは後退するしかなくて…ベッドからずり落ちるようにして後退してたらいつの間にか背中に壁があたって、あたしの頭上にはベッド横の灯りより明るい灯りがあって、『陛下』と呼ばれた男の容姿があたしの視界に飛び込んできた


 彼は銀髪に青い瞳で暗闇の中でも美形だとは思ったけど、こんなに人外な美形だとは思ってもみなくてあたしははっと息を呑んだ。ただそれは相手も同じだったみたいであたしの姿を見た瞬間、男の剣が下げられた。


 「そな…たは…」

 「誰かっ!!近衛ぇ!!!!!近衛ぇ!!!」 


 美形男が続けた言葉はベッドにいた美形女によって遮られ、あたしには聞き取れなかった。そしてその美形女の声に部屋の扉が開き、中世のようなマントを纏った兵士が駆け込んできた。


 「陛下っ!!ここは我々がっ!!!どうかお下がりください!!!」

 

 あたしの周りはあっという間に近衛と呼ばれた男達に囲まれ、美形男の周りにも男達がいて何か言い争っているようだが、あたしはそれどころじゃなかった。


 「貴様っ!!覚悟しろっ!!!」


 近衛の一人が剣を振り上げたのを見て、…殺される。と思った瞬間、また先程の光があたしを包んだ。美形男が「殺すなぁ!!」と叫んでいるのが遠く聞こえたが、その時にはもうあたしの視界は別の景色を映していた。



 その別の景色こそ、このテリサン村で、この村の人達と話す事によってあたしはようやく異世界トリップをしてしまったんだと気付いた。でも、そんな怪しいあたしでも村の人達は襲ったりしなかったし、それどころかあたしを迷子だと思って献身的に受け入れてくれた。



 それから3年平和にこの村で暮らしながら、何とか日本に帰る方法を探している。

 


 あたしはもう一度手配書を見て大きくため息をついた。

 あたしがこの世界で知ってる貴族っぽい人なんてあの美形カップルぐらいだし…逆に言うとあたしを知ってるのも彼らだけなので、つまりはあの美形男かその家族がガルフェルド帝国皇帝なわけで…



 「ねぇミレーヌ…。もしも…もしもよ?」

 「ひよ、どうしたの?」

 「皇帝陛下の寝所に潜入とかしちゃったら、指名手配になるかしら?」

 「………そんな馬鹿な人いないんじゃない?」


 

 …つまりは、なるって事だよね。

 あぁ、やっぱり一度謝りに行かなくちゃいけないのかな…

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