4 晴れグラウンドを駆け巡り
前回のおさらい...。『いじめで紫陽花高校に来た』と話した俺は、平静を装いながらも弁当をしっかり食べきり、体育の準備をするために屋上から降りて教室に向かった。そして体育着に着替えた俺は何とか授業に間に合った。
「今日の授業はソフトボールします」
「ソフトボール...」
ソフトボールか...中学生ぶりだな...。確かキャッチボールして、バッティングの練習をして紅白試合をして...って俺は誰とキャッチボールをすればいいんだ?自分の額から地面に向かって一粒の水が落ちる。俺は落ちる瞬間の汗を見ながら考える。俺は不安が嫌い。後先が分からないし、心臓がバクバク震える。
「ボールとバットは柔らかいタイプなので、体に当たっても大丈夫です。ではキャッチボールをしま…」
「中学生の頃と同じやつだ」
「住田くんキャッチボールしよー」
「いや私がするの!!」
「いや私!!」
「わーたーし!」
「え?」
受け入れてくれてる…?俺が?本当に?前の高校ではあんなこと言われたのに?心にポッカリ空いた空間に一つのピースが埋まったような気がした。それと同時に視界がじんわりにじみ始める。涙がこぼれないように一瞬上を見上げて前を向いて言う。
「じゃんけんしてくれ!」
「あれ打てるのすご…」
そして現在紅白戦に至る。両チームにも運動神経の良い人が沢山おり、プロの試合じゃないかってぐらい白熱している。一塁打...二塁打...一塁打...ホームインが続いている。そして何より...みんなバッティングのフォームが良すぎる。出来るけど一応お手本にしとこ...。
「次住田くんだよー!」
「あ、はい!」
俺は柔らかいバットを持ちながらゆっくりとバッターボックスに歩みを寄せる。ソフトボールのためにバッターボックスとかラインを引いてもらってる先生に感謝しないと。俺の得意なスポーツでもあるから。
「ふー...」
息を吐いて緊張をほぐす。中学ぶりにするからドキドキもあるけど、アウトになった時に責められないかで怖い。そういえば他のクラスも体育だったっけ...?一瞬だけ周りを見渡す。やっぱり...2組っぽい...。ってあいつらいるし...!いや集中しないと...。俺は右打席に立ち、バットを構える。現在5-5、1アウト2塁。とりあえず、一球様子を見よう。
スパァンッ!!
速い...。合わせられるかこれ?バットを持つ手が震えている。がんばれ俺...!
「あ、あれたつーじゃん?」
「ホントだ!あれたっくんじゃん!?バットってことはソフトボールかな!?」
「あんたたち集中しなさーい!!」
「詩織ちゃんうるさいよー!いいでしょ別にー!」
見られてることに俺は気づかずに...。一人で打席に集中する。女子から見られているとプレッシャーがすごい。まじでやばい...。
「っ!!」
結果は空振り。まずい、追い込まれた。投球上手すぎる...!ていうかこの学校の生徒が全体的に運動が上手い。いや次は皆の期待に応えられるようにしないと...!
シュッ!!
「ここだっ!!」
振りかぶったバットはボールを捉える。そしてボールは弧を描きながら高々と舞い上がり、野球場で言うレフトの後方に落ちる。その間に俺は1塁を蹴り、2塁に向かう。そして2塁に居た女子が帰塁。
「すっごーい!!」
「3塁行けるよー!!」
ボールは中継に受け渡そうとされている。その間に俺は2塁を蹴って、3塁に向かう。右打席でも3塁に行けた人は、プロ野球でもあまり見たことがないけど、期待に応えられるなら...。俺は...俺は好きな居場所が出来たんだ!だったら俺が出来ることはこれしかない...!!
「えっ!?ホームベース狙ってる!?」
「本当に!?」
女子が驚きながら俺を見ている。でも関係ない。3塁を蹴った俺はホームベースを狙う。心が叫んでる。全力で楽しむんだ!!って。あんな虚無な人生より楽しんだもん勝ちだって。
「やった!!」
不意を突かれた中継は送球時にボールが少し浮き上がりその間に俺は帰塁。右打席のランニングホームランなんて珍しすぎる。そして7-5となり、俺はゆっくりと打席の順番の待つ場所に行く。
「住田くんすごっ!!」
「運動得意なの!?」
「あ...うん...」
チラッと2組を見ると、偶然綾香と目が合ってしまう。おそらく2組はサッカーか...?綾香は一瞬だけ俺に手を振り、またサッカーに集中する。なんだあいつ...?何がしたかったんだ?ま、いいか...。
「楽しかったー!」
「ねー!!」
「住田くんすごかったね!」
「まぁ、うん」
結果は7-6。あの後に1点入れられてしまったけど、勝利した。ちなみにまだランニングホームランをした自覚は無い。変な爪痕残してしまった。時々ハイテンションになるから...。その後はチャイムが鳴って授業は終わった。
「着替えるか...」
っと危ない。そのまま教室に行くつもりだった。そしたら...『変態!!』って言われてたかもしれない...。俺本当に馴染めるのか...?
「トイレで着替えるのもめんどくさいし...」
校舎を歩きながらふと周りを見ると空き教室がある。そうだ、ここで着替えよう。俺はドアに手を置き開く。そして俺は...それが人生の危機に迫るなんて思ってもいなかった。
「えっ...」
「たつー!?」
「ちょっと...!」
「あんた今私たちが着替えてるところでしょうがぁぁ!!」
主な登場人物
住田竜司:主人公。紫陽花高校1年1組。誕生日は7月3日。16歳。
福留結希:紫陽花高校1年2組。誕生日は11月18日。15歳。
水月心寧:紫陽花高校1年2組。誕生日は5月13日。16歳。
一ノ瀬綾香:紫陽花高校1年2組。誕生日は6月2日。16歳。
桃瀬詩織:紫陽花高校1年2組。誕生日は8月21日。15歳。