16話 腹が減っては戦…の前に死にそうです
いや…あのね。
これはどうみてもとばっちりでしょう?
「あさみず!!!お前のせいでっ!!!」
「えぇ!?」
いやいやエリルさん。
皇帝の言ってる事をよぉ~く考えて欲しい。全部自分達のせいじゃないですか?
しかも怒りをぶつける相手間違ってませんか?…怒りなら最初に理不尽な命令をした皇帝にぶつけて頂きたいんですけど…
そして果てしなくあたしにとって皇帝云々はどうでもいいです
…それよりお腹が空きました。
限界越えてます。
死にそうです。
これはもう早く解決して食事にありつかないとヤバい領域です。
一番てっとり早く解決出来る方法な気がしたんで、とりあえず無言であたしの目の前の背中を押してみる。
「…?…あさみずどうした?」
「…とりあえず一発ぐらい叩かれるのがよろしいかと」
「…え!?」
「だって、側室ってようは奥さんの事でしょう?相手が納得してないのに権力使って一方的に離縁って…それはヒドいと思います。そんな男は最低です」
目を見開いて驚くエリルさん。あたしの発言に固まったままの皇帝と宰相だったが。いち早く立ち直ったのは呆れた溜息をついた宰相だった。
「…あさみず。皇帝が側室を持った理由はただ単に子を残す義務の遂行です。皇帝がその義務行為をきちんと果たしていた以上、10年という月日がありながら子を成せなかった彼女達は側室の仕事を果たさなかったのですよ。それに対して何らかの決定を下すのは当たり前の事。その例外対象なのは正妃だけです」
宰相の言葉にエリルさんがぎゅっと唇を噛む。
…何てややこしい貴族世界。
そして、どうでもいい世界。
宰相の話を聞いて、彼女達がそれを理解した上での婚姻だという事はわかったけれど、ならその後の命令に従わなかったのも罪とわかった上での事らしく…
「法で正妃だけは皇帝自ら愛した者を選べます。我が国では子を産んだからといって正妃になれるわけではありません。もちろん継承者の位も産まれた順ではなく正妃・側室一位・二位と続きます。正妃がずっと空位の時もあります」
…別に聞いてないし、聞きたくないし、聞けば聞く程、面倒くささが増すし。
…というか、別にそんな『リアル大奥』豆知識を知りたいわけじゃないんです。
あたしはとにかく自分のお腹の為に解決して欲しいだけなんです!!
あたしは無関係だと誰か証明して下さい!!
すぐ村に帰るのが無理なら、せめて食事を下さい!!
「…あさみず。私は義務だとしても、彼女達を不当に扱った事など無い。家柄によって地位の高さはあったが皆平等に扱っていた」
…いや、それも聞いてませんから。
あたし全然そんな事気にしてませんから!!あたしが今気になるのは自分の空腹だけですから!!
何、この難局…さっきの皇帝の腕の中に飛び込むかどうかの方が何倍も簡単だった
フル回転でお腹の為に脳みそを働かせこの事態を打開しようとするけど、上手くいかず。深く考えれば考える程、お昼抜きのまま現状にいたる事など空腹な事しか思い出せない
…駄目だ限界だ。
『ぐぅ~』
思ったのと同時にあたしのお腹が盛大に鳴った。
だって仕方ないじゃないですか!!
ここに来るまでに転送魔法でかなりのエネルギーを消費してたんですよ?宰相と二人の時にすでにお腹が限界だったのに、帰れる策を微塵も感じさせない脳みそにお腹が反乱を起こしても仕様がないと思うんです!!
…お茶菓子ありましたよね?
あたしの視線はもうテーブルの上にある上品そうなお菓子にロックオンされていて、それ以外の事なんてどうでもよくなっていた。
…視線で殺す?上等です!!
このままだとそれより先に空腹で死にますからっ!!
人間、極限まで追いつめられるとどんな事もへっちゃららしく…一度たがが外れたあたしはとにかく栄養の補給を求め、ソファにどかっと座り目の前の茶菓子にカブリついた
あたしの突然の行動は残りの3人の空気を一変させたらしく。
「………あさみず」
宰相に話しかけられ、あたしはもしゃもしゃ口を動かしながら三人を見る。
…何ですか?その3人とも哀れむ様な見守る様な瞳は…
「……食事を運ばせよう」
「私が伝えてきますわ…」
「ならば…その後、私が宮まで送りましょう」
皇帝・エリスさん・宰相の今までの雰囲気は!?という突然の行動にあたしは口を動かしながら頭に疑問符をつけたけど、とにかく食事にありつけそうなのでひたすら目の前の茶菓子を宰相の分まで完食したのだった。