地味で自信のないわたくしは婚約解消されました。王妃様の「我儘」で侍女に大抜擢!努力で美しく変わる地味令嬢の逆転ラブストーリー
どうして、どうしてそうなったの。
わたくしはわたくしはわたくしは…‥‥
クララ・マイルド公爵令嬢は、夜会の会場の中央で泣き崩れた。
クララの婚約者であるジェイド・レトス公爵令息に捨てられたのだ。
婚約解消を言い渡された。
ジェイドは金髪碧眼の美男だ。歳はクララと同じ18歳。
ジェイドは色々な令嬢にモテる。夜会でも婚約者であるクララが一緒にいるのにも関わらず声をかけられる位に。
彼は婚約者がいるのでと、クララとだけダンスを踊ってくれるけれども。
クララは茶の髪に緑の瞳の地味な顔立ちだ。
だから、いつも自分に自信が持てなかった。
その上、いきなり婚約解消を言い渡されたクララ。
ジェイドはこれ見よがしに、クララの妹のアリーヌと現れて、
「お前のような女は私の婚約者にふさわしくない。だから婚約を解消する」
どうしてどうしてどうして???わたくしは一生懸命、レトス公爵家に行って、公爵夫人について色々と学んだわ。いずれ、公爵家に嫁いでも大丈夫なように。
レトス公爵夫人も、
「クララがしっかりしてくれるから安心ね。早く嫁いできて欲しいわ」
そう言ってくれたのに、わたくしが地味だからって、大人しいからって。
確かにわたくしは地味でおとなしいかもしれない。
でも、公爵夫人としてしっかりするように、勉強中だわ。
まだ年は18歳よ。
未熟なのは仕方ないじゃない。
それなのに。わたくしを捨てるなんて許せないわ。
クララ・マイルド公爵令嬢は、マイルド公爵家の長女だ。
母が亡くなったのは生まれてすぐ、父はすぐに後妻であるレティアを迎えた。
レティアはクララに対して、あまり関わりたくなかったらしく、クララを育てるのは全て乳母に任せて、食事の席でも夫であるマイルド公爵とばかり話をしていた。
二年後に妹のアリーヌが生まれて。
地味な茶の髪のクララと比べて、アリーヌは母譲りの金の髪の可愛らしい赤子だった。
皆、アリーヌに夢中になった。
父も義母も、使用人達も。
アリーヌのことばかり可愛がって。
でも、クララの事を虐げていた訳ではない。
きちっと公爵令嬢として対応し、それなりに接した。
父であるマイルド公爵も、前妻の娘であるクララに対して、家庭教師をつけ、しっかりと教育をさせた。
「娘は政略の駒になる。ふさわしい教育を施さなければな」
クララは食べる物も着るものも教育も、妹と差をつけられることはなかったけれども。
愛情は全てアリーヌに注がれる寂しさに、いつもいつも泣いていた。
アリーヌは美しい。
成長すればする程、薔薇が開くように、アリーヌの美しさ、華やかさに磨きがかかる。
アリーヌとは仲が悪い。
というか、話を屋敷の中ですることもない。
父と義母とアリーヌと食事は一緒に取っているが、父も母もアリーヌばかりに話しかけて、自分には話しかけてこない日常。
サビシイサビシイサビシイ。
わたくしが美しくないから?アリーヌみたいに可愛くないから?
わたくしが美しかったら、お父様もお義母様も愛してくれるの?
わたくしが華やかだったら?愛してくれるの?
