68話 世界を創った者、そして最初の裏切り
神殿の大鏡が再び脈動し、まるで意思を持つかのように淡い光を放つ。
巫女リュミエルが、ゆっくりと口を開いた。
「……この世界には“創造神”が存在したと伝わっています。全ての種族を形づくり、世界に法を与えた存在……」
アークが険しい表情で問う。
「だが……私はその神を見た記憶がない。七種族が語る“神の名”すら、互いに異なっていた」
リュミエルは頷く。
「それこそが、“最初の欺瞞”なのです。真にこの世界を創った者の名は、すべての記録から意図的に“消された”。」
勇者カイが口を挟む。
「じゃあ……俺たちが“正義”として信じていた神すら、虚構の存在だったってことか?」
「信じるために造られた偶像に過ぎなかったのかもしれません」
ミカが苦々しく呟いた。
鏡が映し出したのは、さらに太古の時代。
天の果て、創造の源たる“白き虚空”――
そこには、ひとりの存在が佇んでいた。
その背には、天も覆う光と闇の双翼。
「――“ノゥア”。」
リュミエルがその名を口にした。
「世界の創造主にして、すべての秩序を設計した存在。だがその“ノゥア”こそが、世界の分断を生み出した“最初の裏切り者”だったのです」
アークが目を見開く。
「創造主が……この世界を“壊す側”だったのか……」
リュミエルは静かに語り続けた。
「彼はこう言いました。『争いこそが進化を促す』と。そして七種族に“均衡の崩壊”を与えた。知恵、力、欲望――それらは全て“試練”として仕組まれたものだったのです」
「それじゃあ……俺たち勇者が信じてきた“神の使命”って……」
カイの拳が震える。
「誰かの“実験”だったってことになるな……!」
アークが一歩、鏡に近づいた。
「だとすれば……僕は、今度こそ抗う。僕を異端とし、争いのために世界を操った創造者に対して――」
ミカが静かに言った。
「私も戦います。信じてきたものが間違いだったとしても……信じたい“誰か”を、私はもう見つけたから」
彼女の視線は、まっすぐアークに向けられていた。
リュミエルが頷く。
「ならば、“最後の試練”へと向かう時です。創造神ノゥアは、今もこの世界のどこかに存在している。そして……」
鏡が激しく脈動し、ひとつの場所を映し出した。
「――“創造の根”へ至る道が、開かれようとしています」
【鏡に映る場所 ― 極北の大地】
氷に閉ざされた地、吹雪の彼方に聳え立つ黒き塔。
その塔こそ、“神が眠る”とされる禁断の地――
「……行くしかないようですね」
アークが静かに呟く。
「“世界を終わらせた神”に会いに」




