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子供のままの婚約者が子供を作ったようです  作者: 夏見颯一


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38.【罪を血で洗う事は意味がなく】

 グリフィスとて年齢的にも自分の祖父が実際に王妃と不倫していた場面を知っている訳ではなかった。

 ただ、バルドルの側近候補になった時、国王から1人だけ呼び出されて告げられた。


「先代マーキス侯爵は王妃と不貞をした。それをどう償う?」


 グリフィスはそれから前マーキス侯爵の行いを調べ上げ、不貞の証拠と王妃の出産に纏わる全ての記録を提出した。

 その際に一切自分達の減刑を懇願しなかった。


 何故かそれ以来、グリフィスはバルドルではなく国王に仕えるようになった。

 公にされる事もなく、父親であるマーキス侯爵も王城で書類整理などの仕事をしていると聞いていただけだった。

 国王は多くは言わなかったし、グリフィスは何も言わなかった。


 前マーキス侯爵と王妃、グリフィスが調べる過程で何を知ったのか。


 それを知るのは国王ただ1人。

 それに意味があるのも国王ただ1人。





 陛下はバルドルに襲われて怪我をしたとメイヴェナ公爵は仰っていました。

 どういう意味かと思っておりましたが、そのままの意味だったようです。


「代理人、ですか」

「ええ。当然法的なものではなく、陛下の望みを叶える代理人だね。何せ陛下はお忙しい」


 少しだけ寂しそうに笑うグリフィスは、以前ケインから聞いた話では近年は家族で集まる日にも姿を見せず、ほとんどを王城で過ごしていたそうです。


「それは前マーキス侯爵が起こした不貞の責任を取っての事?」

「王妃の不貞は陛下の望む所。エリックの存在も公的記録に大々的に書けるから大事な存在だったよ」


 結局、エリック周辺にはいくつ思惑が混在していたのでしょう。

 いつまで経っても大人にならないと私が悩まされてきたエリックは、王妃がいかに愚かな子供を作ったのかの象徴となるべく生かされたと言う事です。

 ……あそこまで行ってしまったのは、明らかに本人の資質でしょうけど。


「……色々聞きたいのだけど、まずはバルドルの事かしら? 何故死んだの?」

「何故? そりゃあ、陛下に襲いかかれば当然だろう。最後まで偽王子だと認められなかったからね」

「偽王子なんて言ってはいけないわ。陛下が結局最後まで認められなかっただけでしょう? バルドルは紛れもなく陛下の実子。前リーノ伯爵夫人の遺書にもあったわ」


 フリードが顔色を変えて私を振り返りました。

 悲しい事ですが、前リーノ伯爵夫人にとってフリードはただの前リーノ伯爵の預かった子供でしかなく、バルドルの『替わりに押しつけられた』エリック以上に、立場を保障する為に結婚した前リーノ伯爵程度にも家族にではなかったのです。


 リーノ伯爵家はとても複雑な家庭でした。


「……そんな物があったんだね」

「自分が死んだらバルドルを殺すつもりだって必死に残したのにね。まさか手紙が届けられる前に偶然だとしても終わっていたなんて、夫人も浮かばれないわね」


 審議会では前リーノ伯爵夫人の行為をあたかも罪人のように語っていましたが、正確には前リーノ伯爵夫人が前メイヴェナ公爵夫人とともにエリックの延命を懇願したから、陛下が引き換えにバルドルを預かった。これが手紙にあった真相です。


「それを事前に見せられたとしても、陛下は信じたかどうか分からないね。何せ最愛の恋人が産んだ子供さえ自分の子供だって信じられなかった方だ。ずっと疑って生きてきて……絶望して後悔するを繰り返している」


 いくら怪我をしているにしろ、罪の告白すら代理人に任せている時点で、陛下は想像以上に救いようのない人間のようです。


「馬鹿馬鹿しい……何もかも疑って信じらないのに復讐? そんなものは自己満足にもならないだろう」

「自己満足の為ではなく、果てしない疑心暗鬼からだね。ラビナレットを暴行した者達にしても今後も同様の事をやるのではないか疑っていたから、罠を仕掛けてどう出るか確認して……まあ、こうなった訳だ」


 流石にあの一連の事件の根本が復讐の皮を被ったただの篩だったとは、私も呆気にとられました。


「あんな風に追い込まれたら、誰だって何らかの道を踏み外すわよ!」

「そうかな? かなり早い段階で結論はついていたけど。ちょっと道筋を作っただけで転がり落ちていくのは私も驚いたね」

「それでも、関係ない者達が巻き込まれたのよ?」

「早いか遅いか。この問題はそれに尽きるね。彼らは遅かれ早かれ問題を起こし、その身内は犠牲になっただろう。貴族として生きるのはそんなに甘くはない」


 貴族は何でも家単位ですから、身内が何らかの問題を起こしたら連座です。

 問題を起こしそうな身内がいた時点で、確かに遅かれ早かれ彼ら彼女らの身には不幸が襲いかかっていたでしょう。


「それでも、元の問題に関係のない人間を巻き込むのはおかしくない?」

「だから慈愛院を建てたのにね。誰も救済策を使わなくてちょっと残念だったよ」


 母も使ったら良かったと言っていた慈愛院。

 それが作られたのは、確か10年くらい前だと……。


 大きなため息をついて、それまで黙って話を聞いておられた第2王子殿下がグリフィスを睨み付けました。


「お前、どれだけ関わっているんだ?」

「さあて?」

「言い方に腹立つな。お前、そんな疑い深い父上に前マーキス侯爵の孫でありながらよく信用されたな!」


 グリフィスは笑っていました。

 数歩の距離があるだけなのに、割れたガラスを挟んだ私達は不思議とどうにも遠くあるように思えて仕方ありません。


「信用されていないよ。だって、陛下と一緒だった前リーノ伯爵夫人に向かって「その女も別の男と寝ている」って嘘をついた前マーキス侯爵の孫だから」


 祖父の罪をグリフィスは、恐らくマーキス侯爵達の方は知らない内に問われていたのです。


「何でそんな嘘をついたんだ?」

「可哀想な女性を助けたら罪に問われてね、その仕返しの一言を言ってしまったらしいね。人間追い詰められると、言ってはいけない一言が出てしまうらしい」


 前マーキス侯爵の事故死はやはり陛下の下した罰ですか。

 王妃の醜聞が欲しくて不貞を望んでいたのに、いざ不貞が真実となるとその相手を罰する神経が分かりませんね。


「王妃もその頃に?」

「何度も逃げようとしたらしいからね。まあでも、ここなら可哀想な王妃様でいられるだろうけど、外に逃げ出していたらどうなっていたんだろうね。そっちの方が余程陛下の望む相応しい結末になったろうにって言ったら、物凄く悔しがってた」


 陛下とは距離があった第2王子殿下とフリードは、何とも言えない顔をしています。

 信用されていないと言いながら、話を聞く限り陛下とグリフィスの仲は良さげで、陛下の感覚が捻くれているようにも思えました。


「そんな身近にいる貴方の為に、陛下はバルドルを殺したカルナートの罪を偽王子を討った忠臣という全く逆の構図に変えたのね?」


 グリフィスの表情は崩れません。

 ただ、最初の一報が出てしまった時点で、カルナートを導いたグリフィスにも想定外の事態だったと思うのです。


「いいや。全部正しいよ。陛下に襲いかかったバルドルをカルナートが殺した」




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