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6話 前世のスキルをどう活かすか

「……この組織図、何だ……?」


俺は目を疑った。


魔王軍の内政部門――通称「魔城行政庁」の組織構成表を、図書館の奥から発掘したその日。

そこには、三重にループした指示系統、被りまくった役職名、そして伝説級の属人主義が、赤裸々に記されていた。


たとえば――


* 予算申請:魔王→大臣→副官→秘書→会計隊長→文官→また秘書→魔王

* 書類保管:炎魔族と氷魔族で別倉庫(互いに立ち入り禁止)

* 決裁印:全13個のうち3つが行方不明


しかも各部署に「大書司」「書類整備官」「補佐書司」など似たような役職が乱立し、役割も責任もあいまい。

これでは、決まるものも決まらない。動くものも止まる。


「……このままじゃダメだ」


俺は決意した。


ブラック企業で培った“社畜力”と“業務改善の知恵”を、今こそ魔王軍にぶつける時が来た――!


まず俺が着手したのは、「業務フローの可視化」だった。


「……秘書殿、これは何の呪文ですか?」


「違う。これは“業務プロセスマップ”だ」


文官長のグラッドに向けて俺は説明を始めた。


人間界でいうところの“フローチャート”を、異世界の魔力図式と組み合わせて作った図だった。


「つまり、この業務は誰がいつ、何の目的で、何を経由して処理するのか。それを明確にするためのツールです」


「……ほう。つまり、“各自が何をすればいいか分かる”ということか」


「そう。そして無駄や重複も洗い出せる」


グラッドは数分黙った後、ふっと笑った。


「人間の秘書は、紙と線で魔術級の混沌を整理できるのか……おそるべし」


次に導入したのは、「定例会議」だった。


「そんなものは要らん。我らはテレパシーで伝え合える」


と反発する魔族幹部たちに、俺はこう言い返した。


「“共有されたつもり”が、一番のトラブルのもとなんですよ」


「ぬ……」


「情報の錯綜と責任の所在の不明確化は、戦場より恐ろしい」


「た、たしかに……前回の徴税騒動は、我ら全員が“他の誰かがやったと思っていた”せいで……」


「はい、それです」


そこで俺は毎週、魔王城の第一会議室にて「部門横断型の定例ミーティング」を開始。

人間界の“朝会”を応用し、「成果・課題・依頼事項」を魔石に記録して可視化。

結果、作業の属人化が徐々に解消され、報連相(報告・連絡・相談)の文化も根付きはじめた。


だが、もっとも反発が大きかったのは、次の提案だった。


「“勤怠管理”を導入します」


「なにィ!? 魔族にタイムカードだとぉ!?」


「俺たちは好きなときに現れ、好きなだけ働き、好きなときに去るのが誇りだぞ!」


「そんなもの、魔族の矜持を踏みにじる行為!」


予想通りの大反発。しかし俺は怯まなかった。


「だから“燃え尽き”や“急死”が続出しているんです! 魔族にも休息と節度が必要なんですよ!」


とある例を挙げた。


氷魔族の書記官リヴは、3日連続で執務室にこもりきり、睡眠も食事も取らず、ついに“霜化現象”で凍結した。


「彼は、“仕事が終わらなかった”んじゃない。“終わらせ方が分からなかった”んです」


その場にいた全員が、黙り込んだ。


「出勤と退勤を明確にする。それは管理ではなく、“尊厳の可視化”なんです」


この言葉で、少しずつ幹部たちは動き出した。


そして最後に俺は、前世で身につけた“最終兵器”を取り出した。


エクセル。


――ではなく、それに相当する魔導式表計算魔法《集計陣式:アーキマグラム》。


これにより、魔王軍の予算、物資在庫、兵力配備、輸送経路がリアルタイムに可視化され、

魔王陛下はついにこう呟いた。


「……秘書。お前は“混沌の帝国”に、秩序という魔法をかけたようだな」


その言葉に、俺は静かに頭を垂れた。

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