57話 裏切りと血の条約 ―“神の使徒”の介入―
爆発音と悲鳴が静まり、会議場に重苦しい沈黙が戻る。
倒れていたのは――人間連合代表のグランセル。だが即死は免れ、治療により一命を取り留めた。
「この場に、裏切り者がいる……」
ミカの声に、全員が息をのむ。
「我々魔族の仕業ではない! 私の魔力を感じた者はいるか? それが“証明”だ!」
アークの声が響く。
「だが、誰かがこの会議の破綻を望んでいる。全ての国の“未来”を壊すために」
そこへ、一陣の風が吹き抜けた。
天井のステンドグラスが砕け、黒いローブに身を包んだ者が舞い降りる。
「貴様は……!」
エルリナが驚愕の目を向けた。
「“ヴァルト教団”の――神の使徒!?」
ローブの男は顔を隠したまま、円卓の中央に立つ。
「争え。滅びよ。そして“神”の意志に従え。平和など偽り。力こそが世界の理である」
「戯言を……!」
アークが剣を抜こうとするが、その瞬間――ローブの男が手をかざすと、床から神聖文字が浮かび上がった。
《神託封印陣》――古の封術だ。
「動けば、会場ごと“終わる”ぞ。お前たちは、もう選べない。いや、選ばせないのだ」
重苦しい空気の中で、ミカはただ一つの可能性に賭ける。
「なら――私が“場”を変える」
彼女は懐から、かつて賢者エルリナに託された“封書”を取り出す。
「この中にあるのは、世界各国の闇に通じる証拠。誰が裏切ったのか、誰が“神”と手を結んだのか……すべてここにある!」
「な……!?」
使徒がわずかに動揺する。その隙に――
「アーク、今!」
「了解!」
魔王アークは結界の弱点を見抜き、魔力を集中させる。
ミカはその一撃のタイミングで、封書を空中に放り投げた。
「これが――“真実”よッ!」
爆風とともに、偽りの結界が砕け散る。
結界が消えると同時に、映像魔法が作動し、封書の中身が空中に投影される。
「っ……これは……!」
「我が国の宰相が!?」
驚愕の声が続く。
裏切りの黒幕――それは人間連合の一部指導層と、かつて魔族を迫害した旧王族派だった。
「これは……神の名のもとに、再び支配を目論む者たちの陰謀だ」
ミカは毅然と言い放つ。
静まり返った会場で、レオネーラ(獣人女王)が立ち上がる。
「我々獣人族は、未来を“恐怖”ではなく“対話”で紡ぎたい」
続いて、ドワーフのドゥラッグも声を上げる。
「技術も、鉱山も、力も――奪い合えば枯れる。だが、分かち合えば繁栄する!」
最後に、魔王アークが告げた。
「……ならば、この場に“新たな条約”を。戦争の終結と、各種族の自治権、交易の自由。そして――」
「“魔族”も、この世界の一員として認めることを」
会場に、誰もが見たことのない“未来”が差し込んだ。




