54話 魔王の過去、ミカの未来
― 語られざる“アークの記憶”と、ミカが抱く使命の意味とは ―
“神の使い”が去った夜。魔王城の一室に灯る灯火のもと、ミカはアークと静かに向き合っていた。
「……アーク様。あなたは、ずっと何かを隠している気がするんです」
その問いに、アークはわずかに目を伏せた。
「隠していたというより、語る資格がなかったのかもしれない」
「それでも、私はあなたの秘書です。あなたの“意志”を共にする者として、知っておくべきだと思うんです」
しばしの沈黙の後、アークは口を開いた。
「俺は、もともと“人間”として生まれた」
ミカの目が見開かれる。
「だが、生まれながらに“神の加護”を持ちすぎていた。それを恐れた人間たちは、俺を“魔”と断じ、追放した」
「……まさか……」
「死にかけていた俺を救ったのが、かつての魔王だった。彼は俺に言った――『この世界を変えたいなら、力を使え』と」
アークの声は静かだったが、その奥には深い怒りと哀しみがあった。
「俺が“魔王”を継いだのは復讐のためじゃない。世界の構造――その不平等を壊すためだった」
ミカは静かに問いかけた。
「では……“私”がこの世界に来たのも……偶然じゃない?」
「いや、偶然だった。だが、“偶然”をどう使うかは人の意志次第だ」
アークは微笑した。
「お前が来てくれて、俺は本当に救われた」
ミカは心の奥に、ある感覚を覚えていた。
自分もまた――この世界に“選ばれた”のかもしれないと。
「アーク様……私は、あなたの秘書として、あなたの真実も受け止めます。たとえそれがこの世界すべてを敵に回すことになっても」
「お前がそこまで言ってくれるなら、俺も“迷い”は捨てる。これから先、真実と向き合い、戦う準備をする」
二人は静かに、しかし確かに――心を重ねた。
そのとき、窓の外に小さな光が降った。
まるで祝福のように、静かな月光が二人を包んでいた。
その夜、ミカは日記にこう記した。
「魔王は、人を超えた者ではなく、“人を見限らなかった者”なのだと私は思う。
ならば私は――この秘書という役職を通じて、世界に問い続けよう。
“人”と“魔”は、本当に分かり合えないのかを」
そして朝、ミカは新たな指令書を手に取る。
そこには、次なる地――“中立都市ラドメリア”への外交任務が記されていた。
「さあ、秘書の出番ね。未来は、ここから始まる」




