58話 封じられた神の遺産 ―空中都市の“心臓”へ―
世界会議で明かされた陰謀の裏には、“神の使徒”と呼ばれる謎の集団と、古代文明の遺産が関係していた。
その鍵を握る場所――それが、空に浮かぶ幻の都市「レクス=アトラ」。
「……ここに、“神の心臓”があるかもしれない」
ミカは地図に描かれた空白の大地を見つめながら呟いた。
「まさか本当に“空に浮かぶ都市”が存在していたとはな。神話じゃなかったんだな」
アークが驚きを隠せず眉をひそめる。
「空を飛ぶ手段はあるのか?」
「あります。賢者エルリナから“転移の羽”を借りました。正確な座標が必要ですが……おそらく、これで行けます」
転移の魔法陣が輝きを放ち、一行は瞬間移動した。
その先に現れたのは――雲海に浮かぶ巨大な浮遊都市。黄金の尖塔と滑らかな白の回廊が、まるで天上の神殿のように連なる。
「これは……ただの都市じゃない……」
ミカが目を細める。
「ここは“機能”している。誰かが……あるいは“何か”が動かしてる」
そのとき、都市の中心から電子音のような声が響いた。
《ようこそ、管理者さま――あなたの認証を確認しました》
「自動音声?」
「いや、これは……魔導AIだ」アークが低くつぶやく。
都市の中央にある“記憶の殿堂”。
そこには、かつてこの世界を創った神々――そして、その力を奪い合った“人間”と“魔族”の歴史が刻まれていた。
《この世界は、魔力により構築されている。しかし、“神”は物質ではなく概念。信仰が具現化した集合意識体だった》
「つまり……神を生み出したのは“人の願い”か」
「そして、その願いが歪んだ時……“神の使徒”が生まれた」ミカが呟く。
「じゃあ、我々が戦ってきたのは……“神”そのものじゃなく、“神を利用しようとした者たち”……」
アークの表情が陰る。
そのとき、都市の奥から震動が走る。
《封印が、解かれます。アクセス権限、管理者コード:ミカ=イシグロ、確認》
「えっ……!? なぜ私が認証されてるの?」
直後、天井が開き、巨大な魔導核――“神の心臓”が姿を現した。
「これが……神の力の根源……!」
その核は脈打つように光を放ち、ミカの存在に共鳴する。
「やめろ! それは危険すぎる……!」
アークが駆け寄るが、光が彼の動きを妨げる。
《この力を継ぐ者――次の“創造者”と認めますか?》
ミカは目を閉じ、深く呼吸を整えた。
「私は、創造者にはならない。けれど、すべてを知る者として――“未来”に伝える責任がある」
その瞬間、魔導核の光が一気に収束し、都市全体の構造が変化する。
「都市が……変わった!?」
《世界への転送回廊、開放。選ばれし者たちに、真実を伝えよ》
足元に新たな魔法陣が現れ、各地へ繋がるポータルが展開される。
「つまり、私たちはこれから……“神の遺産”を通じて、各国に真実を伝える使命を持ったってことか」
ミカはアークに微笑みかける。
「魔王であるあなたと、ただの“秘書”だった私が、世界を変える……変な話よね」
「いや、むしろ……お前が“秘書”だったから、世界が動いたのかもしれないな」
視線が交わり、静かに頷く二人。
神の遺産と陰謀の中心に触れた今、彼らは次なる一歩を踏み出す――“神の名を冠した戦争”を止めるために。




