23 金曜日と進む時間
おさらい。SM診断で終わった。
例えば、風邪などの病気になると時間の流れが、ゆっくりになってしまう感覚に襲われる時が誰でもあると思う。俺も...今もこの感覚だ。
俺はアラームを止めてベッドから起き上がり、カレンダーを見つめた。
「まだ15日か...」
7月4日から紫陽花高校に転校して、まだ約2週間しか経っていない。それでも...いや...
「あいつらってあんなに距離近かったか...?」
俺にとってこの2週間は、頭の中に鮮明に残っていた。数えきれない出来事が、俺を襲った。何度も漫画で見た、恋愛のような展開が起こった。...分からない。分からないけれど...変な感情が生まれている気がした。うつ病になって穴の空いた心に、何かが少しずつ埋まっていっていた。
「恋は、病気に勝つことが出来るのか...?」
誰も居ない部屋で、俺は無意識に呟いていた。俺はハッと我に返り、目覚まし時計を見た。
「7時...15分...」
俺は目覚まし時計を確認したのち、ゆっくりと準備を始めた。
「はぁ...今日はだるいな...」
俺は歩きながらも俯いて、溜め息をついた。昨日は何もなかったのに...いや、厳密にいえばSM診断を行ったのだが、楽しかった...気がするし...原因が分からない。とても、体が重い。校門を通り抜け、靴箱に向かう為に歩く。その時だった。
「あ、おはよ...」
「おはよう...」
横から現れて挨拶をした綾香に、俺は小さく挨拶を返した。
「どうしたの...?」
「いや...なんでも...」
何かに気づいた綾香は、俯き気味に歩いている俺の前に来て、立ち止まった。綾香に道を塞がれた俺は、足を止めた。
「何かあった...?」
綾香は俺の顔を覗き込んで言った。それに対し、俺は顔を上げる。
「いや本当に何もなくて...」
「ホントに...?」
「俺...情緒不安定だからさ...今日はちょっとアレで...」
俺の言い訳のように発される曖昧な言葉に、綾香は違和感を抱いたように眉をひそめた。
「たまには休憩も大事だよ...?」
「いや...大丈夫だって」
綾香はそう言って俺の右手をそっと握った。
「...え」
俺は戸惑って何をすればいいか分からず、一歩後ずさろうとしたが、すぐに引き寄せられた。数秒間の沈黙が襲った後、綾香がようやく口を開いた。
「...サボらない?」
「...は?」
突然、綾香から発せられた言葉に、俺は唖然とした。絶対にそんなことは言わないと思っていた綾香が、言った。しかも、ハッキリと。
「リラックスは重要だよ...ほら...」
「ち、ちょっと待て...!!学校...!!」
そのまま綾香に引っ張られ、一度通った校門を通り抜ける。俺はただ引っ張られ、綾香の背中を見ながら何をするのかを、ただ見守るしかなかった。
「お...おい...本当に大丈夫なのかよ...?」
「大丈夫でしょ...多分...」
数分して、俺たちは大通りに出ていた。周りを見渡すと車が沢山通り、人が歩道で歩いている。まず、2人でサボって制服の状態でこの場に居ることがおかしい。
「たまにはリラックスも大事だよ...最近忙しかったでしょ...」
「いや全然そんなことは無くて...それより学校...」
綾香は「はぁ...」と溜め息をつくと、俺の右手を、また握った。今度はさっきの様じゃない。時々よく見る。恋人繋ぎだ。
「はっ...!?」
「ちんたらしてないで行くよ...たっつ...」
「くっ...」
綾香は俺から顔を逸らした。俺は違和感を抱きながらも、綾香に視線を移すが、ここから見える頬は薄っすらと赤みを帯びていた。
ゆっくりと流れる時間の中、この瞬間、少しだけ時が止まったような気がした。
主な登場人物
住田竜司:主人公。紫陽花高校1年1組。
福留結希:紫陽花高校1年2組。
水月心寧:紫陽花高校1年2組。
一ノ瀬綾香:紫陽花高校1年2組。
桃瀬詩織:紫陽花高校1年2組。
Ry77「今はほのぼのしてるかもしれないけど...」




