69話 創造の根への旅路 ―決戦前夜―
氷嵐が吹き荒れる白銀の大地。
そこは《コル・ニヴァル》――あらゆる生命が忌避する、極北の果ての禁地。
アークたちは、神殿の鏡が示した「創造神ノゥア」の眠る場所へと旅立った。
その道中、夜の焚き火の中で、一行は静かに想いを語り合っていた。
ミカが毛布を肩に巻きながら、口を開く。
「……ねえ、アーク。もし“神”が本当に存在していて、それがすべての元凶だったとしたら……あなたは、どうするの?」
アークは静かに火を見つめたまま答える。
「僕は“誰かのために傷つけられる世界”を、もう見ていられない。相手が神だろうと、同じだ。――変える」
カイが少し茶化したように笑った。
「お前、ほんと昔と変わったよな。冷静で、何考えてるかわからなかったのに。今は……ちゃんと怒るし、泣くし、笑うようになった」
「それは……お前が真正面からぶつかってくるからだろ」
「へへ、まあな!」
ミカも微笑む。
「……この旅が終わったら、私、魔王軍でちゃんと働こうかな。秘書室、拡張していい?」
「むしろ歓迎だよ。人手不足だし」
「そっちじゃなくて、“一緒にいたい”って意味なんだけど」
そう言って、そっと火に薪を足した。
アークの目が少し揺れる。
「……ありがとう、ミカ」
翌朝――空が白む頃、彼らはついに“黒き塔”へとたどり着いた。
重く、寒々しい空気。
まるでこの世の終わりのような沈黙が漂っている。
リュミエルが警告する。
「ここは“概念”すら凍る場所。心を乱せば、自分が自分でなくなる……注意して」
アークは一歩踏み出す。
「……わかってる。でも、進まなきゃいけない。ここで立ち止まれば、もう何も変えられないから」
塔の扉がゆっくりと開かれた。
黒い闇の奥、微かに感じる“声”――それは囁くように、誰かの名前を呼んでいた。
《……アーク……》
彼の背に、黒き羽根が一瞬だけ現れた。
「この声……!」
ミカがすぐそばに駆け寄る。
「アーク、しっかり! 神の影響かもしれない……!」
「大丈夫だ。僕は僕だ。……ここにいる皆が、それを教えてくれた」
カイが前を睨みつける。
「行こう。“神”が何者だろうと、答えを見つけるのはこの目だ」
扉が完全に開かれる。
その奥には、かつてない静寂――
そして、“創造の真実”が待っていた。




