14話 「前門の虎、後門の狼」隠れていたのは雌ライオンでした
一通り宰相から魔術学院の説明を聞いた感想は、はっきり言って
「…めんどさいこの上無く、超厳しいですね」
学院自体は朝の9時から午後6時までらしい…いやいや、12歳をどれだけ拘束するの?無茶でしょ?このカリキュラム…まぁ…休憩は2時間あるらしいけど…
この学院だけでも、かなりゲンナリなのにさらに輪をかけて全寮制の寮がハンパ無い。
何?朝5時起床って…5時に起きて何すんの?
…門限6時半って何ですか?学院6時までなんでしょ?
しかも寮で自主学習時間って何?…習い事?んなもんいらねぇ~!!!
それを淡々と語る宰相も人じゃない…この似非オアシスめ~~~~~!!!
「…い、行きたくない…なんちゃって」
何で社会人で悠々自適な生活からこんな窮屈な世界に逆戻りせにゃならんのだ!!
基本怠惰人間なので、断固として反対…
「ならば城に住みますか?城ででしたら礼儀作法・貴族常識・ダンスなど社交界に出られる程度の嗜みは必需となりますのでみっちり教育させて頂きますが…」
「前門の虎、後門の狼」を身を持って体験…全然嬉しくないんですけど…。
嬉しくないけど、どうせ食われるなら身になる物のがいい。
「ま…魔術学院でお願いします」
「では、すぐに手続きをしましょう」
「ちょ、ちょっと待ってください。あたしにも今までの生活があるので、それをきちんと整理したいんですけど…お世話になった人達に挨拶もしたいですし…」
とにかく地獄への道は出来る限り先延ばししたい。
あぁ…出来ればドロンしたい。
テリサン村でゆっくりのんびりしたい~~~~!!!
「…それもそうですね」
宰相は手を口元に持っていって少し考えてるような感じだった。
頑張れっ!!あたしっ!!もう一押しだっ!!!
「では城から連絡を向かわせましょう」
おぉい!
それじゃあたし帰れないじゃないですかっ!?
どうやって宰相を説得しようかとあたしが考えてる間にバーンとまた扉が開かれ、そこにはさっき出て行ったと思った皇帝が立っていた
「あさみず!」
「あ…皇帝」
…どうやら宰相と話してる間に大分時間が経ってたらしい
目の前の宰相は皇帝の姿を確認するとすぐにソファから立ち上がり、横に避けて頭を下げた。あたしも座ったままだったけど釣られて頭を下げる
「お帰りなさい」
無意識にあたしから出た言葉に皇帝がこれでもかというぐらい笑みを深くする。
いや…単なる癖なんですけど?
「今戻った。話は進んだか?」
「はい。魔術学院に通って頂く了承を得ました」
「そうか。よかった」
…いや、了承って…ほぼ脅迫でしたよね?拒否権…何ですか?それ?
口まで出かけた言葉は宰相の笑顔を見て瞬時に飲み込んだ
彼を敵にまわすのは得策じゃないですね〜
「…アリガトウゴザイマス。ガンバッテベンキョウシマス」
…心が篭ってないのは許してください。
「?」
「…あさみずは魔術学院の厳しさを聞いて少し不安になったようです」
「そうか…だが、私がいる。私が守るから何かあったら言いなさい」
皇帝が手を広げてくれているけど…
え~~~っと、これは…あたしどういう反応すればいいんですかね…
対応に困って焦っていると宰相と目が合った。
…はぃ?
どうみても首を皇帝の方向にくぃくぃと振っている。
え?何ですか?それ…
…………あたしに皇帝の胸に飛び込めと?
それあたしの…死亡フラグですか?
飛び込んだ瞬間に不敬罪とかでメッタ切りに合うんじゃないでしょうか。
どきどきしながら宰相を見るとだんだん眉間の皺が深くなっていくのが見える。そのまま視線をギギギと動かし皇帝を見ると、希望に満ちた目でこちらを見ている。
「え~~~~っと…」
ぎゃ〜!!前後の虎と狼が一緒になって襲ってきてます!!
あたしが冷たい汗をだらだら流しながら究極の選択を迫られている中、また扉の方が騒がしくなったと思ったら扉がさっきの皇帝に負けない音で開かれた。
た……助かった!
とりあえずこの状況から救いだしてくれるなら何でもウェルカム!
出来れば急用とかで皇帝、もちろん宰相込みで引き取って欲しい
「エリルトーラ様!お待ち下さいっ!!」
「陛下っ!!!!」
駆け込んできたのは女性だった。
それを見た宰相は大きく舌打ちをし、皇帝は今までの笑顔はどこにいった?って感じで無表情で絶対零度な怒りを醸し出してる。
そんな雰囲気を全く察していないのか、飛び込んできたエリル…?さんはまっすぐにあたしに向かってくる。
あれ…この人どっかで見た事あるんだよね?
思い出せないけど、向かってくる彼女の表情を見て思った
虎と狼を押し退けて雌ライオンがやってきた…