1 雨降る夜の配信者
連載中の他作品と交互に投稿していきたいと思います。
7月3日の日曜10時天候悪く雨が降る中で俺は、誕生日ということで急いで階段に駆け上がり、自分の部屋に入ってパソコンの電源を付け、予定をしていた配信を始めた。バースデー配信ということなので普段よりも視聴者が多く、配信としては成功だろう。
「今日は俺の16歳の誕生日です。祝ってください!」
俺は顔出し系ではないし、あまり有名でもないが、1つの夢として全力で頑張っている。ちなみにチャンネル名は『たつノオトシゴ』で周りからバレないように活動している。俺の懇願に承諾するようにコメント欄からは、祝福のコメントで溢れかえっている。
『おめでとう』
『おめ』
「お祝いコメントありがとうございます」
感謝の気持ちを述べて、軽い雑談をする。軽い雑談といっても視聴者の感謝の気持ちや俺の周りの身に起こったことなどを。
「いつも配信を見たり聴いたり聞いたりしたくださって、ありがとうございます!俺の生きがいは配信です!」
『すごいテンション高いですね』
チラッと見たコメントに背筋が凍る。本当はあまりテンションが高くない。いや、高くできないっていうか、マイクの前でテンションを高くしているだけだ。そのコメントに反応するようにぎこちなく笑い返信をする。
「テンション高い...ですね...!ははっ...」
1時間後に配信を終了した俺は、パソコンの電源を切り、自分の部屋のドアから出て、洗面所に向かう。
「たつじー?」
1階から呼んできたのは俺のお母さんだ。返事をして急いで階段を駆け下がり、リビングに向かう。
「なに?」
「明日は紫陽花高校でしょ?だから早めに寝て明日に備えなさい」
「そっか手続きはしたんだった。でも友達出来るかな」
「前の学校と違うから心配しないで」
俺は明日から違う学校に通うことになる。久しぶりの高校に友達ができるのも不安だが...。俺は俯き気味に頷く。
「うん...わかった」
返事をして歯磨きを終え、部屋に戻り睡眠薬を飲んで眠りにつく。
「ふわぁ...」
7月4日の月曜日の朝、あくびをしながら起床し制服に着替え鞄を持ち、向かった先は紫陽花高校。親が手続きをしてくれたものであまりどういう高校か分からないが...周りを見渡す限り、やけに女子生徒が多くないか...?ずっとニヤニヤと見られてるんだが...?調べておけば良かった...。
「じゃあ転校生を紹介するわね」
先生の合図にドアから入ってきた俺は眉をひそめながら1年1組の教室に入る。うん本当に何故だ...?男子が居ない...。俺は教卓の前に来て自己紹介をする。
「住田竜司です...。よろしくお願いします。それで質問なんですが...」
俺は後ろに振り返って先生になぜ女子しか居ないのかを訪ねてみる。うん、調べなかった俺が悪いが...。
「なんで男子がいないんですか...?」
「知らなかった?ここは去年まで女子高だったの。でも今年は男子が誰1人入学してこなくてね!」
「は…?」
茶目っ気たっぷりに笑う先生に俺は呆れながら指定された席に着き、そのまま俯く。
「悪夢を見ているに違いない...」
「住田くん男子一人って可哀そうだねー」
「住田くんって彼女いるのかな?」
俺を見ながらヒソヒソ話をしている。本当に漫画のような展開があるのか...前の高校では嫌われて、この学校ではモテるのかよ...?急な正反対な生活をしろと言われても普通の生活がしたいんだが...。
「ねぇねぇ彼女いる!?」
「住田くんってイケメンだねー」
まずい...いつの間にか俺の机の周りに女子達が...!逃げたい...また何か言われるかもしれない...!
「ちょっと...トイレ...!」
話を逸らすように俺は急いで立ち上がって教室から出る前に、先生が俺に向かって話す。
「ちなみに男子トイレないから職員用トイレ使ってねー!」
「遠すぎません...?」
不満を漏らしながら教室を出て一人で歩く。あ、トイレ聞くの忘れてた...。前に早歩きしている4人組がいるからその人たちに聞いてみるしかない...。俺は早歩きしている4人組に恐る恐る近づく。
「遅刻しちゃったー!やばい怒られちゃうー!」
「ゲームで夜更かししちゃったから...!」
「すいません...職員用トイレってどこにありますか...?」
恐る恐る質問する俺にその四人組は驚いて目を丸くする。そのうちの一人が俺の質問を答えてくれたように指をさす。
「あっちですが...もしかして噂の転校生ですか...?」
「そうですが...ありがとうございます...!」
逃げるようにトイレに向かおうとした時に、なぜかわからないが俺は引き留められる。俺は何もしてないはずだが...。
「ちょっと待って!」
「はい...?」
予期していない引き留めに素早く振り返ると俺は小学生の頃に仲が良かった女子達の面影がその4人と重なって浮かび上ってしまう。あれ...何でだ?何で俺は今こんなことを思い出してしまっているんだ?
「もしかしてたっくんだよね!?」
「え...俺が昔心寧に呼ばれてたあだ名...まさか!?」
その途端に窓から風が吹き、4人の髪がなびく。違う...面影なんかじゃない。本当にいるんだ。俺の前に小学校の時の幼馴染達が...!!
「ここねだよな!?」
「うん...!そうだよ!」
シルバー色の髪を揺らしながら心寧は俺に近づいてくる。俺の小学生時代の仲良い友達の1人だ。懐かし過ぎる。
「え!?たっつ!?」
「お前綾香か!?」
心寧に続くように綾香は茶色の髪を揺らしながら俺に近づいて興味深々に俺を見つめる。心寧と同様に俺の小学生時代の仲良い友達の1人だ。
「たっつって誰だっけ...?あ!たつーか!」
「あ...!その呼び方は結希か!」
待て待て何でたっつで分からないんだ。あいつら仲いいはずだし昔俺と遊んでいただろ?そして黒髪を揺らして俺に近づいてくる結希。俺の小学生時代の...省略しとこう。ってどういうことだ!そんなに近くで俺のこと見たいのか!?
「なんでアンタがいるの!?」
「詩織!これは違くて...!」
桃色の髪を揺らしながら段々近づいてくる詩織。あいつは俺にちょっとキツかったはずだ...!また罵倒されるんじゃ...!
「何が違うか言ってみなさいよ!!」
「すいませんすいません!あと俺の呼び方やっぱ独特だし!見た目めっちゃ変わってるし!まずここの校則緩すぎだし!」
「あんたに関係ないでしょ!!」
転校初日から最悪な始まり方だ。でもこいつらと居ると安心感がある。暗い性格の俺が俺じゃないみたいな感じになってしまう。昔よりすごい見た目が変わって最初は気づかなかったが、俺がうつ病から抜け出すことは出来そうになった。そう思うと俺は少し笑みがこぼれたような気がした。