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子供のままの婚約者が子供を作ったようです  作者: 夏見颯一


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28.【だから殺されなければいけなかった】


 公爵令嬢に婚約を持ちかけるなんて、容易い気持ちで行うものではありません。

 特に婿入りなんて全くもって気楽なものではありません。


 婚約した時点で生まれるメリットは公爵という立場に合わせて大きくなり、デメリットも然りです。

 婚約がなくなった時のデメリットに至っては、婚約時の有形無形のメリットの反動の分桁違いとなります。

 ケインも侯爵令息なので別段説明など必要ないと父は思っていたようですが、マーキス侯爵家を見ていると果たして何処まで理解していたのか。


 失敗が即座に失脚へ繋がる王城で生きてきた第2王子殿下は、私がケインに機会を持たせる事に不満げな顔をしております。


「わざわざ最後に篩をかける意味なんてあるの?」

「最後だからです。私の婿になり得る程度の覚悟を理解しているならよし、無理でも温情をかえる程度であるのか、愚か者で突き放すだけで良いか。どれに値するかはっきりさせるだけです」

「あのな。ヒルダを選ぶかどうかなんて質問、間違える者がいるわけがない」

「さあ、どうでしょう?」


 正解はたった1つしかなく、殿下からしたら簡単過ぎるでしょうね。

 私を選ばなかったらデメリットに家ごと潰される。

 実にこんな簡単な事さえ分からない貴族がいるとしたら、まだまだ幼い子供かしら?


「私が思っていたより、ヒルダは現状に切れていたんだね」

「あらあら、現状を把握した後に『次』を考えていただけです」


 ケインを紹介したフリードも思う事があったでしょう。

 私も女性としてケインに仄かな愛を感じていたので事前に相談もなかった裏切りに一度は泣きました。

 ですが、公爵令嬢は基本的に愛以外のもので動くように出来ているのです。


「次は何が起こって、何をするべきか。ケインがカルナートに迂闊に何を持ちかけたのかは知りませんが、もう少し結果を考えて欲しかったです」

「ケインが何をしたのか知ってるんだ?」

「ただの行動の逆算です。カルナートをバルドルとの対面にまで動かすとしたら誰が最も無理もなく誘導出来るかを考えれば、自ずとケインだと分かります」


 カルナートはプライドが高く扱いづらい反面、素直でした。

 自分よりも目下であると思っている者から頼られれば、直ぐさまよく考える事もなく行動に移すでしょう。


「ケインという者がどんな人物かは知らんが、グリフィスが疑われていると知っていながら、グリフィスの部屋から出てきた手紙を信じたらしいな。私ならバルドル由来なら何でも疑うし、何なら死んだという事も疑っている」

「今回は死んだ事は確認が取れています」

「分かっている。だが、ここまで父はバルドルを王太子に据えるなど厚遇を続けてきたのに、ここに来て何故切り捨てる? 私には意味が分からない」


 役に立たなくなったにしても、確かにあんな形で殺してしまうのは行き過ぎでしょうね。

  ここまで話してきて、私はふと思った。


「ねぇ、バルドルは本当に陛下の子なのかしら?」

「ああ……そこは説明していなかったか。バルドルは陛下の子でもないが王妃の子供でもない。王妃が側妃よりも先に子供を産んだと言う実績の為に用意された子供らしい」


 王家の事情というのは本当に面倒な事です。

 ラビナレットの事を知った今なら陛下も加害者との間に子供を作る気なんてなかったと推測出来ます。

 残念ながらバルドルは王妃として留め置く為の材料として扱われていた、と言う事でしょうが、ちょっと不自然な気がしました。


「バルドルが偽物の王子だったとして、王妃が子供を妊娠し産んだ事からして全てを偽る事って本当に出来るものなのでしょうか?」


 フリードも殿下もぴんと来ていない顔をしております。

 王族の慣習を考えれば出てきそうな疑問なのに、この2人こそ本当に王族なのでしょうか。


「いくら陛下が関わっているにしても、王妃が子供を産む過程と赤子の両方を神殿が確認して初めて王子を産んだとされるのですよ」

「つまり?」

「少なくとも王妃は妊娠はしていたと思うのです」


 いくら公爵家に何らかの密約があったにしろ、王妃に懐妊も確認されない状態で現れた赤子を王子として認める筈もありません。

 噂が我慢出来ない貴族達からも、バルドルがあれこれ言われていたのは母である王妃の出自のみです。


「まあ、ここら辺は私の母にでも聞けば分かる事でしょうが、少なくとも王弟であるメイヴェナ公爵は事件を聞いた時もバルドルを心底心配し、全くバルドルの出自を疑っている様子もありませんでした」

「いや、それだと寧ろバルドルと同時期に王妃に子供がいた事になる! 王妃の部屋で見つけた書き付けに『側妃よりも先に子を産んだ実績の為に用意された子供』って書いてあったんだ。つまり……」

「ケインの事を貴方達はとやかく言えませんね。よく王妃の部屋にあった書き付けを真実だと思い込めましたね」


 第2王子殿下は想定外の指摘でしたのか、茫然としておられます。

 フリードの方は書き付けの内容を多少は疑っていたようで、極端に驚いた様子はありません。


 根本的にそんな物が手に取りやすい位置にあった事からして疑うべきなのですよ。

 事件の切っ掛けとなったケインがカルナートに持ちかけた図式とほぼ同じ形になっている事にも呆れてしまいます。


「真実を混ぜた嘘は見抜くのが難しい。これもグリフィスの考えだったら私も道化だったという事だ」


 自虐的にフリードは笑い、


「それで、グリフィスは何を得すると言うんだ?」


 これには私も殿下も何も答えられませんでした。

 これまでグリフィスを捕まえられなかった理由は証拠の有無は勿論として、グリフィスが関わる為の動機らしい動機がなく、得る利益らしきものも見当たらないからです。

 そして、今回身内を利用するに至り、グリフィスの利益は一層見えなくなりました。




 あまり怪我人と長々と話してはいけないとリーノ伯爵家の使用人の方に忠告され、私とフリードは殿下の部屋から退室しました。

 サロンへと向かう廊下で、


「ねぇ、フリード。貴方、リーノ伯爵家に来たのっていつ頃なの?」

「うん? それはどういう意味だろう?」


 とぼけているという訳ではなさそうですね。

 とは言え、つい私も睨んでしまいます。


「勿体ぶらなくても良いから」

「言うかどうか迷っているだけです。分からないのは寧ろ家族をやっていたからでしょうね。……バルドルとエリックは同じ年でしょう」


 執拗にエリックが王家から暗殺の機会を窺われていた理由が、長らくどうしても分かりませんでした。

 エリックが本物の王妃の子だから、ここに来て私はそれ以外考えられなくなりました。


 フリードが否定するかもしれないと思いましたが、サロンについても何一つ言葉を発する事なくソファに沈み込みました。


「フリード?」

「……いや、腑に落ちた。今はそれを事実として処理している所だ」

「私は色々おかしい点もある気がしたのよ」

「何もおかしくない。王妃の子だから早く殺されるし、勉強する必要もなければ、まともな社交もいらない、導く必要もないから注意しない。前リーノ伯爵夫妻がヒルダとの婚約を喜んだし拘ったのは、ディアーモ公爵家に守って貰って少しでも長く生きられないかと思っていたんだ」


 一息で言い切ったフリードは、荒い呼吸を何度かしました。


「入れ替えたんだよ!」


 それはまだ、ただの事実。

 この場の私とフリードには、その事実以上の事は分かりませんでした。




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