涙が零れる。
そんなとある日、
「アリーヌに、マイルド公爵家を継がせる。お前はマイルド公爵家に相応しい婚約者を選んでおいた。ジェイド・レトス公爵令息だ。お前はレトス公爵家に嫁ぐ事になる。ジェイドとお前は同い年の17歳。年頃も丁度いいだろう」
と言われた。
ジェイドの事は知っている。ただ、話をした事もない。
王立学園当時、クラスは違えども、とても美しい男子生徒がいると噂になっていた。
それがジェイドだ。
遠目で見て、胸がときめいた。
あんな人がわたくしの婚約者になったらどんなに幸せか。
でもでもだって、わたくしは愛されていない。
父や義母からはいないものとして扱われてきた。
愛情なんてこれっぽっちも感じた事はない。
妹だって話なんてした事もない。いつも馬鹿にしたように、わたくしを見ていて。
そんな妹アリーヌが、珍しく食事の席で話しかけてきた。
「わたくしも婚約する事になったのです。リード・ユテル伯爵令息ですわ。リードはそれはもう優秀で。我がマイルド公爵家の、わたくしの婿にふさわしいって。でも、お姉様の婚約者ジェイドは凄い美男で。わたくしが婿を取る立場でなかったら代わって欲しいわ。わたくしジェイドと結婚したかった。憧れの人ですもの。お姉様はいいわね」
と言われた。
優越感に浸る。
アリーヌは美人だ。でも、ジェイドはわたくしの婚約者になったのよ。
貴方が婚約者になりたかったジェイドはわたくしの物なのよ。
ジェイドに会える日が待ち遠しい。
わたくしはレトス公爵家にふさわしい女性になるわ。
勉強に一生懸命励んだ。マナーも完璧にこなせるよう、努力した。
そんなとある日、初めてジェイドに会った。
「ジェイド・レトスです。お会いできて光栄です。これは私から薔薇の花束を」
真っ赤な薔薇の花束を貰えた。
真っ赤な薔薇の花束。なんて美しい。それに比べてわたくしは‥‥‥
「有難うございます。でも、わたくしにふさわしくありませんわ。わたくしは美しくありませんから」
「そんな事はない。君のような顔立ちは好みだ」
「ああ、やはり、わたくしは美しくないのですね?」
「いやその‥‥‥でも、薔薇の花はプレゼントにふさわしいだろう」
「ええ、でも、薔薇の花が可哀そう。わたくしのような者に貰われて」
ジェイドは美しい。ああ、とても嬉しい嬉しいのに。
わたくしなんてふさわしくない。
わたくしみたいな美しくもない女性はジェイドにふさわしくないんだわ。
会うたびに、ジェイドに対して、劣等感が出てしまう。
彼がプレゼントをくれても、そのプレゼントの美しさに、心が負けてしまうのだ。
わたくしに貰われて薔薇が可哀そう。わたくしは美しくないから…‥
わたくしはわたくしは‥‥‥
ジェイドが顔色を悪くするのが解る。
でもでもだって。わたくしは貴方の事を愛しているの。でも、わたくしは普通の顔で、美しくもなくて。
父や義母に愛されなくて。家族から話しかけられない位に、
寂しくて寂しくて。
ああ、お願い。そんな顔をしないで。
わたくしはわたくしはわたくしは。
レトス公爵家に行き、公爵夫人について、公爵家の事を学ぶ。
公爵夫人は、
「貴方はとても一生懸命、勉強してくれるし、マナーも完璧で。貴方が嫁いできてくれて嬉しいわ」
と言ってくれた。
わたくしを認めて下さる公爵夫人。
心が温かくなる。
わたくしのような、誰にも愛されない普通の容姿の女を、公爵夫人は認めてくれる。
レトス公爵夫人が、お茶会に連れて行ってくれた。
ディアナ王妃の茶会である。
そこで、ディアナ王妃に、紹介してくれた。
「息子ジェイドの婚約者のクララ・マイルド公爵令嬢ですわ。努力家で、とても優秀ですの」
ディアナ王妃は、クララに向かって、
