52話 隠された魔族の歴史
― “真実”を封印したのは誰か?
ミカとアークは、魔王城の地下深くにある「古代図書館」へと足を踏み入れた。
そこには、禁書と呼ばれる文献や、誰も読めない魔族古文の巻物が並んでいる。
「ここは……?」
「先代たちが、“記録してはならぬ”と封印した文献の墓場だ。だが今こそ、その封印を破る時だ」
アークは魔力を帯びた指先で、石碑のような書棚をなぞった。すると光が走り、一冊の黒革の書が浮かび上がる。
『統一の記憶 ― “七種族契約と神の嘘”』
「……“神の嘘”?」
ミカがその書を開くと、驚くべき真実が語られていた。
――太古の時代。
神々は、世界の“均衡”を保つために、七つの知的種族に“力と制約”を分け与えた。
魔族、人間、エルフ、ドワーフ、獣人、天族、竜族――
それぞれが自らの領域を持ち、他者に干渉しないよう誓約を交わした。
「でも、今の世界は対立と偏見だらけですよね……?」
「契約は、最初から“真の共存”ではなく、“隔離と分断”だった」
アークの声は冷ややかだった。
「神々は“均衡”という名のもとに、各種族を監視し、力の均等を維持するため、分断政策を敷いた」
そして、記録の最後にはこうあった。
『アルセグラードは、七種族の壁を超えようとした。それを、神々は“契約違反”とみなした』
「それが……魔族の封印の本当の理由」
「アルセグラードは、“すべての種族は語り合える”と信じていた。それを神々が脅威とみなしたんだ」
「つまり、争いの種をまいたのは――」
「“神々”だ。だが、神は姿を見せぬ。誰も裁けぬ。だからこそ、こうして歴史の裏に封じた」
ミカは震える手で、書を閉じた。
「これが真実なら……アーク様が今、異種族と対話を試みている意味も、ずっと大きくなりますね」
「俺がやっているのは、“かつて果たせなかった遺志の継承”かもしれんな」
「いえ。あなたは、アーク様自身の信念で動いている。“神の意志”でも“過去の遺志”でもない。――それが、今の魔王の力です」
アークはしばらく黙っていたが、ふと微笑んだ。
「……まったく、お前が秘書で良かった」
その夜、書庫から戻る途中――
突如、魔王城の上空に異様な光が走った。
「何だ……!?」
報告が入る。
空間を歪ませて現れた“異なる気配”――それは“神の使い”を名乗る存在だった。
届いた言葉はただ一言。
『“真実”に触れし者に、裁きを――』
ミカとアークは顔を見合わせた。
「来たな……」
「私たちが、“本当に向き合わなきゃいけない敵”ですね」
「そうだ。俺たちの戦いは、“種族間”では終わらない。――“世界の構造”そのものに挑むんだ」




