67話 黒翼の誕生、千年前の裏切り
「……時をさかのぼりましょう」
巫女リュミエルの声が、静かに“鏡の間”に響いた。
神殿の中央に浮かぶ大鏡が、淡く光り始める。
そこに映し出されたのは、かつて栄えた“七種族統合時代”――千年前の世界だった。
議場には、人間、魔族、天族、獣人、ドワーフ、エルフ、そして竜族の代表が一堂に会していた。
その中心に、黒髪の少年――翼を持たぬアークの姿。
「私は……この七種族が手を取り合い、争いのない未来を築くべきだと思う」
少年アークは訴えていた。
「力ではなく、言葉と心で――」
「愚か者め! 魔の者が人間に説教など!」
天族の長が怒声を上げる。
「この者は、どちらの側にも属さぬ“異端”だ。血も出自も不明……神の恩恵を受けぬ者を、我々の中心に据えるなど――!」
「……アークを“契約の鍵”にするべきではなかった」
竜族の代表が低くつぶやく。
少年アークの表情が曇る。
「僕は……皆を信じていたのに……!」
ミカが拳を握りしめる。
「アーク様は、ずっと皆のために動いてたじゃない……!」
巫女リュミエルが静かに続ける。
「だが、その理想は拒絶された。七種族は恐れたのです。“力を持たぬ者”が新たな調和を導くことを。そして……」
鏡が赤く染まる。
「ついに、“裁き”が下された日。アークは……裏切られ、封印されたのです」
「異端者アークよ、そなたは“神なき者”と認定された」
天族の審判が告げる。
「我々はそなたに、封印の翼を――“黒き契約”を与える」
「……それは……っ!」
少年アークの背に、苦痛とともに漆黒の翼が現れる。
その瞬間、天が裂け、大地が震えた。
「これが……“黒翼”の、誕生……?」
勇者カイが息をのむ。
「アーク様……! そんな過去を……ずっと……!」
ミカの目に涙が浮かぶ。
「……私は、ただ皆と共に未来を築きたかった。それだけだった」
アークがようやく口を開いた。
「でも世界は……それを許さなかった。“翼を持たぬ者”が未来を導くなど、都合が悪かったのだ」
「だったら……今こそ、その呪いを解きましょう」
ミカが前に進む。
「あなたは“黒翼”じゃない。アーク様は、私たちの“導く者”です。私はそれを信じます!」
巫女リュミエルが静かに頷く。
「では、次の試練に備えましょう。“黒き翼”が誕生したその日……その裏で、“真なる裏切り者”がいたのです」
アークとミカが同時に問う。
「裏切り者……?」
「そう。“あなたの封印を仕組んだ真の存在”。それは……この世界の“創造者”そのものかもしれません――」




