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9話 効率的な業務フローの構築

――「申請書が消えた? またか……!」


俺が魔王城に来てからというもの、改革案に取り組む一方で、日々の業務にも頭を抱えていた。

最大の敵は、“システムの混沌”だ。


前世の会社では、業務フローというものが存在していた。

発注→承認→発送→受領→確認――と、手順を踏んで仕事が進んでいた。

しかし魔王軍には、“あるようでない”それが、問題だった。


文官たちは口を揃えて「それは〇〇部署の仕事だ」と言い張り、

末端の兵士は「よく分からないから放置してます」と諦め、

最終的に責任の所在は誰にもない。


これはもう、「業務の迷宮」だ。


「よし、一度、全部見直そう」


俺は腹を括った。


まず最初に行ったのは、“全業務の棚卸し”だ。


各部署に赴き、どんな仕事を誰がしているのかを洗い出す。

会計課では「予算案を作る人」「提出する人」「承認をもらう人」がバラバラ。

兵站部では、倉庫番が“発注リスト”を手書きで書き、それを使い魔が空を飛んで伝えていた。


「……そりゃ、ミスも起きるわけだ」


次に取り組んだのは、“情報の見える化”だ。


俺は前世の知識を応用し、魔導パッドを活用した「業務フローチャート」を作成。

どの仕事がどこで止まりやすいか、どの処理に時間がかかっているかを、色分けで可視化した。


「おい、この赤い部分――物流の承認遅れって、あんたのとこじゃないか?」


「げっ、こんなに止めてたのか……!」


「それを解消するには、承認を1段階減らせば済むんだ。

魔王直轄の発注に限って“副官承認で進行可能”にすればどうだ?」


「なるほどな……それなら早い」


このように、“人の顔が見える状態”で話し合いを重ねた。


そして、次に導入したのが、「統一業務ポータル」の試作だ。


文官も兵士も、発注も連絡も、すべての業務を一元化する魔導端末アプリ。

魔法陣をベースに、誰でも使えるようにUIを工夫した。

使い魔風のAIアシスタント“ミミ”が案内してくれる。


《こんにちは! 今日は魔法水の補充申請が遅れています!》


「うわっ、喋った!? いや、便利だなコレ……!」


「ミミ、在庫状況と消費率も表示して」


《了解! 在庫残り24%、推定あと4日分です!》


現場の兵士たちも、最初は戸惑っていたが、

慣れてくると「手書きの報告よりずっと早い」と評価が上がってきた。


リリス様も視察に来た際、驚きの声を上げた。


「ねえ、この“業務フロー”って、魔法と技術のハイブリッドなの?」


「ええ、現代風に言えば“RPA”と“ERP”を足して“魔法”で包んだようなものです」


「難しいけど凄そうね……って、これ一人で設計したの?」


「設計は僕ですが、実装は情報局の技官たちと一緒に。優秀な人材が多くて助かってます」


「なんか、魔王軍が“会社”みたいになってきたわね」


「それが目標です。“強い組織”は、“回る組織”からしか生まれない」


ただ、全てが順風満帆だったわけではない。


「こんなの面倒だ! 前のやり方で十分だろ!」


「新しいものなんて、いずれ壊れる!」


そう反発する者もいた。特に古参の将官や老魔族たち。


俺は彼らにも一人ひとり説明に回った。


「“便利になる”ということは、“余裕が生まれる”ということです。

その余裕が、兵の命を守り、魔王軍の強さを支えるのです」


「……本当に、そうなるのか?」


「それを証明するのが、僕の仕事です」


改革の本質は、“人を変えること”ではなく、

“人が変われる仕組み”をつくること。


最初から完璧など求めない。大事なのは、少しずつでも前に進むことだ。


数週間後――


業務フローの刷新によって、以下の成果が見え始めた。


・発注から納品までの平均時間、10日→5日に短縮

・物資の滞留率、30%減少

・業務報告の正確性、約40%向上

・書類紛失件数、ほぼゼロに


「やった……これで、“形”になってきた」


魔王陛下からの視察依頼も入り、いよいよ改革案の“成果報告”ができる段階に入った。


けれど、それは同時に“さらなる試練”の始まりでもある。


その夜、執務室でリリス様がぽつりと呟いた。


「ねえ……改革って、終わりはあるのかしら?」


「たぶん、ありません。でも、終わらせることはできます。

“皆が納得できる形”をつくる。それがゴールだと思ってます」


「ふふ、やっぱり魔王より魔王っぽい」


「また言ってる……」


だが――俺の中にも確信があった。


この魔界で、“仕組み”さえ整えば、誰もが働きやすくなる。

それが、命を守り、未来を創る。


「次は……“教育制度の整備”かな」


俺は次のフローチャートを描き始める。

秘書の仕事に、ゴールはない。


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