48話 裏切りと真相 ―揺らぐ同盟、決裂の刻―
会議の崩壊、始まる
翌日。世界会議の場は、重苦しい空気に包まれていた。
「昨夜、旧世界図書館の“聖域の鍵”が何者かに盗まれた」
議長が震える声で告げると、会場はどよめきに包まれた。
「……まさか、魔族の仕業か!?」
「我々の国の守護結界まで崩されたとなれば、それは宣戦布告と同じだ!」
人間王国の代表団が即座に声を上げる。
「証拠もない中で、なぜ我らを疑う!?」
アークの声が、雷のように響く。
「盗まれたのは“魔族の封印”に関する鍵。我々がそれを利用する意味があるとでも?」
「貴様らが、再び世界を混乱に導こうとしていることは明白だ!」
オルトランが声を張り上げた瞬間、エルフの賢者ラシェリルが立ち上がった。
「……やめなさい。その言葉には、すでに悪意が含まれている」
「賢者殿?」
「我が森の者が、昨夜あなたの随員の一人が図書館周辺をうろついていたのを目撃しています」
オルトランの顔が一瞬ひきつった。
そのとき、静かに議場の扉が開いた。
「俺だ」
入ってきたのは、勇者カインだった。
「この場で、真実を話す」
騒然とする中、カインはまっすぐアークとミカに目を向けた。
「“聖域の鍵”を盗んだのは……人間王国の上層部の命令だ。目的は、魔王を陥れ、再び“魔族封印”を復活させることにある」
「勇者よ、何を言っているのだ!」
オルトランが立ち上がるが、カインは冷たく言った。
「黙れ。俺は、お前らの“正義”になど付き合いきれねぇ」
彼の告白は、議場を凍らせた。
「俺は、魔族と共に歩める未来を選ぶ。アーク、ミカ――今度は、俺が“あんたら”を信じる番だ」
「ふざけるなあああああっ!」
怒号とともに、オルトランが短剣を取り出し、議場中央にいたミカへと投げつけた。
――ギィィン!
鋭い金属音。アークが素早く前へ出て、その剣で短剣を弾いた。
「これ以上の侮辱は許さない。これは、国家への攻撃と見なす」
アークの声が冷徹に響き渡る。
「世界会議は、ここにて中断。魔族領は、独立を守るための防衛態勢に入る」
「我らエルフ族も、暴力による支配には加担しません」
ラシェリルが宣言する。
「……俺は、魔王陣営に同行する」
カインも続いた。
「くっ……貴様ら全員、“裏切り者”どもが……!」
人間王国代表団は混乱し、やがて議場から退出していった。
その夜、魔族陣営の一室で。
「……本当に、来てくれるんですね」
ミカはカインを見つめて言った。
「……自分でも、驚いてるよ。まさか“魔王と歩く”日が来るとはな」
アークがそっと微笑んだ。
「君は、選んだんだ。“自分の正義”を」
「それでも、俺は……人間だ。いつかまた、衝突するかもしれねぇ」
「それでもいい。――対話の扉を、君が開いてくれた」
ミカの目に、淡い光が宿る。
セリオンの空に、夜風が吹く。
その風は、北の地でひそかに兵を動かす人間王国の将軍たちにも届いていた。
「準備は整った。“聖域の鍵”は、起動に移る」
「では、あとは“魔王の力”を暴走させるだけ……」
人間王国の陰謀は、なお続いていた。




