第42章:豆腐の上の王宮と、地盤沈下の神罰
第42章:豆腐の上の王宮と、地盤沈下の神罰
「……いいか、よく聞け。これは『建築』じゃない。ただの『積み木』だ。それも、かなり質の悪いな」
聖ルミナス教国の王宮地下、薄暗い基壇部。
盆山茂は、懐中電灯(神域スペック・超高輝度LED)で巨大な柱の根元を照らし出し、吐き捨てるように言った。
盆山の後ろには、教国の国王と、彼がお抱えにしている「宮廷魔導建築師」たちが、屈辱と困惑が入り混じった顔で立ち尽くしている。
「な、何を仰るか! この王宮は建国以来五百年、一度も揺らぐことなく……」
「揺らがなかったのは運が良かっただけだ。見てみろ、この基礎石。ただ置いてあるだけで固定すらされてない。それにこの土壌……湿気が溜まりすぎてスカスカだぞ。専門用語で言えば『豆腐の上に家を建ててる』ようなもんだ」
盆山がバールで地面を軽く突くと、ボコッという嫌な音とともに、石畳が簡単に沈み込んだ。宮廷建築師たちの顔から血の気が引く。
「五百年分の『神の加護』で無理やり形を保ってたみたいだが、その加護もさっきの聖塔のショートで不安定になってる。……おい、レルちゃん。この下の地盤図、ホログラムで出してくれ」
「了解ですぅ! 『地質調査モード・透視スキャン』、ポチッとな!」
レルちゃんが指を鳴らすと、地下の構造が青白い光の立体図となって現れた。
そこには、王宮の重みに耐えきれず、今にも崩落しそうな空洞や、地下水の異常な噴出箇所が赤く点滅していた。
「……これだ。この『地盤沈下』の予兆を、あんたたちは『神罰の予兆』とか言って祈ってたんだろ? 祈る前に排水ポンプを回せってんだ」
盆山はヘルメットの顎紐を締め直し、腰袋から『神域の注入プラグ』を取り出した。
「よし、工程表を組むぞ。まずは地盤改良(薬液注入)。そのあと、柱一本ずつに『免震ダンパー』を噛ませる。ポチ、タマ! 出番だ。この重い王宮を、ジャッキアップするぞ」
『ワオン!』
『ギャウ!』
ポチが巨体で王宮の梁を支え、タマが熱線で基礎の鋼材を一瞬で焼き切る。
「王宮を持ち上げる」という神話級の暴挙を、盆山はただの「ジャッキアップ作業」として淡々と進めていく。
「さあレルちゃん、特製の『神域グラウト材(超速硬・高強度セメント)』を用意しろ。一気に地盤を固めるぞ!」
「はーい! 『神様のカチカチ・コンクリート』、流し込みまーす!」
レルちゃんが空間から巨大な生コン車(のような召喚門)を呼び出し、地下の空洞へと純白の液体を流し込んでいく。
それは瞬時に岩盤以上の硬度へと変化し、王宮の土台を文字通り「金剛不壊」の基礎へと作り変えていった。
さらに盆山は、現代日本の技術の粋を集めたような「免震構造」を魔法で再現(レルちゃんが裏でこっそり具現化)し、地震が起きても建物が滑るように逃げる仕組みを構築した。
数時間後。
地下から這い出してきた盆山は、泥を払いながら国王に報告した。
「……とりあえず、震度7までは耐えられるようにしといた。あとは定期的な排水路の清掃だ。これ、清掃用具一式とチェックリストな。ちゃんとやれよ」
国王は、先ほどまで「不敬な職人」と呼んでいた男の前に膝をつき、震える手でチェックリストを受け取った。
彼にはわかっていた。盆山が去った後の足元が、かつてないほど「確か」なものになっていることを。
「……これは、奇跡などではない。真の『知恵』と『誠実』による救済だ……。盆山殿、感謝の言葉もございませぬ」
「感謝なんていい。それより、次の現場だ。……おい、カイル。この大陸、街道の舗装がひどいな。轍に馬車がハマって、物流が滞ってるぞ」
盆山の目は、すでに王宮を越え、大陸を横断する「ハイウェイ」の建設へと向けられていた。
【閑話:レルちゃんの「お掃除」おまけ】
王宮の地盤改良が終わった後、レルちゃんは一人で地下に残っていた。
「えへへ、茂さんがせっかく地盤を綺麗にしたんだから、地下に潜んでる『暗黒の怨霊』さんたちも、お掃除しなきゃね!」
レルちゃんがピンクのバケツに入った「神域の強力洗剤」を床にぶちまけると、地下に漂っていた不浄な呪いや怨霊たちが、「ぎゃあああ! 目が、目がぁぁ!」と叫びながら、フローラルの香りと共に浄化されていった。
「よし! これで王宮の『風通し』もバッチリ! 茂さん、きっと『空気が良くなったな』って褒めてくれるはずですぅ!」
その夜、王宮の住人たちは皆、かつてないほどの快眠を得ることになったが、それが「神様による物理的な洗浄」の結果であることを知る者は、盆山以外に誰もいなかった。
第41章の「垂直方向(塔)」の修理に対し、第42章では「水平方向(地盤)」の修理を描くことで、盆ちゃんの技術の幅広さを強調しました。教国の「神秘」を「豆腐(地盤沈下)」という日常的なメタファーで斬り捨てる盆ちゃんらしさを維持しています。