「ディアナよ。よろしくお願いね」
と挨拶された。
色々な夫人達と優雅に話をするディアナ王妃。
とても美しくて、高貴で。黒髪をアップにして、キラキラ輝くティアラが美しくて。
ああ、あんな人になりたい。でも、わたくしなんて無理ね。
沢山の人に囲まれて、皆に愛されて。わたくしだって愛されたい。
サビシイサビシイサビシイ。
ディアナ王妃が、茶会が終わった後、クララを呼んで。
「貴方のお母様のマリアとは、仲が良かったのよ。同じ王立学園で一緒に学んだの。亡くなった時は辛くて。マリアの娘に会えて嬉しいわ」
ディアナ王妃がまるで、亡くなった母と重なって。
肖像画でしか知らない母はクララと同様に美しくもなかったけれども、王妃様の優しさが嬉しくて。
思い切り、王妃様に縋って泣いた。
ディアナ王妃はクララの背を優しく撫でながら、
「また、お茶会にいらっしゃい。貴方とゆっくりお話をしたいわ」
「わ、わたくしがまた来ても良いのですか?」
「楽しみにしているわ。レトス公爵家に嫁ぐそうね」
「ええ。わたくし、公爵子息夫人として、将来のレトス公爵夫人として頑張りたいです」
「わたくしも力になるわ」
「有難うございます」
嬉しかった。ディアナ王妃の笑顔が、とても、亡くなった母に似ているような気がして嬉しくて涙がこぼれた。
自分がお茶会に行っているうちに、婚約が解消された。
夜会で宣言されたのだ。
ジェイドの傍には妹のアリーヌがいて。
場所を移してテラスで、話し合いをすることにした。
三人でテラス席に座る。
クララは泣きながら、
「酷いわ。婚約解消するなんて。わたくしに相談もなく」
ジェイドはクララに向かって、
「私が嫌だったから解消したんだ」
アリーヌが、クララに、
「わたくしが婚約者になります。お姉様」
「酷い。アリーヌの方が美人だからって、やはり貴方は美人が好きだったのね。わたくしのような冴えない女なんて、初めからどうでもよかったんだわ」
ジェイドは不機嫌そうに、
「そんな事はない。私は君の顔が好きだと言った。でも、君はひねくれて私の言葉を受け取って。私はきちっと会話が成立する相手と結婚したい。まだ、アリーヌ嬢がどんな女性だか知らないが、婚約は結ばれた」
アリーヌはクララに向かって勝ち誇ったような顔をして、
「わたくしなら、ちゃんと会話を成立させるわ。レトス公爵家の為に頑張ります。お姉様はお呼びではないわ。家に戻って泣いているがいいわ」
「許せない。アリーヌ。わたくしは貴方の事が大嫌いだったのよ」
アリーヌに掴みかかった。ジェイドは羽交い絞めにして、
「レトス公爵家の使用人を呼んでくれ。誰か来ているだろう。クララを連れ帰って貰うように」
アリーヌはジェイドにしがみついて、
「まぁ怖いわ」
ジェイドはアリーヌを抱き寄せて、
「君は私が家に送ろう」
クララは使用人に連れられて、馬車に押し込められた。
妹にジェイドを盗られてしまった。
婚約を解消されてしまった。
酷い酷いわっ。
馬車の中で大泣きした。
家に戻ると父に抗議した。
「わたくしに相談もなく、婚約解消?わたくしが美人でないから?お父様はアリーヌのことばかり可愛がっていましたもの」
父であるマイルド公爵は不機嫌そうに、
「お前の性格に問題があると、レトス公爵家から婚約解消を申し出てきたんだ」
「わたくしの性格のどこがいけないというのです?」
「ジェイドはお前と一緒にいると、疲れると言っていた。会話が成立しないと。お前の性格に問題があると」
「わたくしが悪いのではないわ。わたくしが美しくないのが悪いのよ。わたくしが美しくないからみんなして、わたくしをっ」
部屋にクララは閉じこもった。
わたくしの何が悪いというの???わたくしのどこが???
