第40章:海上の不法占拠物と、西の大陸上陸
第40章:海上の不法占拠物と、西の大陸上陸
「……おい、操舵士。右に3度修正だ。海流の計算が甘いぞ。これじゃあ燃料(魔石)の無駄だし、到着予定時刻が2分も遅れる」
盆山カスタムによって生まれ変わった魔導船『グラン・ゼニス号』のブリッジ。
盆山は腕組みをしながら、最新式のデジタル計器(レルちゃんの神格製)を睨みつけていた。
西の大陸への航路は、かつて「絶望の海域」と呼ばれていた。荒れ狂う嵐、そして巨大な海獣たちがひしめく死の海。しかし、現在のグラン・ゼニス号にとっては、ただの「整備の行き届いていない公道」に過ぎなかった。
「も、申し訳ありません、盆山殿! ですが、この速度……以前の五倍は出ております! 船体が全く揺れないなんて、魔法を超えた奇跡です!」
カイルは震える手で舵を握っていた。盆山が設置した『神域のスタビライザー(ジャイロ機能付き)』により、船内はまるで平地のプレハブ休憩所にいるかのように安定している。
「奇跡じゃない。適切なバランシングと、徹底的なグリスアップの結果だ。……おっと、前方300メートルに『不法占拠物』だ」
盆山が指差した先。
海面を割り、山のような巨体を見せたのは、この海域の主とされる伝説の超巨大クラーケンだった。かつての使者一行なら、見ただけで遺言を書き留めるレベルの脅威だ。
「ヒイィッ! レ、レヴィアタン級のクラーケンだ! 全員、衝撃に備え……!」
「騒ぐな。航路の真ん中で居眠りしてる方が悪い」
盆山は冷静に、ブリッジのパネルにある赤いボタン――『不法投棄物排除』を叩いた。
「ポチ、タマ。ちょっとどかしてこい。安全帯、忘れるなよ」
『ワオン!』
『ギャウ!』
甲板から飛び出したフェンリルのポチが、空中を蹴ってクラーケンの脳端へ肉薄する。続いてタマが小型ながらも高火力のブレスをクラーケンの触手に浴びせた。
パニックに陥る巨大イカに対し、ポチは「現場の荷揚げ」のごとく、その巨体を咥えて航路の外へと「移設」してしまった。
「よし、障害物撤去完了だ。……おい、カイル。今のうちに日報を書いておけ。ヒヤリ・ハット事例としてな」
「ク、クラーケンを『ヒヤリ・ハット』で済ませるなんて……」
数日後。
ついに水平線の向こうに、西の大陸『聖ルミナス教国』の巨大な港が見えてきた。
大理石で築かれた壮麗な港湾。黄金の塔が立ち並び、神聖なオーラが漂っている……が、盆山の目には別の景色が映っていた。
「……なんだありゃ。排水溝が詰まってやがるのか? 岸壁のキワまで潮が上がってる。地盤沈下か、設計ミスか。それにあの塔、耐震補強はどうなってるんだ。あんな細長いもん建てやがって」
接岸する前から、盆山の「現場チェック」が止まらない。
港には、特使一行の帰還を待つ教皇や国王、そして数万の民衆が集まっていた。「伝説の邪神(盆ちゃんのこと)」を説得し、あるいは打ち倒した英雄たちが、ボロボロの船で帰ってくると信じて。
しかし、現れたのは青く輝く見たこともない最新鋭艦。
そしてタラップから最初に降りてきたのは、豪華な鎧を着たカイルではなく、色褪せた作業着に、汚れ一つない白いヘルメットを被った一人の男だった。
「お、おい……あの方が西の海を平らげた救世主様か?」
「いや、でも……腰にハンマーを下げているぞ? 職人……か?」
困惑する群衆をかき分け、教国のトップである教皇が恭しく進み出る。
「遠き地より来たりし神の使徒よ。我が大陸を救う知恵を授けに……」
だが、盆山は教皇の言葉を無視し、足元の石畳をコンコンとブーツの踵で叩いた。
「あんたがここの現場責任者か? この港、タイルが滑りやすすぎるぞ。雨の日に何人転んでるんだ。それと、そこの排水マスの蓋。ガタついてる。指挟んだらどうするんだ」
「は、はあ……?」
「挨拶はいいから、まず図面を出せ。この大陸、一から『整理・整頓・清掃』し直さないと、いつか崩壊するぞ」
西の大陸に、盆山茂という名の「嵐」が上陸した瞬間であった。
【閑話:レルちゃんの観光(現調)マップ】
盆山の後ろで、レルちゃんはワクワクしながらメモ帳を広げていた。
「わぁー! 茂さん見てください! あのキラキラした塔、神様の力が漏れすぎてて、今にも爆発しそうですぅ! 茂さんが『配線不良だ!』って怒る前に、こっそり『安全弁』を付けとかなきゃ!」
レルちゃんがパチンと指を鳴らすと、教国の聖なる塔の頂上に、なぜか「避雷針」と「火災報知器」がニョキニョキと生えていく。
「えへへ、これで茂さんに怒られなくて済みますね! 西の大陸のみなさん、覚悟してくださいね。茂さんの『現調』は、世界一厳しいんですから!」
こうして、教国の「神秘」は、盆山の手によって次々と「施工不良」として修正されていくのであった。




