第41章:聖塔の絶縁不良と、神域の足場架設
第41章:聖塔の絶縁不良と、神域の足場架設
「……おい、教皇さんよ。あんた、これが『神の奇跡の輝き』だって言ったな? 悪いが、俺の目には『ショート寸前の過負荷』にしか見えんぞ」
聖ルミナス教国の象徴であり、大陸全土から信者が集まる『天を突く聖塔』。
その最上階、目も眩むような黄金の光を放つ魔力結晶を指差し、盆山茂は吐き捨てるように言った。
「な、何を不敬な! これは千年前から輝き続ける聖なる光……」
「千年点けっぱなしなら、なおさらタチが悪い。見てみろ、この基部のひび割れ。魔力が漏れて周囲の空間が歪んでやがる。これ、あと数日で『熱暴走』を起こして、この港町ごと消し飛ぶぞ」
盆山がヘルメットのライトを点灯させ、結晶の根元を照らす。そこには、レルちゃんが「現調(現場調査)」で指摘した通り、不気味な赤黒いノイズが走っていた。
「ひ、避難……避難を! 全国民に避難命令を!」
パニックになる教皇を、盆山は太い腕で制した。
「慌てるな。工期内に収めれば済む話だ。……レルちゃん、周辺300メートルの立ち入り禁止区域を設定。あと、ポチとタマを呼べ。高所作業に入るぞ」
「了解ですぅ! 『立ち入り禁止・工事中』の結界、展開完了! ついでに住民の皆さんには、差し入れの冷えたスポーツドリンクを配っておきますね!」
レルちゃんがパチンと指を鳴らすと、聖塔の周囲にピンク色の「虎ロープ(神格製・物理無効)」が張り巡らされ、神職や騎士たちは強制的に圏外へと押し出された。
「さて……まずは『足場』だ。こんな不安定な塔、そのままで作業できるか」
盆山が地面に大きな杭(アース棒)を打ち込んだ瞬間、大地が震えた。
神域の資材庫から呼び出されたのは、光輝く『オリハルコン製の単管パイプ』。それが意思を持っているかのように空へと伸び、聖塔を包み込むように複雑なジャングルジムを形成していく。
「な……なんという光景だ。聖なる塔が、鉄の籠に囚われていく……!」
外で見守る民衆が跪き、祈りを捧げる。彼らにはそれが、降臨した神が塔を浄化するための儀式に見えていた。だが、実際はただの「安全な作業床の確保」である。
「よし、ポチ。パイプのジョイントを締めろ。タマ、最上部の溶接を頼む。火花を散らすなよ、防炎シートを敷け!」
『ワオン!』
『ギャウ!』
地上数百メートルの高空。風速20メートルを超える過酷な環境。
しかし、盆山は命綱(安全帯)をガチリと足場に掛け、手慣れた手つきで聖塔の外壁を剥ぎ取っていく。
「……やっぱりな。魔導回路がスパゲッティどころか、中で焦げ付いて癒着してやがる。これじゃあ冷却が追いつかないわけだ」
盆山は腰袋から、虹色に輝く『神域のニッパー』を取り出した。
「いいか、レルちゃん。俺がこれからこの『因果の混線』を切り離す。一瞬、大陸中の魔力が止まるが、バックアップ(神格バッテリー)を繋いどけよ」
「任せてください! 茂さんの作業中、一秒の停滞も許しません!」
パチン、と乾いた音が響いた。
その瞬間、西の大陸全ての魔導具が機能を停止し、世界が静寂に包まれた。
だが、次の瞬間――。
「――バイパス手術、完了。絶縁処理、ヨシ!」
盆山が新しい回路(光ファイバーケーブル級の魔導導管)を接続した途端、聖塔はこれまでの不安定な赤光ではなく、透き通った清浄な青白い光を放ち始めた。
熱暴走の予兆だった空間の歪みは消え去り、代わりに爽やかな「マイナスイオンを伴った涼風」が港町全体に吹き抜ける。
「……あ、暖かい光が、優しくなった……?」
「ああ……傷ついていた聖塔が、救われたのだ……」
涙を流す教皇。だが、盆山の作業はまだ終わらない。
「感心してる暇があったら、これを受け取れ。……『保守点検マニュアル・教国版』だ。今後は半年に一度、ここのフィルターを交換しろ。あと、塔の頂上に鳥が巣を作らないように防鳥ネットを張っておいたからな」
盆山は足場から軽やかに飛び降り、ヘルメットを脱いで汗を拭った。
「……さて。塔の修理は終わった。次は、あのガタガタの『王宮の耐震補強』だ。あんな豆腐みたいな基礎じゃ、震度3で全壊だぞ」
西の大陸の「現場改善」は、まだ始まったばかりであった。
【閑話:聖塔の「守護神」の嘆き】
聖塔の深奥、千年もの間「魔力の澱み」として封印されていた古代の邪神が、暗闇の中で震えていた。
「(……我は邪神。いつかこの塔を内側から破壊し、世界を混沌に……って、何だ!? 急に外壁が剥がされたと思ったら、銀色の棒で囲まれたぞ!?
うわっ、何だこの犬! 我を『産廃物』を見るような目で見てる!
ぎゃああああ! あの人間が持ってるハサミ、我の根源(回路)を躊躇なく切りやがった! 痛くはないけど、めちゃくちゃ『整理整頓』されてるぅぅ!
……あ、あれ? なんか魔力の流れがスムーズになって、居心地が良くなっちゃった……。もう破壊とかどうでもいいや……。これからはこの『防鳥ネット』の中で、静かに隠居しよう……)」
盆山の徹底的な「メンテナンス」により、邪神はただの「大人しいバックアップ電源」へと再定義されたのであった。