涙がこぼれる。
解らなかった。
ただただ、今は、ジェイドとアリーヌが憎い。憎くて仕方ない。
ジェイドに捨てられて悲しくて仕方ない。
美しくない自分が大嫌い。
美しい人達なんて滅びてしまえ。
そう思えた。
一週間後、勝手にディアナ王妃の侍女になる事が王命により、決められてしまった。
荷物を持って、王宮に向かう。
厄介者を追い払うように、父マイルド公爵は、
「マイルド公爵家には親戚から養子を迎える。二度と帰って来るな」
義母レティアも、
「せいぜい、王妃様に気に入られるように頑張ることね。帰って来ないでいいわ」
と言われた。
妹のアリーヌは口端を引き上げて、
「わたくしは今、幸せよ。ジェイドに愛されて。お姉様は王宮で頑張って頂戴」
と、言われた。
皆、大嫌い。でも、いいわ。家を出るのだから、顔を見なくてすむ。
王宮へ行けば王妃ディアナが出迎えてくれた。
「わたくしの我儘で貴方を侍女に決めてしまってごめんなさい。どうしても貴方の事を放っておけなかったの。婚約解消したと聞いたわ。これからはわたくしの傍で、役に立って頂戴」
と言われた。
侍女と言っても、ディアナ王妃の傍に控えて、物を渡したり、スケジュールを伝えたりする仕事をすることになった。
ディアナ王妃の傍にいて、一日中、彼女の行動を目にすることになる。
いつの時もにこやかに、凛としていて。国王陛下と共にいるそのお姿は、クララの目に強く焼き付いた。
ロイド王太子に声をかけられた。
黒髪碧眼のロイド王太子はクララより、三歳年上だ。
「母上は凄い努力家なんだ。寝る間も惜しんで、勉強した。隣国やその周辺の国々、言葉。マナー。知識は裏切らないと。母上は美しいだろう。どうしたら美しく見えるか、顔だけではない。スタイルも気を配っている。完璧でいなければならない。ルド王国の王妃として。そんな母上も昔は気が弱い女性だったそうだ」
「そうなのですか?」
「それを変えたのが君の母上だ。君の母上のお陰で王妃になれたといつも言っているよ」
「わたくしのお母様。肖像画でしか知らないわ」
「前向きな方だった。二人は学生の頃、ライバル同士で共に高め合った仲だそうだ」
「わたくしは、自分の容姿に自信がなくて。わたくしなんてといつも思っているのです。わたくしは誰にも愛されなかった。寂しくて寂しくて。家族の中でもひとりぼっちで」
「努力すればいい。努力した女性は美しい。君の性格に問題があったから、婚約を解消したと聞いた。確かに君は美しくはない。平凡な顔立ちだ」
「ああ、そうなのですね」
「でも、顔が美しくたって、どうしようもない屑が沢山いるだろう?中身が空っぽな女だっているだろう?私は内面から滲み出る美しさが好きだ。それに顔は化粧で少しはごまかせるし。私を見ろ。凄い美男という訳ではない」
「それでも整った顔立ちですわ。素敵なお顔です」
「もっと努力しろ。知識は裏切らない。高みを目指せば自ずと、顔に美しさが出る。私はそう思っているよ」
「努力しろですか?」
「君が過去の自分の言動を反省して、しっかりと前を見据えたら、一緒にダンスを踊ろう。王太子とダンスを踊る。栄誉だろう」
「いえ。わたくしみたいな女が王太子殿下とダンスを踊るなんて」
「その言動がいけない。努力します。王太子殿下にふさわしいように、ダンスを踊れるように努力します。それだろう?そうしたら君に髪飾りをプレゼントしよう」
「わたくしみたいな女にプレゼントされる髪飾りが可哀そうですわ」
「緑が映えるな。君は茶の髪だから。エメラルドの髪飾りをプレゼントしようか」
「でもでも」
「そこがいけない。有難うございます。嬉しいですわ だろう。髪飾りをつけて微笑む君は最高に美しいはずだ」
「わたくしが微笑んでも」
「美しい。そうだろう?私がそう言っているんだ」
強引にそう言われて、何だかおかしくなった。
「強引ですね」
「私は王太子だからな。今、婚約者募集中」
「そういえば、王太子殿下のお兄様。廃嫡されたんでしたね」
「母上も嘆いている。隣国のハニートラップに引っかかって、婚約破棄を婚約者の令嬢に宣言したんだからな。仕方が無い。第二王子の私が今や王太子だ。結婚するつもりはなかった。私は色々な国を回って外交官として王国の為に役立ちたかったのに」
「ロイド王太子殿下なら、婚約者に困らないでしょう」
「母上は君を考えているよ」
「えええ?わたくしですか?わたくしのような自分に自信のない女を?」
「しっかりと母上の傍で学ぶ事だ。努力することだ。クララ。期待しているぞ」
わたくしのような女が。誰にも愛されなかった女が???王太子殿下の婚約者に?
