17話 昼ドラ渦巻く城事情
宰相とエリルさんが一緒に出ていってから数分で部屋の扉がノックされた。皇帝の返事とともに扉が開けられ、部屋に運び込まれる大量の食事にあたしは圧倒されてしまう
「はやっ!!」
「…そうか?」
いや皇帝…わかってないようですけど料理ってもっと手間のかかるものなんですよ?
並べられる食事の中に普通に手の込んだ煮込み物とかありますし…多分魔法で時短調理した物なんですかね?出来れば後で厨房を覗かせて頂けるとライザさんにいいお土産が出来そうな気がします
まぁ…それよりも今はこの空腹をどうにかしないと頭も働いてくれないですけどね。
「…食べてもいいですか?」
まだ並べられてる途中だけど、いい香りが立ち込めていて我慢の限界です
いつの間にか向かいに座る皇帝に視線を向けるとにっこり微笑んでくれる
「どうぞ。…そんなにお腹を空かせていたとは…すまなかった」
「いえ…では、いただきます!」
いつもの習慣で手を合わせて挨拶すると、あたしはとりあえずたくさん並べられたフォークやナイフから一番使いやすそうなフォークを選んで目の前の肉にぶっ刺した。
これでもかというぐらい大口で一気に頬張ると口中に香ばしい味が広がり、そのまま溶けて無くなった。
…有り得ない。感動…これは…
「激ウマ~~~~~~~!!!!」
…ほんとにこの世界の料理はおいしい。
元の世界でも食べる事が大好きだったあたしは、料理の点で言えばやはりこの世界はパラダイスだと改めて実感した。
元の世界と同じような食材でも何倍も味が濃厚な気がする。
あたしはとにかくお腹が空いていたので、どんどんお皿を空にしていった
その度に「最高!」や「宝石箱きた~!」などの言葉を発していると、皇帝が向かいのソファで肩を揺らして笑いだした。
「にゃんでふか…(何ですか)」
…口の中に食べ物が入った状態だったから変な言葉になってしまったのは許して欲しい
「いや…すまない。そんなに美味しそうに食事をする人を久々に見たのでな…」
えぇ!?
こんなに美味しい食事を食べて、仏頂面とかありえないし!!!
まぁ…ここに並べられた物でもライザさんのグリュスリーフに敵うものは無いけどね
「それは失礼ですね」
「…失礼?」
「食事を楽しめない環境なんて材料を作った人にも料理を作った人にも失礼です」
こんな美味しい料理を感謝出来ない環境なんて…とんでもない!
「そうか…昔はいつも食事は毒が仕込まれているかと…緊張の日々だったからな」
「ぶっっ!!!」
思わず口の中の物が噴射されてしまった。
「ど、ど、ど!毒!?」
「昔の話だ。今は料理も全てチェックを入れてるから大丈夫だ」
いや…そういう事じゃなくて…
…食べ物に毒が含まれてるってどんな映画の世界ですか?
「…も、もしかして…皇帝はある程度毒の耐性をつけてたりするんですか」
「そうだな。即死するような強い毒に関してはある程度の耐性は身につけている」
ひぃぃぃぃ!!
恐ろしい!都会っていうか城!愛憎劇から泥沼政治まで恐ろし過ぎる!!
…あたしは田舎ののんびりした空気の方がいいです…はい。
「普段は魔法である程度は防御している。だがもし相手の魔力の方が強かった場合に備えての措置だ」
…あたしは何もしてませんから。
皇帝より魔力が強いかもしれないなんて…脳の海溝に捨てましたから…
え〜
…食欲が激減しました。
まぁ…ほとんどお皿はキレイな状態だったんで、別名満腹ともいいますが…
少なくともこのお腹、3人前は食べた感じです。
「…ご、ごちそう様でした」
手を合わせて挨拶すると不思議そうな顔で皇帝がこちらを見ていた。
「さきほども手を合わせていたな?…それは何だ?」
あ〜こっちの世界では食事の挨拶無いんだった…。
ずっとメルフォス家で過ごしてたからすっかり忘れてた。
「ニホンでの習慣だったんです」
「祈りか何かか?」
「いえ…祈りというよりは材料と料理を作ってくれた人への感謝の気持ちです」
「ほぅ…。それはいい習慣だな」
あたしもそう思います。
何事にも感謝の気持ちを忘れなければ、争いなんて起こらないと思うんですけどね…
ま、そんな事はいいとして…
「あのぉ〜」
「どうした?」
食い逃げの様で凄く嫌なんですけどね…
「ところで、あたし…いつ帰れるんでしょうか?」
「……帰る?」
「はい。魔術学校に行くにしても一度村に戻りたいんですけど…」
「……村はどこだ」
「テリサン村です」
「っ!?」
…え?
…どうしてそんなに驚かれてるんでしょうか?
「…テリサン…村?」
えっと…あたし何か地雷踏みましたか?
踏んだ地雷がわからないんで対処の仕様が無いんですけど…
何だろう?
またまたピンチな様です