閑話:神域ホームセンターの日常と、忍び寄る鉄靴の響き
盆ちゃんの日常と、壮大な勘違いが交差する面白いプロットですね!
編集者・校正役として、まずはいただいたプロットをもとに、読者が思わず吹き出してしまうような、そして物語の不穏な空気が絶妙に混ざり合う短編を執筆しました。
「いやぁ、やっぱりプロの道具は違うねぇ」
盆ちゃんは、新しくオープンした『神域ホームセンター』の自動ドアをくぐり、感嘆の声を漏らした。店内は冷房が効いていて快適そのもの。BGMには、どこか神々しい合唱曲が軽快なポップ調にアレンジされて流れている。
盆ちゃんが真っ先に向かったのは、ネジや釘が並ぶ工具コーナーだ。
「家のガタついてる棚、直さないとな。えーと、手頃なネジは……これかな」
彼が手に取ったのは、一本30円ほどの何の変哲もないクロムメッキ風のネジ。しかし、もしここに異世界の騎士がいたならば、卒倒して泡を吹いていたに違いない。
それは、かつて伝説の英雄が一生をかけて探し求め、ついに一片すら手に入らなかったという神の金属『オリハルコン・ノヴァ』を、100%の純度で精錬し、あろうことか精密なネジ山まで切った代物だった。
「おっ、10本入りで280円! お得だね」
盆ちゃんは、一国の国家予算が数回吹き飛ぶ価値の金属をカゴに放り込み、ついでに「道路補修用のアスファルト混合材(神域仕様)」も購入した。
先日、盆ちゃんは自宅前のガタガタだった道を、このホームセンターで買った材料で綺麗に舗装したばかりだ。
「道が綺麗だと、歩くのも楽しいからね」
そんな善意100%の盆ちゃんの行動が、海の向こうでとんでもない誤解を生んでいるとは露知らず。
その頃、好戦的な軍事国家として知られるシュタイゼル帝国の作戦会議室。
「報告します! 王都へ続く未開の荒野に、突如として『黒き大平原』が出現しました!」
偵察兵の叫びに、皇帝シュタイゼル三世は身を乗り出した。
「何だと? あの泥濘の地が、馬車が全速力で駆走できるほどに平らになったというのか」
「はっ! 鏡のように滑らかで、雨が降ってもぬかるみません。これは明らかに、我ら帝国軍を誘い入れるための『侵攻用軍道』に違いありません!」
「ふむ……王都の奴ら、わざわざ我々のために最短ルートを整備して待っているとは。この好機、逃す手はない!」
盆ちゃんが「近所の人が躓かないように」と丁寧にローラーで固めたアスファルトは、今や帝国10万の軍勢を招き寄せる、史上最高の進軍ルートとして認識されてしまったのである。
そうとは知らない盆ちゃんは、伝説の金属(28円/本)で棚を修理しながら、「次は庭に噴水でも作ろうかな」と、さらに事態を悪化させそうな夢を膨らませるのだった。