家柄的には申し分ないけれども。
亡き母は前向きな女性だった。
もっともっと母の事をディアナ王妃様に教えて貰おう。
わたくしでも生まれ変わる事が出来るの?
愛される事が可能なの???
涙が溢れる。
クララは決意した。
努力をしよう。自分の性格を変えよう。
もっともっともっと高みに登る為に。
愛される為に頑張ろう。
そう思えた。
ディアナ王妃に亡き母の事を色々と教えて貰った。
「貴方はマリアに愛されていたのよ。マリアは貴方が生まれるのを楽しみにしていたわ」
生まれてすぐに亡くなった母。
ディアナ王妃は膝に甘えるようにクララに言ってくれた。
「きっと女の子ね。クララって名付けるわ。生まれたら沢山可愛がるの。愛しい愛しいわたくしの娘‥‥‥早く生まれて来て。愛しているわ」
ディアナ王妃はそう言って、クララの髪を撫でてくれた。
わたくしは愛されていたのね。母に。顔を知らない母。わたくしが生まれてすぐに亡くなった母。
ディアナ王妃は、
「貴方を王太子妃にと考えているわ。自信を持ちなさい。もっともっとわたくしを見て色々と学びなさい。誰も文句を言わせないように、高みに登りなさい」
「でも、わたくしなんて」
「わたくしはマリアがいたから、高みに登れたわ。マリアと学生時代、共にライバル関係で努力したから。わたくしが王妃に選ばれたけれども、マリアが選ばれたかもしれない。貴方も努力しなさい。わたくしなんてと言わないで。貴方の事は、マリアの代わりにわたくしが愛してあげるわ。愛しいクララ。可愛い娘。わたくしの傍にずっとずっといて頂戴」
嬉しかった。亡き母が傍にいるようで嬉しかった。
自分は愛されていいんだ。わたくしなんてと卑下しなくていいんだ。
生まれて初めてそう思えた。
ロイド王太子殿下は、暇を見て、テラスでお茶に誘ってくれた。
「ほら、エメラルドの髪飾り、作ってきてやったぞ」
「有難うございます。とても素敵ですね」
「わたくしなんて言わないんだ」
「わたくしみたいな女でも、愛されていいんだって気が付いたのです。王妃様のお陰で」
「それは良かった。私もクララの事が好きだぞ」
「え?」
「一生懸命生きている所かな。さぁ手を。今度の夜会でダンスを踊ろう。君が過去の自分の言動を反省して、しっかりと前を見据えたら、一緒にダンスを踊ろう。王太子とダンスを踊る。栄誉だろう」
「ええ、わたくしは、反省したわ。ジェイドも手を焼いたことでしょうね。わたくしはジェイドに肯定して貰いたかったのだわ。だから、わたくしなんて、といって困らせた。彼の事が好きだったから」
「私の事はどうだ?」
「王太子殿下ですもの。尊敬こそすれ、まだ解りませんわ。でも、ダンスを踊って下さるなんてとても嬉しいですわ」
テラスで共にダンスを踊る。
ロイド王太子殿下のリードは優しくて。言動では自信満々なのに。
安心して身を任せる事が出来た。
ロイド王太子は、
「もっと、母上の所で学ぶがいい。いずれ私は君と婚約を結びたい。わたくしなんてという言葉は許さない。いいね?クララ」
クララはカーテシーをし、
