61話 世界会議の幕開け ―緊張の中での初会合―
光が差し込む高天井の議場――そこはかつて神々が集ったという伝説の「光輪の円卓」。
今、魔王アークとその秘書ミカは、その中心に立っていた。
「……本当に、来るのね。あの人間の王たちも、獣人も、エルフも、ドワーフも」
「ええ。だが忘れるな、ミカ。彼らは味方ではない。利害の一致でここにいるだけだ」
「わかってるわ。けど、これが――始まりなんだよね」
ミカの視線の先、続々と異種族の代表たちが席に着いていく。
「魔王アークよ。我らドワーフ代表、鉄鉱王バルドが参じた」
「ふむ。グランフォル王国、獣人の王タイガも到着したようだ」
扉が重々しく開き、白銀の杖を持った老エルフが姿を現す。
「森の守人、エルフの賢者レイルだ。我らがこの場に来たのは、調停のため」
そして――人間の王国代表が現れる。
「人間代表、第二王子・レオン=アルディス。…ようやく、“敵”と話す時が来たな、魔王」
会場の空気が、ピンと張り詰めた。
「おや……ご挨拶が少々刺激的ですね」
ミカが小さく苦笑したが、心臓の高鳴りは止まらなかった。
円卓の中央に立つアークが静かに手を上げた。
「各国の代表に感謝を。今こそ、我らは争いではなく未来を語るべき時だ」
「未来?笑わせるな。魔族はかつて我が王国の街を滅ぼした。その恨みが、会議一つで消えると?」
レオン王子の声には明確な敵意が宿っていた。
「……我々も同じ。人間の遠征軍により、我が部族は半壊した」
タイガも低く唸るように言う。
「その通りだ。恨みが消えるわけではない。だが、それを乗り越えねば、未来は作れん」
重く響くドワーフ王の言葉に、一瞬空気が和らぐ。
ミカが一歩前に出た。
「私は、魔王軍の秘書――ミカと申します」
「本日は各国の代表に、まず“情報の共有”という意味で提案がございます」
彼女は事前に用意していた、各種族間の歴史認識の違いや魔導核に関する資料を配布する。
「私たちの敵は、過去の争いではなく、未来を壊そうとする“黒影の結社”のような者たちでは?」
ざわつく議場。人間王子も眉をひそめる。
「……君は、魔族でありながら、ずいぶん冷静に物を言うな」
「私は人間に生まれ変わった者です。そして、今は魔族の仲間と共にいます」
「転生者、か」
レオンが興味深そうにミカを見つめた。
そのとき――議場の隅にいた護衛が何かに気づく。
「……魔力反応、いや……これは」
空間が一瞬歪み、冷たい気配が満ちた。
結社か、それとも……?
「会議は、始まったばかりだ。だが油断するな、ミカ。誰が敵かは、まだ見えていない」
「はい、魔王さま」
光と影の均衡の中――“世界の運命”が動き始めた。




