64話 神殿への旅 ―封印の地に眠る鍵―
世界会議の中断から二日後――
ミカと魔王アークを含む小規模な特使団が、「神々の遺産」に関わる真相を探るべく、北方の雪山に眠る《古代神殿》へと向かっていた。
「……雪、深いですね。視界がほとんど……」
「油断するな。この神殿は、ただの遺跡ではない。かつて世界を変えかけた“神魔大戦”の中心地だ」
アークの目が鋭くなる。
そしてミカは、肩の雪を払いつつ言った。
「“遺産”の力が真実なら、この地に何らかの“鍵”があるはずです。巫女が動いた理由も、ここにあると私は見ます」
「同感だ。……それに、妙だと思わないか? なぜこの情報が、“今”になって漏れ始めたのかを」
神殿の奥、朽ちかけた扉の前に立ったとき、突然――
《秘書……聞こえるか……》
ミカの頭の奥で、誰かの“声”が響いた。
「……誰? 誰なの、あなたは?」
《記録の守り手。かつての調停者。お前の中に、“鍵”がある》
「鍵って……私が?!」
扉が、ゆっくりと軋みながら開いていく。
「ミカ……?」
アークが声をかけるが、ミカは無言で一歩踏み出していた。
「大丈夫です。行きましょう。……この場所が、未来を変える“始まり”になる気がします」
神殿の奥深くに広がっていたのは、まるで図書館のような“記録の間”。
そこに刻まれていたのは――
「……魔王と勇者が、“かつて共に在った”時代の記録……!?」
ミカが震える声で叫んだ。
記録には、争いが始まる前の姿、互いに手を取り合っていた勇者と魔王の姿が描かれていた。
「これが真実なら……人間と魔族の歴史は、誰かによって“歪められた”ということ……?」
「……黒翼の巫女。いや、もっと古くからの“存在”が関与している可能性がある」
アークの顔が険しくなる。
「ミカ、これを持ち帰って記録として会議に提出しよう。この神殿ごと封印するのではなく、真実を開く“証”にすべきだ」
だが、神殿を出ようとしたその時――
「侵入者、確認。記録の保持者、認証中……ミカ=アスガルド。資格、承認」
ゴゴゴゴ……と地が震えるとともに、巨大な魔導兵器のような守護者が姿を現した。
「おいおい、こんなものが封印されていたのかよ……!」
レオンが剣を抜き、ミカの前に飛び出す。
「ここは俺が食い止める! ミカ、早く出口へ!」
「でも……!」
「秘書なら判断しろ!今ここで滅びるか、真実を持ち帰るかだ!」
ミカは拳を握り、叫んだ。
「……わかりました!レオンさん、必ず迎えに来ますから!」
神殿を脱出し、ミカとアークは急ぎ王都に戻る道を駆け抜けた。
「この記録が世に出れば、世界の認識は一変します。……いいえ、そう“させる”べきです」
「俺も覚悟はできている。だがミカ、お前がここまで導いたことを、俺は誇りに思う」
「……光栄です。魔王様」
冷たい風が、夜明けの空を裂いて吹き抜けていった。
――次なる嵐の前触れのように。




