第37章:現場の熱中症対策と、氷龍の製氷機
第37章:現場の熱中症対策と、氷龍の製氷機
「……おい、全員手を止めろ! 休憩だ! 10時の休憩時間を5分過ぎてるぞ!」
盆山の怒声が、陽炎の立つ工事現場に響き渡った。
場所は、灼熱の魔導火山ふもと。新たな地熱発電インフラ(盆山式・魔力抽出陣)の基礎打ち現場である。
気温は優に40度を超え、地面からは防護靴越しに熱が伝わってくるような過酷な環境だった。
「も、茂さん……あと少しでこの魔石を……」
弟子のアルフレッドがフラフラとよろめき、持っていたスコップを落としそうになる。
「馬鹿野郎! その『あと少し』が事故の元だ!」
盆山はすかさず駆け寄り、アルフレッドの首筋に冷えたタオルを叩きつけた。
「いいか、今のWBGT(暑さ指数)を見てみろ。完全に『運動中止』レベルだ。現場監督として、このまま作業を続行させるわけにはいかん。これは『不安全状態』を通り越して、もはや『災害』だぞ」
盆山が指差した先には、レルちゃんが神格で作成した特製の「環境計測器」が、真っ赤なアラート光を放っていた。
「茂さん、すみません! 皆さんのために日陰を作ろうとしたんですけど、私の光の加護だと逆に後光が射しちゃって、余計に眩しくて暑いみたいで……!」
レルちゃんがピンクのヘルメットを脱ぎ、申し訳なさそうにパタパタと手で仰いでいる。
「気にするな、レルちゃん。直射日光も問題だが、まずは内部からの冷却だ。水分と塩分、そして身体を芯から冷やす『氷』が必要だ」
盆山がそう言った矢先、火山の奥から凄まじい咆哮が轟いた。
現れたのは、この火山の熱を嫌って冬眠していたはずの、古代種『極寒の氷龍』だった。
辺り一面に冷気が吹き荒れ、あまりの寒暖差に空間がパキパキと音を立てる。
「ひ、氷龍だ! 全員退避ー!」
冒険者あがりの弟子たちが腰を抜かす中、盆山だけは「これだ」という顔で龍を見上げた。
「……ほう、いい冷却性能じゃないか。ちょうど冷媒が足りなくて困っていたところだ」
「グルルル……我ガ眠リヲ妨ゲル、愚カナ人間ヨ……凍テツキテ……」
「おい、そこのトカゲ。お前にちょうどいい仕事がある」
盆山は龍の言葉を遮り、腰袋から『現場用・大型インシュロック(結束バンド)』と『防熱シート』を取り出した。
「お前のその冷気、垂れ流しにするのはエネルギーの無駄だ。あそこのプレハブ休憩所に、ダクトを繋いで冷房として機能させろ。あと、その吐息を使って、こっちのタンクに『クラッシュアイス』を作れ。急ぎだ、現場の命がかかってるんだ」
氷龍は一瞬、何を言われたのか理解できず硬直した。
だが、盆山の背後に控えるレルちゃんが、「茂さんの頼みだよ? 断ったら……わかるよね?」と言わんばかりの、宇宙の終焉を予感させるような笑顔で微笑んでいるのを見て、龍は激しく縦に首を振った。
「わ、分カッタ……冷ヤセバ良イノダナ……安全第一、ダナ……」
数分後。
現場の脇には、氷龍が全開で冷気を送り込む「超高性能・急速冷凍室」が完成した。
盆山はそこから大量の氷を取り出し、レルちゃんに指示を出す。
「レルちゃん、『経口補水液』と『塩飴』を異世界商店で追加発注だ。それと、氷を浮かべた水風呂を用意しろ。ポチ、お前は氷を砕いて全員に配れ!」
「わかりましたぁ! 特製『神域のスポーツドリンク』、キンキンに冷やして用意しますね!」
「クゥーン!(アイアイサー!)」
こうして、灼熱の火山現場には、龍の冷気による最新鋭の「エアコン付き休憩所」と、無限に供給される氷による「製氷ステーション」が誕生した。
「ぷはぁー! 生き返る……茂さん、この氷、魔法の味がします!」
アルフレッドたちが冷えたドリンクを飲み、真っ白な氷をガリガリと噛み砕く。
「いいか、休憩も仕事のうちだ。身体が資本なんだよ。……おい、氷龍。お前、そこの角の冷気の漏れ(リーク)が甘いぞ。養生テープを貼るから動くなよ」
伝説の龍を「高性能な家庭用冷蔵庫」のように扱いながら、盆山は満足げに工事進捗表にチェックを入れた。
現場の安全と健康が守られてこそ、良い仕事ができる。それが盆山工務店の矜持であった。




