44話 七賢者の遺産と試練の間
魔王城の最深部、“封印の間”。
石造りの階段を降りていくミカたちは、ただならぬ緊張感に包まれていた。
「こんな場所が、城の地下に……」
魔導士レミアが呟く。
「ここは千年前、七賢者のうち二人が封印された場所だ。簡単に入るべきではないが……」
アークの顔にも厳しさが浮かぶ。
大扉が開いた瞬間――紫黒の霧が吹き出し、空間の温度が一気に下がる。
「……歓迎の儀、か」
ベルフェが皮肉めいた声を漏らした。
内部には、巨大な水晶体が浮かび、ミカたちを見下ろすように発光していた。
「ここが、“試練の間”……?」
その瞬間、水晶が震え、無数の光が広がる。
現れたのは――若き日のアーク、そしてベルフェ。
「これは……記憶の映像?」
彼らの口から語られるのは、若き魔族たちが“七賢者の遺産”を求め、封印に近づいた記憶。
その末に、一人の賢者が自らを犠牲に、禁術を封じた真実が明かされる。
「我々は……過ちを繰り返していた……」
映像の中のアークが呟いた。
突如、水晶から黒い光が飛び出し、ミカに向かって襲いかかる。
「来るわよ!」
レミアが魔法障壁を展開するが、黒光はそれをすり抜け――ミカの胸へと突き刺さる。
「うっ……!」
次の瞬間、ミカの意識は白い空間に放り出される。
そこで彼女を迎えたのは、かつての地球での“彼女自身”。
「ねえ、あなた……この世界に、本当に必要とされてるの?」
問いかける“もう一人の自分”。
それは、ミカの内面に眠っていた“不安”そのものだった。
「私は……逃げたかった。けれど……もう、迷わない!」
ミカは己の記憶に立ち向かい、両手を広げる。
その瞬間、“神の鍵”が共鳴し、蒼白い光が封印空間を満たした。
「――試練、合格」
水晶がひときわ輝き、空間が安定する。
アークが息を呑んだ。
「やはり……お前は、“選ばれし鍵”だったか」
「……選ばれた、からじゃない。選び取ったの。私は、“この世界”を救いたいって」
ミカの目は、確かに強く、澄んでいた。
水晶が砕け、その中心から、暗い影が現れる。
「ようやく来たな。“神の鍵”……そして“背信の参謀”ベルフェよ」
現れたのは、かつて世界を滅ぼしかけた七賢者の一人――“灰眼のノルダ”。
「我は見ていた。この世界が、再び破滅へ向かう流れをな」
「まさか、あなたが黒幕……?」
「否。“黒幕”などいない。全ては“意志なき流れ”に過ぎぬ。だが、この世界には“器”が必要だ。
すなわち――神に抗う者よ」
ノルダの手がミカへと向けられる。
「その意志、試させてもらおうか?」