「光栄でございます。王太子殿下。王妃様の元で精進致しますわ」
数日後、ロイド王太子から贈られた緑のドレスと髪飾りを着けて、彼にエスコートされて王宮に現れた。
皆が驚いて噂する。
ロイド王太子がエスコートしてきたのが、一月前、夜会で婚約解消を言い渡されたクララ・マイルド公爵令嬢だったからだ。
夜会にはジェイド・レトス公爵令息と、アリーヌ・マイルド公爵令嬢が来ていた。
妹のアリーヌはロイド王太子にエスコートされてきたクララを見て、
「お姉様。輝いているわ。あんなに自信満々で。今まで暗い顔しか見たことがなかったのに」
ジェイドも、
「本当だ。なんて美しい。暗い顔をして、わたくしなんてが口癖だったのに」
支度をする時に、鏡に映った自分を見てクララは驚いたのだ。
今夜の自分はとても美しく見える。
それはきっと‥‥‥
ロイド王太子とダンスを踊る。
皆が注目している。
緑のドレスが美しく翻って、蝶々のように、ひらめいて。
ロイド王太子が耳元で囁く。
「綺麗だよ。今宵の君はとても綺麗だ」
「それはきっと…恋をしたから。わたくしは貴方に恋をしたんだわ。ロイド王太子殿下」
「嬉しいね。さぁもっと、ダンスを踊ろう。皆がきっと認めている。君はルド王国の将来の王妃だってね」
ダンスを踊り終わったら、ディアナ王妃が国王陛下と共に近づいて来た。
「綺麗よ。クララ。これからもっと輝いて頂戴。努力は貴方を裏切らないわ」
「有難うございます。王妃様」
妹のアリーヌがジェイドと共に近づいて来て、
「お姉様がロイド王太子殿下の婚約者になるのかしら?先行き、レトス公爵夫人としてかかわる事になるけれども、よろしくお願いね。今宵のお姉様。とても綺麗よ。もっと胸を張って自信を持って頂戴。ルド王国の将来の王妃様になるのなら」
ジェイドが謝って来た。
「すまなかった。夜会の場で婚約解消をしてしまって。おめでとう。王太子殿下にエスコートされたということは、いずれ婚約するのだろう?私はレトス公爵家の人間として、ロイド王太子殿下と君に忠誠を誓うよ」
夜会の場で婚約解消をしてきたジェイド、そして妹のアリーヌ。
心に突き刺さった傷は深いけれども、ジェイドに関してはわたくしが悪かったのだわ。
彼を困らせる言動を沢山した。
妹のアリーヌの事は大嫌い。大嫌いだけれども、凛として対応してきたアリーヌに対して、こちらも大人の対応をしなければならないとクララは感じた。
「有難う。ジェイド。アリーヌ。貴方達の言葉、嬉しいわ」
ロイド王太子も二人に向かって、
「これからも我がルド王国の為に頼むよ」
クララは幸せだった。
ロイド王太子の顔を見て、微笑んだ。
二人は一年後、婚約をした。
まだまだ学ぶべき事は沢山ある。
でも、傍にいて導いて下さるディアナ王妃、そして愛する婚約者ロイド王太子。
クララは自分を高める為に、ルド王国の未来の王妃になる為に、努力し続けるのであった。
自信のない自分にサヨナラするわ。
有難う。ロイド王太子殿下。そしてディアナ王妃様。
わたくしは精進致します。輝く為に。




